第23話 秘める思い

ナイラルクはまだ精神が不安定で先程のとこには出ていなかった。しかし、ゲルネルツはきちんと出ていたので合流したのち彼のところへ向かうことにした。


「ローラン下兵とエルドナフ下兵が来てくれるとは思いませんでしたぞ。 これでギスターヴ下兵も少しはマシになってくれると良いのですが……」


「そうだな、ナイラルクがどれほどの罪の意識を感じていたとしても、今はあたし達が言葉だけでいい。 彼の罪を一緒に背負ってやらなきゃな」


「はい、僕達ができるのはそれだけですから、できることを今はやりましょう」


「本当に感謝しますぞ」


「何言ってんだ。 あたし達は仲間だろ? 礼はいらねぇよ」


「そうですよ、インシュプロンさん」


「そうでありますか。 では、お言葉に甘えさせてもらいますぞ」


そんな話をしていると、いつのまにかナイラルクが休むテントに着いていた。入り口テントの布で閉ざされているのですくい上げるようにして中に入る。


そこにはたくさんのベッドと医療部隊の兵士、そして肉体的、精神的に怪我を負った兵士達が横たわっていた。イヴとフォンティルはゲルネルツに案内される形でついていく。


「ここがナイラルクが休んでいるところであります」


そこはカーテンのようなもので仕切られており外からは見えない状態だった。カーテンのようなものを開けるとそこにはナイラルクがいた。


「ナイラルク下兵大丈夫でありますか? ローラン下兵とエルドナフ下兵が来てくれましたぞ」


「そうか……」


「よう、ナイラルク。 大丈夫か?」


「ローランさん……」


「久しぶりです」


「エルドナフ……」


ナイラルクの顔はいつもの元気な表情はなくどこか生気を奪われたような感じが見て取れた。


「ナイラルク、あたし達にできるのは一緒に背負ってやることだ。 だから、1人で背負わず言ってみろ」


それはイヴの本心だった。彼が自分を追い詰めて壊れないようにしようと彼女なりに考えた言葉だった。


「背負う? ローランさん、もしも目の前で恐怖で動けない俺を庇い傷ついてる友を見ているだけしかなかったクズだとしてもか?」


「ああ、そうだ」


「ふふっ、冗談はよしてくれ。 俺は無理なんだ。 どうしてかわからなくなった。 背負うとか言う言葉で俺にまた戦えって言うのか!」


その叫びはイヴを含めた3人が予想だにしないことだった。彼の精神は予想以上に壊れかけだった。早くなんとかしなくてはいけない。


「違う! あたしは戦えって言ってるわけじゃねぇ! お前はエリアを見殺しにしたことを後悔してるだろ!」


「そうだ! 俺は…… いや、俺達3人はあの時死ぬはずだった。 だけど、アリアさんが助けてくれた! ローランさんにも感謝している! だから、次は俺が助けようと思った! なのに…… 俺は役立たずだ。 もう俺は戦えない。 大切な仲間を失い、己の信念も貫けない。 俺は……」


「だったら、戦わなくていい! それにエリアだってそういう気持ちでお前を助けたんだろ? 違うか!」


「そうだ、わかっているそんなの。 だけどな口だけならなんとでも言えるんだ」


「なんだと!」


イヴはナイラルクの胸ぐらを掴み軽く持ち上げる。その表情はうじうじと悩み逃げている彼の怒りだった。もしかしたら自分に重ねているのかもしれない。


「ローランさんは背負うと言ったがあんた達はエリアの命を背負えるのか! 動けなかった俺の罪を背負えるのか!」


ナイラルクの頬に涙が流れ出す。それを見たイヴは離す。目の前で見たわけじゃない。だから、彼の痛みも悲しみも恐怖もわからない。もしかしたら自分に言う権利はないのかもしれない。だけど、それはダメだ。目の前の1人も救えないで何が兵士だ。


「当たり前だ。 あたしは仲間だからな」


後ろにいるフォンティルとゲルネルツがその言葉に頷く。


「そうか…… ありがとう。 すまないな怒鳴ってしまって……」


「いいってことよ。 な、お前ら」


「はい、大丈夫です。 ギスターヴさんの心の傷が治るならどんどん怒鳴ってください」


「そうですぞ、ギスターヴ下兵。 我々は仲間なのですから」


「本当にすまないな。 今日はもう休みたい」


「ああ、わかった。 また、来るぜ」


イヴはそう言うと2人を連れて出て行った。ベッドに横たわり考える。


(お前らは優しすぎる。 俺があんなに怒鳴っても助けようとしてくれる。 でも、俺の頭の中でエリアの死の間際に発した叫び声がずっと響いてるんだ…… 俺はもう死にたい)


頬を涙で濡らしながら想いを心の中で叫ぶ。それを彼女達は知る由もなかった。



✳︎✳︎✳︎



ルカスは第5防衛ラインを任されている全部隊の隊長とその隊長達を纏め上げる大隊長1人と会議をしていた。現在参加しているのは63部隊、52部隊、86部隊、91部隊である。


