第24話 勝利

次の戦いは3日後に起こった。驚愕的な速さで決まったが、それもこれも帝国の進行が早いからである。帝国は100人以上の死傷者が出ていたのにもかかわらずこれほどの速さで攻めてきたのはそれほど兵に余裕があるのだろう。


3つの国と同時に相手をしてここまで力を見せつけられて改めて帝国の軍事力の強大さを思い知る。痛みは軽くあるが、アリアも今回の戦いに出ている。目の前で繰り広げられる棍棒と棍棒、棍棒と剣の戦いは命と命をかけているので少し怖い。


(今回は1人は倒す。 そうしないといつまでもフォンティルさんに守ってもらわなくちゃいけない。 ここで越える、今の自分を)


アリアも今回は棍棒を選んでいた。 持っている手に力が入る。横にはフォンティルが敵と交戦している。目の前の今まさにこちらに棍棒を振りかぶってくる敵を見据えていた。


(強くなる! 絶対に受け止めてみせる。 ここで死ぬなら致命傷は与えて見せる!)


アリアは棍棒を棍棒で防ぐが、やはりその威力は凄まじい。 転ぶことはなかったものの体が少し吹き飛ばされる。棍棒は少し凹んだものほとんど損傷はない。


敵は休む隙を与えないように叫びながら追撃を行ってくる。その顔は鬼気迫るものだった。


「死ねぇぇぇ! 王国のいぬがぁぁぁ!」


それを再び受け、軽く飛ばされる。それを3回程行ったところでアリアにチャンスが回ってくる。相手が疲れ動きが少し止まったのだ。王国の鎧と比べれば軽いかもしれないがそれを着て動いているのだから疲れるに決まっている。


アリアは隙をつき相手の鎧が空いている顔に両手で持った棍棒で振りかぶる。相手は慌てて防御取り防ぐ。アリアの力では相手を怯まずことなどできなかったのが悔しかった。


(まずい、追撃をしないと)


棍棒を再び振りかぶり殴るといったことを今度はアリアが繰り返す。なかなか相手を殺せないことに苛立ちが隠せなくなる。やがて、疲れてしまい休むようにして相手を見据えながらその場に止まる。


「はぁ、はぁ、やっと終わったか。 はっきり言ってやるお前弱いだろ。 お陰で体力を回復させてもらったぜ」


アリアは敵のその言葉に絶望する。たしかに相手を怯ませるパワーはないが、相手の体力は削れるつもりだった。結果は逆に体力を回復させてしまった。敵は棍棒を下に構えてこちらに向かってくる。


(私は弱い、確かに弱い。 でも、戦争は強いから勝つんじゃない。 勝つから強いんだ)


アリアは棍棒で防御の構えを取る。敵はそれを見てニヤつく。


「死ね! 雑魚が!」


敵の棍棒は頭を狙ったものであり、王国の視界が狭い鎧では避けることは難しい。その棍棒はアリアの頭を直撃するかと思ったその時、横から何者かが敵の頭に棍棒を当て吹き飛ばした。


「アリアさん、大丈夫ですか!」


「フォンティルさん! ありがとうございます!」


アリアは再びフォンティルに守られる形になってしまったが、正直言ってホッとしてる。まさか、この視界の狭さが仇になるとは思っていなかった。フォンティルが戦っていた場所を見ると10人ばかりの敵の兵士が見るも無残な姿で倒れていた。


(フォンティルさん強い…… 私が1人に手こずっている間に10人も……)


つくづく力の差を思い知らされる。別にアリアが弱いというわけではない。フォンティルが強すぎるのである。同期の1回の戦いで倒せる敵の数は平均は2人のところをフォンティルは今回だけでも10人以上倒してるのである。


「アリアさん! 前から敵がこちらに向かってきます! 気をつけてください!」


前を見ると味方の兵士を倒して勢いづいた10人ばかりの敵がこちらに向かってきていた。上を見ると定期的に無数の矢と魔法が飛び交っている。


今回の戦いでは弓兵と魔導兵を導入することになった。数はそこまで多いわけではなく、100人程度だった。射手兵と魔導兵には射程があり、最高射程より最低でも10m下がって戦うように命令されていた。 そのため王国は少し守り気味の戦いを強いられている。


弓の射程は60mほどで魔法は110mの距離の敵を正確に倒すことができる。使い手ならばこれ以上の距離を出すことができるがここにいる兵士達にはこれが限界だった。どちらも放物線を描き弓矢は運が良ければ一撃で敵を倒している。それでなくても相手にかなりの傷を負わせることに成功している。


魔法は距離が長いのはファイアボールが主流でそのほかの魔法は使えても滅多に使わない。ファイアボールの威力は高く、耐熱性の鎧でもない限り1撃で相手を屠っていた。


アリア達に向かってきている敵の数人にも弓矢が肩などを貫いているが、それでもこちらに向かってくる。仕方がないので棍棒を握り敵に応戦する。


アリアが1人に手間取っている間にもフォンティルは1人、2人と相手を絶命させていく。


(私も早く強くなる。 ここで止まっていてはいけない)


相手の棍棒が振りかぶられる。それを受けようと思ったが、いっそのこと力を諦めることにした。敵の棍棒はアリアの受け流す技術によって綺麗に地面を叩いた。体勢が崩れた相手の顔に思いっきり棍棒を叩き込んだ。


流石の相手もこれにはたまらず棍棒を手放し後ろに倒れたが、生きていた。それに追い打ちをかけ、1回、2回、3回と顔面に打撃を与え、ようやく絶命に至った。そのことに喜びが溢れてくる。敵の死体には軽い血だまりができていた。


(初めて殺せた。 打ち合うんじゃない、私は受け流して相手の攻撃から逃げればいいんだ。 そうすれば戦える)


歓喜に浸っていると仲間を殺されて激情した敵が棍棒を振りかぶってくる。アリアはそれに反応できなかった。しかし、フォンティルがその攻撃を跳ね返し、相手に1撃加えると敵は絶命した。


「油断したらだめですよ、アリアさん」


「ありがとうございます。フォンティルさん」


今日何度目かわからないお礼を言ったところで各部隊の隊長が撤退を叫んでいる。帝国の兵士を見るとどうやら彼らも撤退し、王国は勝ったようだ。そして、アリアはこのまま勝ち続ければ勝てるような錯覚さえ起こし始めていた。










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