第26話 王師
第5防衛ライン拠点に豪華な馬車が到着していた。周りにはたくさんの兵士が道を作るように列を作っており、5人の隊長と大隊長が前に出ていた。
今日この日は王国の兵士の中で2番目に階級が高い王師が来る日である。現在王国には全員で4人の王師しかいない。そして地位なども絶大で発言力などは王師の上に1人だけ存在する覇師、そしてその上の国王を除けば最もある。
いつもは王都アルミナスで重要な作戦を考えたり、兵士の階級昇格などの話し合いを王師4人と覇師、そして国王と話し合って、最終的に国王が決定するということを飽きもせず毎日やっている。しかし、この日はそんな方がこんな前線に来たことで兵士達に緊張が走る。
馬車の扉が王師に付き添いの兵士が開ける。中から出てきたのは慎重190cmはあり、肩幅が異様に広く、前線で戦っていてもおかしくないレベルの黒髪のベリーショートの30後半であろう男が出てくる。その服は貴族が来ているような高価な真っ黒な服である。襟に階級を示す王国の旗の絵が入った銀色のバッジをつけている。
このバッジは階級を示すために必要なもので、どういう原理か知らないが、鎧への装着も可能である。下から白、緑、青、赤、紫、黒、銅、銀、金である。因みにバッジが渡されるのは上兵からであり、下兵には渡されることはない。
隊長達は大隊長の後ろに引きつられて王師のそばに寄る。 そして、胸に手を当てる。これは自分より階級が上のものにするいわば挨拶のようなものである。もちろん列を作っている兵士達もやっている。
「この度はこんな辺境の地へわざわざ足を運んでいただきありがとうございます」
大隊長はらしくもなく叫びお礼を言う。それもそうである。この方の言葉1つで自分の地位など簡単に地へ落ちるからである。
「迎えわざわざご苦労と言いたいとこだがこれはなんだ?」
その見た目に合わない渋い声は列に並んでいる兵士達を指差す。彼らに緊張が走る。しかし、そんな彼らよりもこの場にいる大隊長がその重圧を受けていた。
「これは私が独断で決めさせてもらいました!」
「独断だと?」
「はい! 兵士達にはグレンツェント王師殿が気持ちよくこの第5防衛ライン拠点の地面を歩いてもらうように配慮しました!」
「そうか、確かにいい判断だ。 私以外では大いに喜ばれただろうな。 だが、私は私だ。 手紙には隊長5人と大隊長の計6人だけで迎えてくるように書いてあったが?」
「申し訳ありません!」
自分が今の地位から落ちないように必死に謝る。その光景はまさに滑稽であった。
(王都のゴミどもよりはましだがな)
今の前線を知らない安楽的な奴らがトップではこの国は勝てないのだ。
「謝るなら行動で示せ。 今すぐ兵士達にいつ敵が来てもいいように配置しろ」
「はい!」
大隊長は兵士達にいつもの配置に着くよう命令する。最初は戸惑っていたものすぐに動き出す。
「戦場はいついかなる時も敵を警戒しておかなくてはならん。 次はないぞ」
「はい!」
「では、案内したまえ」
「こちらです」
大隊長に案内され王師はその後をついて行く。彼の名前はバルハード・グレンツェントといい。王国史上最強の兵士だった。今は腕と足に後遺症が残り前線から身を引いたが、現在の彼を倒せる兵士は一体何人いるのだろうか。
大隊長が自分達が会議をするのに使っているテントに着くと、王師はずかずかと中に入っていく。
「ここで全体的な作戦を決めるというわけか」
「左様でございます」
アーマルが横から自分の出世のために口を挟む。
「お前は?」
「はい、86部隊隊長のアーマル・ゲルフォルミルで御座います」
「今回作戦の変更した作戦立案書読ませてもらった。 その中に森への偵察を立案したのはお前だったな」
「覚えていただけてて光栄です」
「だが、今回用があるのは他のことだ。 だが、とりあえずは席に掛けたまえ」
その命令には威圧感があった。全員それに異議を唱えることなく従った。それを確認した王師は目の前に立ち口を開く。
「まず、スカイアンス大隊長の作った戦闘報告書によると我々が優勢にあるように書かれていたが、それは忘れたまえ」
「どういうことでしょうか?」
「スカイアンス大隊長、お前は帝国が撤退したのはなぜかね?」
「我々の結論と致しましてはこの第5防衛ラインを維持する何らかの理由が森にあるということになりました。 なので、我々は偵察部隊を出す許可を頂く本国に報告書を送らせていただきました」
「そうだな、私が知っていることを教えるとすると森に帝国の兵士がいるということだ」
「「「⁉︎」」」
大隊長達はその事実に驚く。怪しいとは思っていたが、まさかそのようなことになっているとは思わなかったのだ。
「驚くのも無理はない。 なんせこのことを知っているのは王師は私だけなのだから。 さて、本題に入らせて貰うぞ、いいな?」
「はい、いつでも準備はできております」
「さて、私がここに来た理由は森への偵察部隊を送るつもりだからだ。 そう、スカイアンス大隊長が書いた報告書のようにな」
「そういう理由でわざわざありがとうございます」
「それと言っておくが、今回編成する偵察部隊は14つ目だ」
「そ、それは一体どういう--」
「私が自由に動かせる部隊は全部で28部隊だが、この第5防衛ラインに配置した部隊は全てそれに入っている。 お前ら、覚悟はいいな?」
それを理解したサージェスが口を開く。
「犠牲にするというのですか?」
「そうだ」
「何故そのようなことを」
「それほどまでに何をしているのか知らなければならない。 今までわかったのは帝国の兵士がいることと十帝の1人金装がいることだ」
「十帝ですか⁉︎」
エドマは驚きのあまり声を張り上げてしまう。それもそうだろう。十帝とは帝国に存在する覇師直属の兵士でその強さは折り紙つきである。最低でも1度の戦闘で50人は殺すと言われるほどの化け物で、驚くのも無理はない。
「十帝がいるということは何かあると私は踏んでいる。 だから、それが何かわかるまで何度でも偵察に向かう」
「ですが、それがわかった以上危険すぎます!」
アルハードが口を挟むが王師のなんとも言えぬ威圧から黙ってしまう。
「危険なのは承知の上だ。 お前らもわかっているはずだ。 ここまでしないと我々が負けることは見えている。 だったら最後まで足掻こうじゃないか」
「グレンツェント王師殿の意見で私達に異論はございません。 ただ、部隊の編成はどうするのかと」
大隊長が1人で話を進めたことに隊長達は不満を持ったが、王師がいるので黙っている。
「それは私が決めてきた。 45部隊隊長ルカス・セルドルウィン」
「はい!」
急に呼ばれたことにびっくりしたが、しっかりと返事をする。
「最初はお前の部隊から選出させてもらう。人数は30人ほど選出させてもらう」
「わかりました!」
「いい返事だ。 後日メンバーを書いた羊皮紙を渡す。 このことはそれまで黙っておくように」
「了解しました!」
大隊長も隊長達も王師が言っていることに疑問を持つものはいない。しかし、本当の目的はただ偵察をさせるだけではないことをこの中に今は知るものはいない。
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