丸い机を囲むような形で各々が手に羊皮紙を持ちながらそれぞれの案を話している。ルカスの右側にいる金髪の天然パーマである少しほうれい線が目立つ40前半の男性は63部隊隊長のエドマ・ノルストンという名前である。


左を見ると黒髪のパーマで鼻の下に立派なヒゲを生やし、いじっている男性は52部隊隊長のアルハード・バレンツである。そして目の前には厳しい顔をした3人が座っている。


髪型は全員髪型はベリーショートで黒である。真ん中の60はいってると思われる男性だけ顎髭で白髪であり、他は特徴はない。

左は86部隊隊長アーマル・ゲル・フォルミル、右は91部隊隊長サージェス・ホムルドという名前である。


そして、真ん中にいるのは今言った者たちを纏め上げている大隊長のヴィル・ザ・スカイアンスである。今はこれからの作戦や相手が撤退した理由などを話しており、今はアルハードが話している。


「私が考える限りでは帝国が撤退した理由は他の場所に人員を割いているという理由で足りなく、負けたというのが妥当だと思われます」


アルバードが言い終えるとアーマルが手を挙げる。


「確かにバレンツ隊長の意見も一理ありましょう。 しかし、私から見れば帝国が撤退したのは第5防衛ラインで何かをするためだと思うのですね」


「その何かとはなんだ?」


「それが分かっていれば話は終わっています。 この前の結論では森からの進行は考えられないという意見が出ましたが、私はどうも匂うのですよ」


「それは前に決まったことだ。 蒸し返すのは気分が良くないぞ」


横からサージェスが口を挟む。


「たしかにそうですな。 では、ホムルド隊長はどういうお考えで?」


「俺からすれば岩石地帯が怪しい」


「ほう、それは私があちらに向かわせた魔導兵で構成された魔導部隊と弓兵士で構成された射手部隊、そして46部隊の46魔導部隊では心元ないということですかな?」


「それはないが、俺は帝国が未だに突破しないことに疑問を持っている。 奴らの魔導兵は強大だ。特に--」


「死の魔術師ですか?」


「そうだ」


「ありえませんね。 奴は帝国の最強兵器ですが、他の国に投入されていると聞きます。 だったら帝国の魔導兵が他の国に全投入されてもおかしくないですかな?」


「そういう考えではやってはいけんぞ、アーマル隊長。 俺達は常に予測しなくてはならんのだ」


「所詮第5防衛ラインは捨てるのです。 もしも、突破されたらその時ですよ」


アーマルとサージェスが言い争っていると静かにそれを聞いていた大隊長が口を開いた。


「静まれ」


それを聞いた2人は黙ってしまった。大隊長は王国での英雄であり、この歳になっても前線で指揮をとっておられる。そんな方を怒らせたのかと固まってしまう。


「お主ら2人の意見は十分に聞いた。 まだ意見を言ってないセルドルウィン隊長とノルストン隊長の意見を聞こうじゃないか」


大隊長含む4人がルカスとエドマをしっかりと見つめてくる。まずは、エドマが口を開いた。


「私はフォルミル隊長の意見と同じであります。 確かに決まってしまったことですが、それでも偵察ぐらいはした方がいいと思います」


アーマルはサージェスの方を見ながらニヤつく。少し自分が優勢になったからだ。続いてルカスが口を開いた。


「私はフォルミル隊長のように森を抜けてこの拠点を叩くという可能性も考えました。 しかし、塗装もされてなく、危険な生物もいる可能性がある森をわざわざ通る理由がないと考えられます。 なので、私はホムルド隊長の提案した岩石地帯ということですが、各隊魔導兵がいる隊から増員を提案します」


再び五分五分の意見となり、アーマルは少し不機嫌になる。それを聞き終えたタイミングで再び大隊長が口を開く。


「各隊魔道兵はまだおるか?」


「お待ちください! スカイアンス大隊長!」


「なんだね、フォルミル隊長」


「岩石地帯の魔導兵と弓兵は優秀であります。 私からは増援はいらないと感じます」


「フォルミル隊長、これは決定だ」


「ですが!」


「お前は儂の言うことが聞けんのか?」


「うっ」


それ以降アーマルは黙ってしまった。そして、魔導兵が一切いない45、63部隊以外からは300人ほどいることがわかり岩石地帯への増軍が決まった。


「最後に言っておくことがあるが、2週間後王師殿がここ第5防衛ラインにやってくる。 それを頭の隅に置いておけ」


「「「はい!」」」


全員が声を揃えて返事をする。


「では、解散じゃ」


こうして最初の会議は幕を閉じた。時間にして2時間、各々の意見を言いあい肯定し、否定しあったが、最後の最後までエドマの意見は考えられなかったことが悲しく解散の時は1人虚しくテントを出て行った。












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