2月18日──犬煙運動

「権力の犬め!」

 俺たちは口に咥えた罪人を、玉座に座る王の前に吐き出した。

「本日はこれだけでございます」

「ふむ、引き続き頼むぞ」


 おれたちは再び回廊を巡回する。

「チッ、この嫌煙運動とやらはいつまで続くんだ?」

 右の頭が吐き出すように言う。

「ハデス王め、下界の影響かしらんが、

 地獄でも突然煙草を禁止にしやがったからなぁ」

 そこでおれたち地獄の番犬ケルベロスの出番となったワケだ。

「煙草の匂いさえ無くなれば、この巡回に終止符を打てるのに、いまだにぷんっと鼻を突く事がある!」

 三勤交代に慣れているとはいえ、なかなか居なくならない喫煙者どもの摘発の日々に、さすがに草臥れてきた。

「うーん、よく寝たなぁ」

 ようやく左の頭のおれが目覚めた。


「じゃあおれたちが眠っている間の巡回を頼むぞ」

「ああ、任せときなって」

 右と中央の頭が眠りに就いたのを確認すると、おれは回廊に隠して置いた煙草を取り出し、そして火を点けた──。


◉2月10日 嫌煙運動の日

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