第14話 絆
「落ち着いたかい?」
「はい……。ありがとう、マイアさん。……美味しいお茶ですね」
「癒し草の葉で作ったお茶だけど、口に合って良かったよ」
オークの隠れ里の家々を訪ね、マイア以外のオーク達に
だが、隠れ里で最後となるマイアの家を訪ねた時、流れていた悲しみの涙は喜びの涙へと変わった。マイアとその娘のミトはそれまでのオーク達とは違い、レイと普通に接してくれたのだ。その嬉しさはどれ程か。レイは声を上げて泣いてしまった。ミトは優しい性格の様で、レイに釣られて泣いていた。
その後マイアに招かれて、リンカと共に家に上がらせてもらったのだった。
そうしてマイアの家へと入ったレイは、マイアからお茶を淹れてもらい、それをゆっくりと飲み干した。そのお茶の味は、少し苦味を感じるがその苦味の中にも甘さが有り、そして優しい味がしていた。香りも爽やかで、夏の草原を吹き抜ける風を感じさせた。
お茶の効果も相まって落ち着いたレイは、何故マイアはレイに普通に接してくれるのかを聞いてみる事にした。
「あ、あの、マイアさんは何故あたしと普通に話してくれるんですか?」
恐る恐るだが、その事を聞くレイの目は真っ直ぐにマイアの目を見つめていた。マイアはそのレイの目をしっかりと見つめ返し、少し考えた後、理由を話し始めた。
「そうだねぇ。レイちゃんにだけは言ってもいいかな。ワタシは以前、人間の街で冒険者をやってたんだよねぇ。まぁ顔を見せたんじゃすぐにバレちゃうから、顔は兜で隠しながらだけど。あ、この国じゃないわよ? ガーディアンの代わりに冒険者が幅を利かせる国……”ブレド王国”でね」
マイアが口にしたブレド王国とは、太古の森林が幻想的で美しいランス王国と美しさで双璧を成す、広大な湖に浮かぶ王城が美しい五大国の内の一つだ。湖の王城と言うように湖が真っ先に語られるが、ブレド王国は海に面している為、その特産品は海産物である。
それはともかく、何故ガーディアンではなく冒険者が幅を利かせているかというとそれは……太古の森林が広がるランス王国とは違い、比較的弱い魔物しか現れないからだ。
とはいえ、いくつかのダンジョンには強力な魔物が出現する。つまりブレド王国は、そのダンジョンがある為に数多くの冒険者が集まる国だという事だ。
ちなみにガーディアンが少ない理由は、ダンジョン以外では魔物をほとんど見ない事に起因する。ガーディアンの使命は、街やそこに住む人々を魔物から護る事にある。ダンジョン以外で魔物があまり出没しないブレド王国では、ガーディアンが少ないという事にも頷けるというものだ。
それはともかくマイアの話によると、マイアはかつてブレド王国で冒険者として活動しており、他の冒険者と同じくダンジョンで出没する魔物の素材やダンジョンでしか採取出来ない希少なマジックアイテム、それらを売る事で生計を立てていたのだ。
そんな冒険者として活動している時にダンジョン内で、同じく隠れて冒険者をしていた旦那と出会い、結婚。その後些細な切っ掛けでマイアがオークである事がバレて、逃げる様にランス王国へと流れてきたのだ。しかし、そのランス王国は魔物であるマイア達にとっては、厳しい国でもあった。
街は、冒険者よりも遥かに強いガーディアンによって常に監視の目が光っており近付けず、かと言って森林の奥に向かっても、オーク等到底歯が立たない魔物の縄張りとなっている為奥にも行けず。
そんな折、オークキングであるブルズの隠れ里の噂を同族から聞き、そしてそこに住むようになる。その後ミトを儲け、一時は幸せを迎えたのだが一年程前、旦那はガーディアンに見つかりあえなく命を落した。
「……という訳さ。悲しいけど、アイツが馬鹿だから人間に殺されたんだよ。でも、そんな事で挫けてちゃミトを育てられない。母は強しってやつだよ! ……また泣いてるのかい? 優しいんだね、レイちゃんは」
「だってぇ……グスッ……」
話を聞き終えた所で、レイは涙を零した。せっかく幸せな生活を送れると思った矢先、旦那を人間によって失ってしまったのだ。自分と同じ人間がマイアの旦那、そしてミトの父親を殺してしまった事を、レイは涙ながらに謝罪した。
