第4話 現実

アリアは家を出ると真っ先に兵士養成学校に向かう。男性の場合は14になったら徴兵される。期間は設けられていないが、そのかわり何か1つ現実的な好きな願いを叶えてもらうことができる。


ただ、女性の場合は兵士になりたければ直接兵士養成学校に申請しなければならない。そして、兵士にならない女性は国の為に職に就き働くことが義務づけられている。だが、その制度故に兵士になろうとする女性は少ない。


目の前に自分の身長より大きな門が立ちはだかる。その前で警備をしていた立派な鎧を着た兵士の2人のうちの1人が気づき近づいてくる。


「君こんなとこでどうしたんだい?」


急に話しかけられて少し驚いたが、ゆっくり口を開く。


「あの、私兵士になりたいんです」


「そうか、兵士志願者か。 ついてきて」


兵士は手招きをする。それにアリアはついていく。


「少しそこで待ってて」


アリアは言われた通りにおとなしく待つ。兵士は警備しているもう1人の兵士と何か話しているようだった。しばらくすると話を終え門の中へ案内される。


中は今まで見たことのないくらい施設が整っていた。中でも訓練施設が半分を占め、今まさに訓練をしている兵士達がいた。アリアが案内されたのはそんな場所とは違い事務的なことをしている部屋の前に連れて行かれる。


「ここで手続きを済ましてくれたらいい。 僕は仕事に戻るから」


「ありがとうございます」


アリアは深く礼をする。兵士はそれに目もくれずにその場からいなくなっていた。


(少しぐらい見てもいいのに無愛想……)


アリアは多少の苛つきは覚えたもののすぐに気持ちを落ち着かせ部屋に入る。その部屋には5人程の人がカウンターの向こうで羊皮紙に何かを書いたり、大量の本を運び働いている。アリアは顔しか出すことのできないカウンターに近づくと中年の鼻髭が特徴の男性が近づいてくる。


「何か用か?」


「はい、兵士になりたいと思いまして……」


「兵士だと? 女にしては珍しいな」


そう言いながら男は手元にある資料を漁る。そして、しばらくすると1枚の羊皮紙を取り出してアリアに渡す。


「そこに書いてある項目に従って書け」


アリアは男の命令とも取れるような口調に従い羊皮紙を取るが1つ困ったことに気づいた。ペンを渡されてないのである。アリアはちらっと男の方を見るがこちらを凝視しているだけなのでなんとも言えない雰囲気になる。


(これって言ったほうがいいのかな? それともペンは持参しなくてはいけないのかな?)


ここ数年で身についた女としての口調が心の中にまで響く。アリア自身男の話し方はできる。だが、この世界では全てを女として生きようと考えていた。正直な話女としての話が定着しすぎて戻せないし楽というのが本音だった。ただ恋愛などに関してはこれに当てはまらない。


アリアは勇気を振り絞りカウンターでこちらを凝視している男を見上げる。


「あの、ペンはないのでしょうか?」


「持ってきてないのか?」


「は、はい……」


「少し待ってろ」


男は自分の机にペンを取りに行く。アリアはその時間が非常に苦痛でならなかった。


(こんなに待つのが居心地悪いなんて…… 早く戻ってくれないかな)


そうしていると男はゆったりと歩き戻ってくる。


「ほら」


アリアは筆ペンを受け取るとすぐに書き始める。羊皮紙には年齢や名前、兵士になる理由などの項目があり、最後には兵士になる上での望みという部分があった。そこにアリアは自分の母親であるクレアを医療施設に入れ現在患っている病気を治してもらいたいと書いた。


(はぁ〜なんとか書けた。 それにしてもこの人少し見過ぎな気がするんだけど……)


アリアは羊皮紙を書き終わったことを男に示すとすぐに受け取ってもらった。そして、最後に礼をして出ようとする。


「おい」


「はい、何でしょう」


声をかけられたので咄嗟に振り向く。


「わかっていると思うが、兵士にしてはお前は美人だ。 せいぜい他の男の兵士には気をつけるんだな」


「え、あ、はい。 ありがとうございます」


アリアは顔を赤らめながら部屋を出る。廊下を歩きながらさっき言われたことを思い出す。


「美人か……」


実感がない。たしかにどこか通るたび同い年ぐらいの男の子はこちらを見ていた気がしていたが、そんなに気にしてはいなかった。しかし、先ほどの言葉で少しばかり気にし始める。


(少し髪を括ってみようかな)


アリアは肩まで伸びている綺麗な金髪の髪を触りながら考える。今日この時アリアは初めて自分の髪に興味を持ち出した。









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