2月8日──つばき姫

 女はバーの看板娘だった。

 その白く美しい肌に合わせるように、真っ白な椿の花を頭に挿しているのが評判だった。

 おれはその花を見るのが愉しみだった。


 だが、何度か通ううちに、その椿の花が真紅に染まる日があるのに気が付いた。

 そういった日の夜は、いつもの、少し病的ともいえる白い肌もほんのりと朱に染まって見えた。

「今夜の椿は紅い色なんだねぇ?」

 おれは酔った勢いで訊ねてみた。

「え、今夜は気分が良いので、ね……」

「一体、どんな理由で花を変えるのかね?」

「ん、知りたい?」

 おれはこっくりと頷いた。

 女はと妖しく笑うと、自分の口に指を入れ、たっぷりと唾きを垂らした人差し指をおれに向けた。

 指を含むと甘い匂いが口いっぱいに広がった。

 そして、目の前が昏くなった。


「今夜の椿はまた格別に紅い色だねぇ?」

 目覚めると、おれの目の前にはバーの常連客のにやけ面があった。

「え、今夜は少しいただき過ぎたみたい、ね……」


◉2月8日は「椿の日」

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