第7話 前進
アリアとイヴは鎧に着替え第2訓練所で整列をしていた。鎧は顔の部分だけを外し手に持った形を取っている。この場所に来る途中45部隊の女性の数はアリアとイヴの2人だけだという事を聞かされた。
「時間通りだな。 時間を守ることだけは褒めてやろう。 だがな、それだけだ! それに価値はない!」
ルカスはそう言いながら目の前に並ぶ30は超えるであろう馬車とその側に置かれている大量の荷物を指差す。
「今から馬車に荷物を積んでもらう。 時間は指定しない。 だが、早くやっておいた方がお前達のためだぞ?」
ルカスは不気味な笑みを浮かべる。そして、1人の新兵を指差す。
「おい、お前番号は幾つだ!」
「はい! 45157です!」
「では聞こう45157なぜ時間が指定されていないのにも関わらず私は早めにやったほうがいいと言ったんだ?」
「申し訳ありません! 私にはわかりかねます!」
「そうか! この程度のこともわからないか! この役立たずが!」
「申し訳ありません!」
新兵が謝罪の声をあげる。それはアリアがいる場所まで響くほどのものだった。
「隣のお前!」
「は、はい!」
「お前はなぜだと思う!」
「私の考えではここ王都アルミナスから現在前線で戦う兵士達の拠点である街ルミサンスまでの移動に時間を割くためだと思われます!」
「少し足りないがほとんど正解だ! ここは素直に褒めてやろう! 番号はいくつだ!」
「ありがとうございます! 番号は45158です!」
新兵の殆どがその姿勢を崩さないが、正解を言った兵士に賞賛の視線が送られる。
「45158が言ったように我々はこれからルミサンスまで向かう! 通常であれば2、3日で着くだろうが今回は人数と荷物の関係上5、6日かけて向かう!」
新兵達はそれを聞き息を飲む。45部隊最初の試練である街から街への移動である。噂には聞いていたが、いざ耳にしてみるとどれほど過酷なものか想像できた。
「荷物を積み終わったら私は休憩室にいるので報告したまえ。 その役割をお前に任命する」
新兵達は全員が胃を締め付けられる思いに襲われる。報告役という最も嫌な仕事である。しかし、終わってみると自分は選ばれなかったのか安心し、息が漏れるものは少なくない。だが、1人だけ胃に穴が開いた思いをしていた。
「45158頼んだぞ」
「は、はい!」
「では解散!」
新兵達は急いで荷物を積み出す。ルカスは休憩室に向かう。それをただその場で呆然と見ている45158、名前をフォンティル・ナータレフ・エルドナフという。フォンティルは数秒前にルカスの問いに答えた自分を恨む。
(どうして僕なんだ…… )
フォンティルは絶望に暮れていた。その役割は報告するだけというものではない。一時的とはいえ新兵達のリーダーに任命されたということだ。つまり、新兵達の責任はリーダーであるフォンティルが背負うことになっている。
「大丈夫ですか?」
フォンティルが蹲っていると誰かが心配してか声をかけてくれる。その声は可愛らしく今の彼の心を癒してくれるようだった。顔を上げると金髪の肌が白い絶世の美女が心配そうにこちらを見つめていた。
「だ、大ちょ、大丈夫です」
フォンティルは戸惑うあまり噛んでしまう。それが恥ずかしく顔を赤らめる。
「それは、よかったです」
目の前の美女は笑顔で喜ぶ。どうしてこの程度でこんなにも喜ぶのだろうと思う。しかし、妙に心が締め付けられるように痛い。これはきっと他の兵士が声をかけてくれない中彼女だけが唯一かけてくれた安心だと思い込む。
「いえ、ありがとうございます。あ、あの、よろしければ名前を教えてくれませんか?」
「名前ですか?」
「は、はい!」
なぜ自分がこんなことを聞いたのかはわからない。だけど、聞きたいと思った。聞かなければならないと思った。
「私の名前はアリア・ラ・エニエスタと言います」
「エニエスタさんですか。良い名前ですね」
「アリアでいいですよ」
「え?」
目の前の女性は変わらない美しい笑顔で耳を疑うことを言った気がした。
「す、すいません、もう一度いいですか?」
「もう一度ですか? いいですよ。 私を呼ぶときはアリアでいいと言ったんです」
先程聞いたことは幻聴ではなかった。そのことを心の中でガッツポーズをとる。
「え、えっと、僕の名前まだでしたね。 僕の名前はフォンティル・ナータレフ・エルドナフと言います」
「フォンティルさんですか。良い名前ですね」
「ありがとうございます。 あの、その」
「そわそわして大丈夫ですか?」
「あ、はいありがとうございます。えっと、あの、厚かましいかもしれませんが、あの、僕と、僕と友達になってくれませんか!」
アリアはあまりの声量に少しびっくりしてしまう。しかし、優しい笑顔を見せた後口を開く。
「こちらこそお願いします」
それを聞きその喜びが表情に出てしまう。きっと今までで1番勇気を振り絞っただろう。失敗すればどうしようという不安もあったが、成功し新兵達のリーダーであることを一瞬忘れてしまうぐらい心の中で喜ぶ。
「そろそろ作業を手伝いに行くので先に行きますね」
「は、はい」
アリアは軽くお辞儀すると荷物を積み込んでる新兵達を手伝いに行く。
「よかった。 それにしてもあんなに可愛い人がいるんだな」
気づけばフォンティルは無意識に小声で呟いていた。そして、頭の中は既にアリアのことでいっぱいだ。彼は女性だからといって蔑ろにすることはない。だけど、こういう場所でそんな気持ちになるとは思わなかった。
(これが一目惚れか……)
フォンティルもアリアと別の場所を手伝いに行く。その足取りは早く、誰から見てもご機嫌なものだった。
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