2月15日──春二番

 炬燵こたつに入ってぼんやりしていると、玄関のベルが鳴った。

「こんちわ。春二番と申します!」

 ドアを開けると、若い男が立っていた。

「二番⋯⋯一番じゃなくて?」

「ええ、姉の春一番がインフルに罹ったんで、わてが代わりに風を吹きに回っとるんですよ」

 男はぼくの家の奥を覗き込むと、ズカズカと上がり込んできた。

「ち、ちょっと、困りますッ!」

「いやあ、長旅で少々疲れましてナ」

 勝手に冷蔵庫を物色すると、お昼に取っておいたコロッケをつまみにビールを飲み始めた。

 春二番と名乗る男は、時折申しわけ程度に生暖かい風を起してくれたが、いくら経っても出て行こうとはせず延々と酒を飲み続けた。


 とうとう正体を失って酔い潰れた頃、また玄関のベルが鳴った。

「春一番と申します」

「はぁ⋯⋯」

 目の前には美少女が立っていた。

「申し訳ない事です。冬将軍との戦いで苦戦している間に、弟が勝手にやった事でございますゆえ⋯⋯」

 少女は深々と謝りながら男を担いで立ち去っていった。


 外に出ると、春一番の暖かい風が吹き抜けた──。



◉2月15日は「春一番の名付けの日」

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