第25話 後悔は後を絶たず
アリア達は勝利を収めた後拠点で次の戦いまで体を休めるということを幾度となく繰り返した。ナイラルクの体調も良くなってきており、全てがうまくいっているかと思っていた。
しかし、4回目の戦いから帰ってきた時事件が起こった。アリア含めた4人はいつものようにナイラルクの様子を見に行った。だが、そこにあったのはかつてナイラルクだったものだった。ベッドに横たわり綺麗な顔で死んでいたのだ。隅には手紙が書いており自分は全てを背負えないことと死にたいこと、そして謝罪が書いてあった。
それはすぐに隊長に報告され、死体が遺棄されている場所に他の兵士の死体と一緒に並べた。今は4人は並んで歩いているが、そこに会話はない。特にイヴは悩み悩んでいた。どうしてあの時もっと強く言わなかったのか、彼を見張っていなかったのか。
(なんで死んだんだよ…… 死んだら何も残らねぇじゃねぇか。 あたしがもっと言えばよかったのか? 話からねぇよ。 背負えないってなんだよ。 ありがとうって言ったじゃねぇかよ。 ふざけんなよ……)
その想いが彼に届くことはない。もしかすると彼もこんな気持ちだったのだろうか。自分は背負うということを簡単に考え過ぎていたのではないか。彼の気持ちも考えずに追い詰めていたのではないか。
(くそ、わからねぇ。 あたしにはわからねぇよ! 謝るならどうして死ぬんだよ! )
自然と涙が溢れてくる。確かに戦場では沢山の仲間を失うことは覚悟していた。しかし、こんなにも心が痛いものなのか。エリアの時も痛かった。けど、今回は胸が裂けそうだ。
(これが背負うってことなのか? なんなんだこの気持ちは! もし、この気持ちが背負うってことならあたしはナイラルク、あんたみたいに逃げない。 あんたが背負っていたエリアの分まで背負ってやるよ! それがあたしにできる唯一のことだ!)
覚悟を決めたイヴは顔を上げる。他の3人は顔を下に向け俯いている。こんな気持ちを引きずるわけにはいかない。しかし、取り払うやり方もわからなかった。ここは時間が経過して傷が癒えるのを待つことしか今のイヴにはできなかった。
「こんな気持ちは初めてですな。 助けたかったのにギスターヴ下兵を救えませんでした…… もっと早く気づいていれば救えたのでありますかね?」
ゲルネルツのその言葉にイヴは答えようとするがやめる。彼女の心の中に自分の無責任な言葉で追い詰めたくない気持ちが勝ってしまったのだ。
「僕にはそれはわかりません。 ですが、それで責任を負う必要はないと思います。 僕達は彼にやれることはやりました。 でなければ、手紙に謝罪の言葉を残さないと思います」
「そうでありますか、答えてくれて感謝します。 少しは気持ちが楽になりましたぞ」
「もし、困ったことがあれば私にも言ってください。 力になります」
「アリア下兵も感謝しますぞ」
ゲルネルツから感謝の言葉を返された時ふと思った。もしも、イヴなら彼が問うた時に1番初めに答えたのではないかと。そして、喋らないことに疑問を持ち顔を見ると特に異常はないように見えたが、彼女のいつもの笑顔がない。
それぞれの休むテントに別れた後、イヴを呼び出し2人きりになるために人が少ないテントの裏に手を引き連れて行った。
「なんだよ、アリア。 あたしは少し休みたいんだけど」
「申し訳ありません。 少し話したいと思いまして」
「話か…… 手短で頼む。 今日は疲れてんだ」
その声にいつものような覇気はない。イヴはアリアが悩んでいる時話を聞いてくれた。助言をしてくれた。だから、今度は悩んでいるイヴを救うのだと。それが仲間なのだと。
「イヴさん、悩んでいることがあるんじゃないですか? もし、あるなら話してください」
アリアにそう言われたイヴは少し驚く。
「大丈夫だ、あたしが悩むように見えるか? もし、そういうことがあれば話すよ」
「嘘は言わないでください!」
「……」
「私にはわかります。 確かに一緒にいる時間は多くないと思います。 ですが、イヴさんが少し変なのは気づきます」
「アリア、そんなこと言われてもあたしはーー」
「私は何度もイヴさんに救ってもらいました。 辛いことがあれば聞いてもらって、楽しいことがあれば一緒に笑い合いました。 たったそれだけのことですが、私にとってはかけがえのないことなんです。 だから、次は私が助けます。 もし、言わないのであればここを通しません」
その言葉に気付かされた。 仲間が友達がいるというのはこんなにも違うのか。できるだけ、顔や雰囲気に出さないようにしていた。しかし、彼女は気づいてくれた。彼女ならもしかすると一緒に背負ってくれるのかもしれない。気づけば無意識に口を開いていた。
「すまねぇな、アリア。 あたしが自分で言ったことも忘れてるとはな。 できれば背負って欲しくなかったから話さないつもりだったけど、あんたには話すよ。 でも、もしも嫌というならーー」
「大丈夫です、それぐらい弱い覚悟ならとっくにルミサンスに置いてきました」
その言葉はイヴにとって心に響いた。
「ありがとう、アリア。 あたしが今悩んでいるのはナイラルクが死んだのは自分のせいじゃないかということなんだ」
「そんなことありません!」
「でもな、あたし自身はそう思えないんだよ。 自分のせいで死んだんじゃないか、あたしは間接的に殺したんじゃないか。 それしか頭に思い浮かばないんだよ」
アリアは想像以上のことを背負っていたことに絶句する。しかし、すぐに言葉を返す。
「もしそう考えているなら無理に忘れようとしなくていいんです。 もっと辛いほど思い浮かべて苦しんで苦しめばいいんです。 私が全てを受け止めますから! 無理に忘れようとしなくていいんです。 私にその思いをぶつければいいんです。 なんたって私は友達なんですから」
「本当に忘れようとしなくていいのか。 全部受け止めてくれるのか。 苦しんだ方が楽なのか」
「そうです、苦しまないことなんてありません。 だったらそれを乗り越えればいいんです。 1人で無理なら2人で、2人で無理なら3人で。 きっとできます! なんたって私達友達なんですから」
イヴに包み込んでいた何かが壊れていくような気がした。涙が溢れる。自分には友達がいる、共に乗り越えてくれる友達が。そう思うと楽になった気がした。
「アリア…… ありがとうな」
腕を目に擦り付け涙を拭く。
「これぐらい普通です。 涙を拭いたら戻りましょう」
「ああ」
数分後アリアとイヴはテントに戻って行った。それを見ている者がいるとは知らずに……
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