第16話 迷子

ルミサンスは王都の半分程の広さだが、兵士の数は王都とは比にならないくらい見かける。一応一般市民もいるが、数としては圧倒的に兵士が多かった。ルミサンスに入って歩くこと15分ようやく建物の中に入っていく。


「45部隊整列!」


隊長が全員建物の中に入ったや否や大きな声をあげる。それを聞き疲労がピークな兵士達は最後の力を振り絞って、番号順に並ぶ。


「まずは、ここまでご苦労とでも言っておこう! しかし、これは始まりに過ぎない! お前達はこれから1ヶ月間過酷な訓練を積むことで始めて下兵となることができる! 今日は休息を取り明日の朝6時から訓練を始める!」


その言葉は今までの人生で言われた言葉の中で1番嬉しく感じる。やはり、肉体的にも精神的にも疲れていたのだろう。そして、訓練と言う言葉に絶望を感じる。


「さて、解散と言いたいとこだが…… 部屋を決めなければな。 45部隊新兵諸君これから案内するので付いてきたまえ」


「「「「「「はい!!!!!」」」」」」


返事をすると隊長に続き付いていく。そして、部屋に着くと10名後半の人数を入れて、次の部屋に向かい同じように入れるという作業を繰り返す。この時に部屋を決められたもの達は解散となり、ほとんどの者は疲れて寝てしまっているが、各々がやりたいことをやる。


アリアが部屋に入れたのは4つ目の部屋についてからだった。人数は15名程でその中にはイヴがいた。中に入るとそこはベッドのようなものが規則正しく並んでいるだけで、他には何もなかった。とりあえずは鎧を脱ぐためにイヴと一緒に更衣室に向かう。しかし、1つ問題が発生する。


「どこだここ」


イヴが素っ頓狂な声を出す。


「完全に迷いましたね」


「ああ、そうだな。 くそ、素直に隊長に聞いとけば良かったぜ」


「それはもう過ぎたことなのですので、今は部屋に戻ることを考えましょう」


「そうだな」


2人は慌てるように歩く。疲れてもう休みたい筈なのに今は隊長に見つかることを心配している。


(休みたい…… 私はどうしていつもこうなんだろう…… はあ、鎧脱ぎたい)


弱音を吐きながら、自分が方向音痴なのを後悔する。知っている場所ならまだしも知らない場所はアリアにとって魔境だった。それに、イヴもいるから迷ったとしても大丈夫だと思ったのにこのザマである。


「あたし方向音痴だからさ、アリア頼むよ」


「無理です、動きすぎて今どこにいるかわからなくてなりました」


「まじかよ…… どうすんだよ。 無駄に広いんだよこの建物」


「止む得ません。 隊長に見つかる覚悟で動き回りましょう」


「できれば避けたかった。 でもそうも言ってられないな」


覚悟を決め進みだそうとすると、目の前に人が横切った。それを見た2人は急いで追いかける。後ろ姿で、鎧を着ていないがその人物はフォンティルであることは間違いなかった。


「あたし達は運がいいぜ。 おい! フォンティル!」


声を張り上げて呼ぶと振り向く。その顔は驚愕の表情だった。


「ローランさん⁉︎ それとアリアさん。 どうしたんですか、こんなところで」


「悪ぃ、あたし達迷っちまって、更衣室がどこにあるか案内してくんね?」


「フォンティルさんお願いします」


一瞬戸惑うが、アリアに頼まれたらやるしかないと思った。その女神のような美しい顔は鎧でみえないが、フォンティルにとっては声だけでも十分だった。


「それじゃあ…… 付いてきてください」


「おう、頼むぜ」


「ありがとうございます」


(お礼を言われた! やった!)


ただお礼を言われただけなのに嬉しく感じる。2人だけで話すことはあったのだが、こんなに嬉しいのはルミサンスに着くまでに彼の思いがより一層強くなったことを示していた。


「それにしても助かったぜ。 あたし達がこのままだと隊長に見つかって殺されてたかもしれなかったからな」


「流石にそこまではあり得ませんが、何かしらの罰は受けていたと思います」


「それはタイミングがよかったですね。 それにしてもどうしてあんなところにいたのですか?」


「そうだな、原因はアリアにある」


「違います、イヴさんがこっちと言ったから、ついて行ったからです」


「なんだよ、あたしのせいにするのか?」


「そうです」


「そうか、アリアは是が非でも自分に責任はないと言うんだな?」


「はい、そうです」


「このままだと全面戦争になるな」


「望むところです」


言い合ってる2人だが、それは本気ではない。それを感じ取ったのかフォンティルは自然と笑顔になる。


「アリアさんとローランさんは仲がよくて羨ましいですね」


「そうか?」


「はい、冗談が言い合えるなんてとても微笑ましいですよ」


「私はイヴさんのことを友達と思っていますので」


「そうかよ…… なんだか照れるぜ」


先程までのことは忘れ、自分の思いを告げる。ある者は信頼を、ある者は恋心を、あるものは好奇心を抱き前に1歩ずつ進んでいく。しばらくすると更衣室前に着いたので、フォンティルは2人に知らせるために口を開く。


「着きました、ここが更衣室です」


「おう、ありがとな。 ついでにあたし達の部屋も案内してくんね?」


「それは構わないですけど、そこに一応見取り図があることだけ言っておきます」


イヴがそう言われ、フォンティルが指を指している方を見ると、そこにはしっかりと施設の見取り図が掲示されていた。


「まじかよ、こんなもんあったなら早めに言ってくれよ」


「いえ、てっきり知っているものだと思ってました。 もしかして、昨日隊長が言っていたことを聞いてませんでした」


「ま、まあな」


昨日と言えばアリアもイヴも悩んでいた日である。あの時はそんなことを覚える余裕すらなかった。それを思い出しふと思う。フォンティルはアリアのあの行為に対してどう思っているのか。今はふつうに接しているが、内心では警戒しているのではないか。そんな想いがふつふつと湧いてくる。


「念のために案内するので、待っておきます」


「すまねぇな」


「ありがとうございます」


「それじゃあ着替えてくるわ」


そう言って中に入っていく。外に待つフォンティルはアリアといる時間を出来るだけ確保したかった。何故なら1ヶ月後じぶんが生きている保証はどこにもないからである。例え人を、仲間を命令されれば簡単に殺す存在だとしても、好きになってしまっては仕方がないと思ってしまう自分がいる。







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