3月3日──人間の卵

 おれは「人間の卵」の研究を記者会見で発表した。

 記者の一人が質問をしてきた。

「博士、人間を卵で産むのに、一体何の得があるんです?」

「まず、出産の負担がなくなります。お腹の中で10ヵ月も待つ必要はないんです。小さな卵をポンっと産むだけで済む」

「しかし、何か問題は⋯⋯」

「問題はないですね。卵も丈夫です! 割れる心配もありませんよ」

 この画期的な研究は女性たちの強い支持を得て、すぐに実用化されることになった。母親は産んだ卵を暖かな保温器に入れ、あとは子どもが孵化ふかするのを待つだけなのだ。


 いよいよ、第一世代の卵がかえる日が来た。

 母親たちの見守る中、広い室内に集められた数十個の卵から、続々と殻を破って赤ちゃんたちが出てきた。

 そこへ、一匹の野良猫が迷い込んできたかと思うと、

「ニャーーーーッ!」

 と、大きな声で鳴いた。

 子どもたちが、野良猫を一斉にっと見つめた。

 おれは、何だか嫌な予感がした。


 生まれたての子どもたちは、トコトコと歩き去る野良猫のあとをゾロゾロとついて行った──。


◉3月3日は「雛の日」

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