第3話 これからのこと
あれから時間が経ち10年が経った。 外にも少しずつだが出る回数が増えていった。
14歳というのは人生を左右すると言われている。 男は例外を除き兵士になるしかないが、女は2つ選択肢がある。 1つは兵士となる道。 もう1つは一般人として働く道である。
普通の人の場合は家庭の事情以外では一般人として生きていく道を選ぶが、アリアは兵士としての道を選ぶ。 理由は人を合法的に殺すことができることと為すべきことができてしまったからである。 しかしアリアはベッドで横たわるクレアを見て不思議な感じに襲われる。
「お母さん、私兵士になる」
金髪の肩まで伸びたポニーテールを揺らしながら、その白い肌の美しい顔を向ける。クレアは娘のアリアのその言葉に驚きが隠せない。
「ダメよ…… アリアちゃん……。 私なら大丈夫…… だから」
「お母さん無理しないで。 私も大丈夫だから」
クレアはベッドから上半身だけをアリアに抱きつくように起き上がる。
「お願い…… 私なんかのために…… 兵士にならないで」
「ごめんなさいお母さん、それは聞けない。 それにお母さんは私の中では世界一大切な存在だからそんなこと言わないで」
「お願いアリアちゃん。 お母さんの言うことを聞いて……」
アリアはクレアに優しい微笑みを浮かべながら母親を抱きしめる。
「今まで生きてきて兵士というものがどれほど危険なものか分かってる。 でも、私はそんな危険な場所だと知っていてもお母さんを救いたいの」
「ダメよ…… 私なんかのために」
「例えどんなに拒まれても私はお母さんを病から救うためならなんでもする。 それにすぐ死ぬわけじゃないんだから」
クレアはそれを俯き黙り込む。 それから十数分と時間が経つ。するとクレアはようやく顔を上げる。
「アリアちゃんの意思は変わらないのね」
「私の意思は変わらない」
「私は幸せ者ね。 こんな優しい娘がいて」
クレアは娘の頭を優しく撫でる。その感触は心温まるものだった。
「お母さん、私は絶対死なないって約束するから。 だから、お願いだからお母さんは病気を治して」
アリアは綺麗な顔をグシャグシャにして問いかける。それは今まで自分の意思を見せなかった娘の最初の抵抗に感じた。クレアの答えは既に決まっていた。
「行きなさい」
「え?」
「私はアリアちゃんが元気にいてくれれば自分の体なんかどうでもいいと思っていた。 私を心配する人なんかいないと思ってね。 でも、違った。 こんな近くにいたのに気づかなかったなんて私馬鹿ね」
「おかあ--」
「これだけは約束して! どうか…… どうか…… 死なないで。 そして、次会う時に元気なアリアちゃんを見せて」
今まで大切な人なんかいなかった。 だからこんな気持ちは初めてだ。 愛する人がいれば幸せだ。離れれば悲しいだろう。 そして、失えばもっと悲しい。 だから、クレアは病気から救わなければならないのと同時に自分が死んではいけない。 それで笑顔が見れるならアリアは満足である。
「わかった、私は生きて帰ってくる。 でも、お母さんも私が帰ってくるまでに元気になっててね」
アリアは涙を拭い笑顔を向ける。クレアは涙をこぼしながら再び互いを抱き合う。
「ええ、約束するわ」
「ありがとう、私これから手続きをしなくちゃいけないからもう行くね」
アリアは立ち上がり問いかける。クレアは笑顔でそれに答える。家からアリアが出て行くとそこは驚くほど静かになる。
クレア自身もう長くはないとわかっていた。だから死んでも仕方がないとも。でも、娘の思いを聞きもう少し娘のために生きてもいいと思い始めていた。
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