「ごめん……なさい……あたし達……うぅ……人間……グスッ……のせいでぇ……旦那さんをぉ…………うぇぇぇぇ〜ん……」
そんなレイの頭を、隣に座るリンカが優しく撫でた。マイアは困ったという表情だが、どことなく嬉しそうにも見える。ミトはもらい泣きで泣き疲れたのか、マイアの膝の上でまだ寝ている。ムイラは、一度だけプルンと大きく揺れた。
その後泣き止んだレイは、マイアの家から帰ろうとした。いくら普通に接してくれるとはいえ、人間である自分がいつまでも居ると迷惑だろうと思ったのだ。しかしマイアは『お昼、食べていきなよ! 優しいレイちゃんには、ミトと友達になってもらいたいしね! ミトが大きくなったら、きっとその経験が役に立つと思うから』と言われたので、オークと争わないで済む為の第一歩としてその提案をレイは受け入れた。
少し早いお昼寝から目覚めたミトを含めての昼食。マイアの用意してくれた昼食は、木の実を粉にして作ったパンと、山菜と茸のスープ。それと、
木の実で作ったパンは芳ばしく、山菜と茸のスープも上品な味わいでとても満足したのだが、蜥蜴の丸焼きだけは頑張っても食べられなかった。
「うぷっ……! ごめんなさい……。あたし、これは無理です……」
「要らないのかい!? それじゃ、レイちゃんの分はワタイが食べてあげる♪」
「リンカちゃん、ズルい! ワタチも食べたいのにーっ!」
「ミトにはワタシのをあげるから我慢しなさい」
「やったぁーっ!」
食べられない事を申し訳なく思いながらも、その後の様子に心が和むレイ。
オークは魔物と言えど、そこには家族の温かさが確かに存在していた。それは人間も同じ。なのに何故互いに憎しみあい、そして殺しあうのか。レイは、神というものが居るのならば、その神に聞きたくなった。
とはいえ、見た事も感じた事もない神の事を考えても仕方ないので、自分が出来る事をやろうと心に誓うレイだった。
穏やかな、そして優しい昼食が終わり、レイはマイアに言われた通りミトと遊ぶ事にした。リンカとマイアはと言えば、ミトをレイに任せて木の実を採りに行くと言って出て行ってしまった。
しかしレイは、オークの女の子とは当然遊んだ事は無い。なので、ミトに聞いてみるのだった。
「ミトちゃん。何して遊ぶ?」
「うんとねぇ、えっとねぇ……”おままごと”がいい! ワタチがママをやるから、レイちゃんは子供ね♪」
「あたしがママじゃないの!?」
「ワタチがママ!」
改めて見ると、ミトは五歳位の女の子だ。体の大きさもそれ相応、小さな体である。そのミトはそう言い張ると、木の器や木の実を一生懸命に用意して、小さな体で何かの料理を一生懸命に作る
「もう少し待ってねー。今出来るからねぇー。はい、出来ました! 今日は腕によりを掛けたご馳走だから、たんと召し上がれ♪」
「わーい! やったぁー! 美味しいね、ママ♪ おかわりー!」
「はいはい♪ レイちゃんは食いしん坊さんねぇ!」
ミトとのままごとは、食事の場面から始まった。ミトに合わせて、レイも食べるふりをする。その様子を嬉しそうにミトは見ていた。
ところが、そのミトの表情が一変。突然、怒りと悲しみを
「レイちゃん……! パパが死んだからって泣いたらダメ! まだ、ママが居るからねぇ……!」
遊びとしてのおままごと。レイは軽い気持ちでそれに付き合っていたが、ミトの真に迫る表情とその言葉に絶句してしまった。その言葉は、実際にミトの父親が死んだ時にマイアがミトに向けて言った言葉なのだろう。いや、もしかすると、オークの子供達のおままごとには必ずその様な事が組み込まれているのかもしれない。
その事に思い至ったレイの目からは悲しみの涙がとめどなく溢れ出し、そして零れて流れていた。
「レイちゃん! 泣いたらダメ! 天国でパパがだらしないって笑ってるわよ! 強く生きなきゃ。パパよりもママよりも強くね!」
「うん……うん……! ママぁ……うぇぇぇぇん……」
「よしよし。いい子いい子」
