第17話 過酷極まる訓練

昨日は着替えが終わった後フォンティルに案内してもらい、部屋に戻ることができた。その後は久々の休暇で疲れていたのか寝てしまった。


そして、今日私はグラウンドのようなとこを顔が見え腕や胸など部分的にしかつけない軽装の鎧を着て走っている。走り始めて現在2時間程が経ち、終わる気配はない。


事の発端は言われた通りに朝早くから集合した時である。そこには実際に戦争を体験してきた500人余りの先輩方がいた。


そこで、隊長は3つの事を話した。まず、1つ目はこれからは先輩方と一緒に訓練を行うこと。そして、2つ目は1ヶ月の訓練を終えたら初めて階級を与えられ、戦争から帰ってきたものは番号でもう呼ばれず、前で呼ばれること。そして、最後は例え先輩でも階級が同じなら違いはないということである。


それを話した隊長は現在着ている重装の鎧を脱いで、軽装の鎧に着替えるように指示した。着替えて戻ってくると、広い訓練所を隊長が終わりと言うまで走るように命令された。それが、地獄の始まりだった。


(一体何時間走るつもり…… もう無理…… 装備はあの時と比べて軽くなったけど、流石にこれはキツイ…… 兵士やめたい、やめたい)


弱音を吐きながら走るアリアの額には大粒の汗が大量に浮かび上がっていた。息も切れ、足も動かしてるのが奇跡なほどである。歩くのもしんどかったが、走るのはもっとしんどい。戻れるならあの長距離移動をしていた方が幾分かマシに思えるほどである。


「よ、よう、アリア…… はあ、はあ」


後ろからイヴが追いついてきて声をかけてくるが、今はそれどころじゃない。


「イ、イヴさん…… はあ、はあ…… 話すの…… はあ、無理で……す」


「そ、そうか…… はあ、はあ……1つだけ…… キ、キツク……はあ、はあ…… なったら言えよ…… 」


「あ、ありがと…… ございます」


お礼を言いつつもしっかりと答える。正直辛い、やめたいと思っているが、友達がいればなんとか……。


(ならない! 無理、無理! こんなことなら兵士にならなければよかった……)


しかし、母を思い出し少しだけ頑張る気持ちが湧き出る。ふと、顔を上げると隊長が怖い顔をしながら見張っているのが見えた。自分はこんな辛い思いをしてるのに隊長は立ってるだけという楽をしているので、少し怒りが湧いてくるが落ち着きおさめる。


(違う、ここで頑張らなきゃ意味がない。 それに、階級が上がれば楽はできる。 絶対にお母さんを救い、楽ができる後方の部隊に転属しないと)


今を乗り切ればやれるそういう気持ちで走り続けること更に1時間先ほどの意思既にが砕かれようとしていた。


(やっぱいい…… 楽しなくていいから休みたい。 けど、隊長がいるから休めない……)


そんな絶望を感じながら走る。周りを見ると他の兵士達も苦痛の表情で歪んでいる。倒れれば、すぐに45部隊に所属する医療部隊が飛んでくる。しかし、倒れようとするものはいない。その理由は単にその後の隊長が怖いからである。それに、1人目というのは誰しも躊躇うものである。そのような理由でアリアを含めた兵士は意地でも倒れようとしない。


(しんどい…… 誰か倒れて…… お願い……2人ならその後の罰も耐えれるから……本当にお願い……)


そのような願いも虚しく散り更に1時間が経つ。そろそろ死人が出てもおかしくないというところまできた。季節は春に入ったぐらいのまだ少し寒い程度だが、走っているとそれも関係ない。


(もう走りたくない…… )


やる気なく走っているとふと前方で倒れる兵士が目に入る。長い時間走り過ぎて限界が来たのだろう。いや、そもそもここまでいつでも倒れるのに、誰も倒れようとしなかったその精神力を褒め称えたい。それを見たアリアは1つの決心をする。


(よし、倒れよう)


それは決めていたことだった。誰かが倒れたら自分も倒れようと。実際1人目が出たことによって、そこから5人程倒れている。それにアリアも便乗しようと考えていた。


体がゆっくりと倒れていく感覚に襲われる。なんだか心地良い感じだ。しかし、アリアが倒れることはなかった。誰かに支えられているのだ。その人物の顔を見るとイヴだった。


(え…… どうして…… )


ふとイヴに言われた言葉を思い出す。確かに走ってる時も何か言っていたが、それよりも森であたしがあんたを守ると言われていた気がしてきた。


「だ…… 大丈夫…… はあ、はあ…… か、アリア」


それは救世主である。しかし、今のアリアにとって絶対に倒れることができない理由の1つができてしまった。


「あ…… ありがとう…… ございます」


なんとかお礼を言えたが、内心は絶望していた。 イヴはアリアを助けてくれるだろう何度でも。その度に走り直さなければならない。


(倒れるのは無理みたい…… 仕方ない…… 走り切るしかない……)


そう言いながら1度止まった足を動かそうとするが、全然動かない。ここで倒れようとしたことを後悔するが、仕方ないと割り切り、ようやく重い足を動かして走り出した。


(もしかすると、私は神に見放されているのかもしれない……)


絶望に暮れる中顔は苦痛で歪み、心は泣いている。これほど友達というものが枷になるとは思っていなかった。それからは止まることなく走り続け、終わったのは1時間後だった。


他の兵士は終わった瞬間寝そべる者がほとんどで、この訓練の過酷さを思い知った。ちなみに倒れた兵士は再び走らされるという罰を受けていたのを見て背筋が凍るのと同時に友達を枷と思ってしまったことを訂正し、これ以上ないほどの感謝を示した。


この日は休憩を挟んだ後に剣の訓練を5時間ほどやり、長い長い1日を終えることができた。そして、アリアはこの時兵士を止めるか、楽な後方に行くことしか考えることができなくなってしまっていた。




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