第2話 望んだ世界
暗い、真っ暗だ。 体を動かそうとするが、うまく動かない。
(ここはどこだ? うまく思い出せない)
瞼をゆっくり開けると光が差し込んでくる。その光が眩しく目をしぼませる。
「あら、起きたの。 いい子ね」
美しい女性が目に飛び込んでくる。その女性は自分の頭を撫でてるようだった。
(この女性はどうして私の頭を撫でるのだろうか)
その女性の手をのけようと腕を伸ばすが、目に飛び込んできたのは赤ん坊のように小さな手であった。
(え? これが私の手?)
混乱する。 記憶を少しずつ辿っていくが、何度試みても自分が50代であったことしか思い出せない。
(それに私は死んだはずでは……)
それは可能性に過ぎなかった。 だが、現実に起こってしまったのだから仕方がない。 私は転生したのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
自分では喜んだつもりだったが、赤ん坊である自分は大泣きしてしまう。
「どうしたのアリアちゃん。 大丈夫?」
女性は自分のことをあやす。なんとも癒される声だろう。 この女性、おそらく母親が言うには自分はアリアという名前らしい。
(新しい名前はアリアと言うのか。 あれ? 私は確か男だったはず。 名前からして男ではないよな)
アリアは女性でよく使われる名前だと思われる。 しかし、アリアはもしかしたら男でも使われる名前かもしれないという淡い希望を抱く。
「はい、アリアちゃんご飯ですよ。 あ〜んして」
寝ているアリアにスプーンで離乳食のようなものを運ぶ。 それを口に入れるとゆっくり咀嚼するように味わう。
(よくわからないけど、私はもう一度生きることを許されたのだな)
今は何もできないが、もう少ししたら外の世界がどんなものか知ることになるだろう。 それまでやりたいことを考え再び生を与えてくれたことに感謝することにした。
それからアリアは少しずつ成長していき5年が経つ。わかったことはそこまで多くなくアリアのフルネームが アリア・ラ・エニエスタということと母親の名前はクレア・ラ・エニエスタということと自分にはもう父親がいないということ。 そしてこの国の名前はイスエラル王国という名前ということだけである。
クレアは過保護なので5年経つまでアリアを絶対に家から出さないと言われ続けてきた。 今日は記念すべき初外出の日である。
「アリアちゃん絶対にお母さんから離れちゃダメよ」
「うん、わかった」
4歳児が出すような無邪気な声を出す。 服はクレアに選んでもらいワンピースのような可愛らしい服装をしてる。
(それにしても様になったな。 最初は女だと知ってどうするかわからなかったが、心配するほどでもなかったな)
今は余裕すら窺える。
手を繋いでいるクレアは扉にそっと手をかける。扉が開かれると目に入ったのは中世のヨーロッパのような雰囲気を醸し出している街であった。
「すご〜い」
「ふふふ、アリアちゃんすごいでしょ?」
「うん!」
「さあ、行きましょ」
「はーい」
クレアとアリアは歩き出す。 この演技は予想の範囲である。 アリアは育ててくれた母親に恩を仇で返すつもりはない。 だけど今この歳で出来ることと言ったら子供のように無邪気に振る舞い母親を喜ばすだけだった。
街の人達の服装は様々で統一性はない。 しかし、一番多かったのはアリアが着ているような服装である。 そして、男の着ている服装は子供以外はフルプレートの鎧を顔を出して着ていた。
(一般人に大人の男がいない……)
アリアはすぐそこに立っている兵士を見つめてしまう。 それに気づいた兵士はこちらに手を振ってくれる。 アリアはすかさず手を笑顔で振り返す。
(男がいない、気になるな)
アリアは思い切って1番近くにいる最も信頼できる人に聞くことにする。
「ねぇ、お母さん」
「なぁに? アリアちゃん」
「どうして女の人ばかりなの?」
アリアは少し考える。
「う〜ん、アリアちゃんには難しい話だけど、男の人は私達のために戦いに行ってるの」
「戦い?」
「そうよ、だからアリアちゃんもこれから大きくなってとても大事な人を見つけると思うけど、その時は大事にしてあげてね」
「うん、わかった」
アリアは笑顔でそれに答える。
「さぁ、あと少しだから頑張って」
アリアはクレアに手を引っ張られる。 戦い、それはきっと戦争のことだろう。 実際それを体験したことはないが、1つだけわかることがある。 それは、人を殺しても罪にはならないことである。 寧ろ殺せば殺すほど英雄と呼ばれる。アリアはつい笑みがこぼれてしまう。
(もしかしたら神様は本当にいるのだろうか。 私は人をもっと殺したいと思っていたが、こんな素晴らしい世界に来れるなんて)
アリアはよくすれ違う兵士が腰に剣を身につけているのを見て、この世界に銃というものがないことを確信する。 刃物はアリアの得意分野である。
そんなことを想像していると目的地に着く。 その場所は八百屋のように様々な食材が並んでおり、クレアはそれをじっと見ている。
「やっぱりまた高くなってるわね……」
クレアは頭が痛くなる。 周りの人達を見ると同じような表情をし、買うか帰るかの選択を取っていた。
「どうしたの? お母さん」
「ごめんねアリアちゃん、ちょっと高くなってたから考えちゃった」
アリアに向けるその笑顔はどこか無理をしているようにも見えた。
「どうして高くなっちゃってるの?」
「そうね、大人になったらアリアちゃんもわかるようになると思うけど、この国は負けてるからよ」
今にも壊れてしまいそうな表情をしているクレアにアリアはすかさず話しかける。
「私はいつになったら大人になるの?」
「う〜ん、10年後かな?」
「だったら私早く大人になってお母さんの為に頑張る」
「そうね、ありがとう。 でも、私の為じゃなくてもっと大切な人のために頑張りなさい」
そう言うとアリアを連れて奥の方へ進んでいく。 母親というものは強いが脆い。 だからこそ支えてあげることで親孝行をしたいと心に決めるのだった。
それからはいくつか食材を買ってからゆっくりと楽しみながら家に向かった。 その時のクレアは比較的笑顔が多く見受けられた。
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