ミトにとってはおままごとだろうが、レイにとってはその域を超えていた。本気で泣き、そしてまだ幼いミトの温もりに癒された。
「うふふ。レイちゃんは食いしん坊で、甘えん坊さんねぇ♪ このままお昼寝しましょうね」
「うん……ママ」
そしてそのまま、レイはミトに抱かれ頭を撫でられながら眠ってしまった。ミトもそのレイに釣られたのか、レイを抱きしめながら再び寝てしまう。
どれ程眠ったのかは分からないが、レイは人の気配を感じて目を覚ました。するとそこには、レイ達を見て優しく微笑むマイアとリンカの姿があった。空になっていた壺が木の実でいっぱいになっている事から、採取を終えて戻って来たのだろう。
「あ! ご、ごめんなさい! ミトちゃんと遊んであげるはずが一緒に寝ちゃって……」
「いいんだよ。ありがとうねぇ、レイちゃん。ミトとお昼寝してくれて」
「レイちゃんが言ってた事は本当みたいだねぇ。ワタイは半信半疑だったけど、ミトと寝てるレイちゃんを見てそれを信じたくなったよ。オークと人間の友好、出来るかもねぇ!」
遊んであげると言ったのに寝てしまったレイは、マイアに素直に謝るが、そのマイアから返ってきた言葉は娘の面倒を見てくれてありがとうという言葉だった。
そしてリンカからの言葉に、レイはやはり素直に喜んだ。
「ありがとう、リンカちゃん! あたし、自分がオークと人間の友好の架け橋になるんだって思ってたけど、本当は自信無かったんだ。みんなに色々言われたから……。でも、リンカちゃんの言葉で自信が湧いてきた! あたし、頑張る!」
「ワタイも微力ながら手伝わせてもらうよ。実現すれば、命の心配が減るからねぇ」
里を回って良かった。レイは、そう思った。今はまだリンカとマイアとミトの三人のオークだけだが、レイは仲良くなれたのだ。ならば、このまま頑張れば他のオークとも仲良くなれるはず。リンカと初めに訪ねた、アデルが母親を殺してしまったかもしれないジョン親子とも、いずれは心を通わせる事が出来るだろう。悲しみの雲に覆われていたレイの心の中、その雲間から一条の光が射し始めていた。
「お邪魔しました!」
「また、ミトと遊んであげてねぇ」
まだ眠ったままのミトの頭を優しく撫でて、レイはリンカと共にマイアの家を後にした。
するとその時、何故なのかは分からないが例の無機質な声がまた……頭の中に響き渡った。
――魔物トノ絆ヲ確認シマシタ。種族ヲ一段階解放シマス。ソレニ伴イ、ステータス値ノ変更及ビ上昇値の変更、スキルノ解放及ビ一部スキルヲバージョンアップシマス――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レイ・シーン(女性)十五歳
種族:【人魔】→【魔人】new
称号:【ロード】
HP:666+6666→7332
MP:666+6666→7332
力:666+666→1332
知:666+666→1332
魔:666+666→1332
防:666+666→1332
運:1
スキル:コードNo.1『フレイムソード』
スキル:コードNo.100『ヘルフレイムソード』new
スキル:コードNo.2『ブレイズソード』
スキル:コードNo.200『カオスブレード』new
スキル:コードNo.6『フォース』
スキル:コードNo.12『
・『フレイムボール』
・『ソイルバインド』
・『ウォーターボール』
・『ウィンドナイフ』
スキル:コードNo.120『
・『ブレイズボール』
・『ロックバインド』
・『アクアボール』
・『ゲイルナイフ』
・『ライトニングスピア』
・『アイスランス』
スキル:コードNo.108『オートヒール』
スキル:コードNo.666『モンス・トーク』
スキル:コードNo.6666『ダークフレイム』
スキル:コードNo.999『ダークスラッシュ』
スキル:コードNo.66『召喚』new
⚫ドラゴン
⚫スライムLv.2→Lv.6
〇
〇
〇
〇
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(種族の解放……。何なのそれ……? ――っ!?)
