第15話 悩み

あの出来事から何故かイヴが話しかけてこなくなった。他の兵士達も空気が重いようで、とてもじゃないが居づらかった。フォンティル達と話そうにも何故か足が進まない。


自分では隊長に命令され、仲間が傷つけられないために取った行動で、間違ったとは思っていない。だけど、今まで話しかけてくれて、悩みがあれば相談してくれた、そんな友達が急に避けるようにしてくる。もしかしたら、自分は間違ったことをしているのか、フォンティル達も離れていくのではと不安になってるのかもしれない。


休憩の時間にはフォンティル達が話しかけてくれたて、その不安も少しは和らいだ。だけど、横にイヴがいないということが今のアリアの胸の内に重くのしかかってきた。


その日から3日が経つ。そこまで辛いと思わなくなった兵士という職業が今、とてもやめたくて辛いものになっていた。


(私はやめたいと思った。 けど、ここまで頑張れたのは友達との関係を良好に保っていたからなんだ……。 考えもしなかった、躊躇なく仲間だった者達を殺すことによる影響を…… でも…… それは仕方のないことかもしれない……)


重い足を1歩ずつ進めていく。たしかに仲間を躊躇なく殺すことも大事かもしれない。しかし、この部隊にそれができる者はアリアを除き誰もいなかった。もしかすると、フォンティル達も内心は恐怖しているのかもしれない。


(こんなことになるなら、仲間なんか作らなければよかった。 まだ、1人ならこんなに悩まなくて済んだのに……)


泣きそうになるが、それをグッと抑える。隊長が言うには今日中にはルミサンスに着く予定らしい。


(お腹が痛い…… もうやめたい…… 無理だよ…… お母さん……)


前世と合わせれば他の者とは比較にならないぐらい生きてきたが、どんなに年月が経とうとも逃げ出したくなる。


(ダメだ、私はお母さんのためにここにいるんだ。乗り越えるんだ絶対に)


アリアは決意を固める。母の為に兵士をやり、約束通り元気な状態で会うまでは何が何でも突き進むしかない。そう思っていると背後から気配を感じ振り向く。


「よう、アリア」


そこにはイヴがいた。鎧で顔は見えないが、声で誰だかアリアはわかった。


「イヴさん……」


「すまなかったな…… 今まで……」


「大丈夫です…… 気にしてませんから……」


気まずい空気が流れる。どうしてこのタイミングで話しかけてきたのかアリアには分からなかった。


「いや、何度でも謝らせてくれ。 本当にすまなかった」


歩いていて軽くしか頭を下げることは出来ないが、それは本当の意味での謝罪だと思えた。


「謝罪はもう大丈夫です。 どうして急に話しかけて来なくなったんですか?」


「ああ、そうだったな。あたしがアリアに話しかけなくなったのは怖かったからさ」


「怖いですか?」


「ああ、はっきり言うがあたしは無理だと思った。 さっきまで仲間だった奴に情けすらかけられない奴だったのかと。 だから、できるだけ避けた」


その言葉だけ見れば、それは本音の言葉。イヴの感性が確かなら他の兵士達もアリアに同じような感情を抱いてるだろう。それに気づかなかった自分が情けない。


「でもな、後で気づいたよ。 アリアが飛び出したのは隊長が仲間や家族を失うからだと。 それに、隊長の命令は絶対なのにアンタ以外誰も動けなかった。 あたし達は兵士として失格だよ。 だからこそ、アリアは1人でやって、1人で抱え込んでいた。 あたし達はやってはいけないことをやった。何度も言う、許されなくてもいい。 だから、頼むもう1度友達になってほしい」


その言葉はイヴの信念であると感じた。それに、悪いのはイヴだけじゃないと、自分も悪いのだと。


「許すも何も、私達は友達ですよ」


「え……」


「それに、私も皆んなの気持ちを考えずに行動してしまってごめんなさい」


アリアは謝らなくていいのに謝罪の言葉を口にしたことでイヴは困惑する。そして、大粒の涙が自分の頬を伝うのを感じる。


「謝らないでくれ、ありがとよ。 もう、あたしは裏切らない。 死ぬまで友達だ。あたしがあんたを守るよ」


「はい、お願いします」


アリアは鎧で見えないが満面の笑みを向けた。それと同時に前方に薄暗い森を照らす眩い光が差し込んでくる。アリア達が森を抜けるとそこには高い壁に囲まれたルミサンスが目の前に広がっていた。


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