2月11日──鎖国

「国を建て直すため、我が国は今から鎖国に入る」

 と、矢部首相は臨時国会で言い放った。

 まずはここからと、国会議事堂の白壁に黒々とした鋼鉄の鎖を巻きつけさせ、門前には日の丸に鎖を巻きつけたデザインの新国旗が掲げられた。


 それからの日本改め鎖国の快進撃は、目を瞠るものがあった。

 鉄工場は不夜城のように稼働し、富士の麓から取れる良質の鉄鉱石を鍛え上げた極上の鎖は、海外の市場を席巻した。

「ヤベ総理、よくやった!」

「鎖国、万歳!」

 鎖国を訪れた外国人のお土産には、肌に身に付ける鎖帷子、鎖鎌、万力鎖などの忍者グッズが飛ぶように売れた。

 不況のドン底にあった日本は、鎖の国として生まれ変わることで、見事に再生を遂げた……。


 が、突然、富士山に異変が起こった。

 その火口から、真っ赤に燃える強大な鎖が吹き出したのだ。

 やがて鎖は日本列島にぐるぐると巻きつき、すべてを道連れに海の底へと沈んでいった──。


◉2月11日 建国記念の日

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