第5話 学校からそして

学校というものは今まで行ったことあるが、ここ兵士養成学校は男ばかりだった。もちろんそれは分かっていたことだったが、初日に知らない男性から告白されたのは自分でも驚いた。


訓練は自分の想像を絶するものだった。まず、体力をつけるため走らされたり、筋トレなどをして体を作ったり、剣や弓を使った武器の扱い方や模擬戦などをしてあらゆる面を鍛えていた。また、格闘術のようなものも教えてもらい体に刷り込む。


この世界には魔法があり、魔法が使えるものは優遇されるが、アリアは適正が全くなく剣に落ち着いたが剣の才能もなく、下から数えた方が早いレベルだった。唯一才能を見出せたのは弓での射撃精度だった。


苦労したのは訓練だけでなく、人間関係もである。この国の男性の6割から7割は女性が兵士になることが面白くないし、相応しくないと思っている。だから、アリア自身もそういった仕打ちを受けていた。


しかし、そういった厳しいことに耐えること1年ようやく学校を卒業し、それぞれが指定された部隊に配属される日である。


(頑張ったんだけど、現実は厳しいな……)


アリアの手に持っている羊皮紙は学校を卒業したと同時にもらうことができるものであり、その内容は配属部隊と兵士適性が書かれているものである。ちなみにアリアの兵士適性は最高Aから最低EのうちのDである。


「はぁ〜 学校では友達もできないですし、兵士として自分なりに頑張ったつもりだったのですが……」


ショックのあまり独り言が漏れる。気分を変える為に髪をくくりポニーテール状にする。いつもはこの髪型なのだが今日は何もせずに来ていた。だが、やはりいつもの髪型は落ち着く。


「そもそも1年というのがダメです。 もっと長くしてくれたら私だって上を目指せました。 国の状況が状況だから仕方ないのかもしれないけど……」


気分を落ち着かせると座っている椅子から立ち上がる。持っている羊皮紙を見て自分が配属される部隊の施設に向かう。時間は後1時間ほどの余裕があった。


(適正Dで入れる部隊なんて2つしかない……。 こんなことなら兵士になるべきじゃなかった……)


部隊は前衛143個、後衛32個で編成されている。部隊には入ることすら恐れられている部隊があり、それは45部隊と63部隊である。アリアが持っている羊皮紙には45部隊の施設の案内図が記載されている。


45部隊と63部隊が恐れられている理由としては2つあり、1つ目は最前線で戦う為人の出入りが激しいことである。そして、上層部はこの2つに学校の下位成績者しか組み込まないので、捨て駒にされることも多々あるからである。


(兵士やめたい……)


そんな絶望的な感情を抱えながら集合30分前に45部隊特別訓練施設に到着する。アリアは立っている門番である兵士に持っている羊皮紙を見せ中に入る。


中には入るとそこには巨大な空間があった。人が詰め寄れば300人は入ることができるだろうというそんなところに時間前だが自分と同じ新兵が60から70人ほど各々のことをしながら待機していた。


(30分前なのにこんなにいるんだ。 早めに来てよかった)


アリアは隅に座り時間が経つのを待つ。それから時間が少しずつ過ぎていき、人も最初の倍近い数になる。ここで待機している者達は話しかけることはしないが、アリアのことをじっと見つめる者が大半だった。


(やっぱり見つめられるのは照れるな……。 男の人としか関わりがない人達ばかりなのはわかるけど、もう少し見つめるのは控えてほしいな)


アリアがそんなことを思っていると入ってきた扉が勢いよく開かれる。そこには顔以外全身白銀の鎧に包み、頭の部分は手に持っている30後半だろうと思われる男がズカズカと入ってくる。


「今年はこれだけか……」


その男が入ってくると話をしていたものはやめ、座っていたものは立ち上がり規則正しく並ぶ。


「よく聞け! 私はルカス・セルドウィン。 お前らを死地へ送る者の名前だ! わかっていると思うが、お前らは落ちこぼれだ。 兵士の才能がないものがここに送られてくる! だが、戦場で戦果を挙げれば例えお前らのようなゴミクズでも私のようになれる! せいぜい自分の為、国の為に死ぬ気で物事に取り組め!」


「「「「「「はい!」」」」」」


「いい返事だ! 早速だが、お前らは1ヶ月後戦争だ!」


その言葉に新兵達は固唾を呑む。みんなわかっていた。わかっていたことだが、言われると自分達が準備ができていないことに気づく。


「お前らは学校に入った時憧れただろ! 自分の階級が下兵、上兵、戦兵、隊士、隊長、大隊長、軍師、連師、王師、覇師と上がっていくことを! しかし、今のお前らは下兵ではあるが! それすらおこがましい! そもそも兵士には階級などいらない! 国の為に戦えればそれでいいのだ! それを国王陛下の慈悲で出世制度として組み込んで貰えたのだ! ありがたく思え!」


「「「「「「はい!」」」」」」


ルカスはそれを言うと静かになる。新兵達は直立不動の姿勢を崩さないが、内心はどうして話を続けないのか不安になる。もしかしたらさっきの返事がルカスを不機嫌にさせたのではないのかと。しかし、そんなことも杞憂で終わり、ルカスはゆっくり口を開く。


「3日後、王都を出る。 出てしまったらもう帰ってくることはない。 それまでに遺書を書くなり、親に別れの挨拶をするなり済ませろ。 出発の準備などは私がしておく。 これは私からの最初で最期の慈悲だ」


ルカスが言い終えると、集団の中から1人手をあげるものが現れる。


「手を挙げてるそこのお前。 何かあるのか? 言ってみろ」


「はい! 恐れ入りますが、階級を教えていただきたいです!」


「私のか?」


「はい!」


「私の階級は隊長だ。 これからは隊長と呼ぶがいい」


「ありがとうございます! 隊長!」


新兵は手を下ろし、安堵の息をつく。


「他はないか? 無いなら今日は解散だ。3日後同じ時間ここに集合だ。 もし遅れたり、休むやつがいたら私が殺すから覚悟しておけ」


「「「「「「はい!」」」」」」


「解散!」


そうして新兵達に紛れてアリアも施設を後にする。後に聞いた話だが、あの場所は45部隊第1訓練施設だったらしい。






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