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「突然どうしたんだい、レイちゃん!?」
いつもの様にステータスが勝手に変更されるだけだと思っていたレイは、全身を貫く激痛に襲われ、その場に叫びながら倒れた。自分の体を抱く様に体を丸め、その激痛に耐えるレイ。
程なくして体を貫く激痛は収まり始めたが、代わりに頭が割れる様な激しい頭痛が始まった。全身の痛みが頭に集約したかの様に始まった頭痛は、次第に両側頭部に移り……そこが、文字通りに割れた。その場所はコブが出来ていた場所。
激痛に耐える為に体を抱きしめていた両手は、頭痛が始まると同時に今度は頭を掴んでおり、その両手には人間の頭には有るはずのない物が感じられていた。……が、レイの意識はそこで途切れる。あまりの激痛と変化に、脳が意識を失う事を選択したのだった。
☆☆☆
ここは、どこだろう。見た事もない場所にレイは佇み、そう考えた。
宙に浮く無数の不思議なガラス。そこにはレイの住む世界の様な景色が映し出されていた。
映し出された景色は王都スピアに始まり、王城グングニルや聖樹ユグドラシル、それに太古の森林も映っていたが、それ以外は見た事もない景色ばかり。中には、雲の上の神殿の様な物まで映し出されていた。
それを呆然と見ながら、レイは手元にある幾何学模様の描かれた宙に浮くガラスの板に、素早く指を這わしている。自分の体のはずなのに、自分ではない感覚。不思議に思っていると、それら全てが暗闇に呑まれ……次の瞬間、場面が変わった。
その事から、レイは夢を見ているのだと判断した。夢にしては妙にリアルなのだが、見た事もない光景なので夢としか判断出来ない。
次に現れたのは、レイの知る現実世界に佇む自分。目の前にはランス草原が広がり、後ろを振り返ると王都スピアの巨大な城壁が見えている。
その景色にホッとしていると、自分の体なのにやはり勝手に動き出し……右手を
(えっ!? 何で勝手に動くの? と言うか、今のって魔法……よね!?)
そう思った矢先、レイの体が勝手に放った魔法が炸裂。遠くに見える山に着弾したのだろう。その瞬間、雲を突き抜ける巨大な黒い炎柱が出現し、全てを破壊する衝撃波が前方の景色を薙ぎ払った。衝撃波はレイの体へも到達したのだが、不思議な事に何も感じなかった。
しかし、その魔法の威力は想像を絶するもので、破壊の奔流が収束した後……目に見える地平線の形が激しく変わっていた。当然、太古の森林も跡形も無い。
その威力に恐怖を覚えたのも束の間。レイは再び勝手に動く自分の体を自覚した。
「魔法も成功っと♪ 次は、やっぱり召喚よね! 誰だか知らないけど、認めてくれてありがと♪ コホン。さて、と……『ロードとして我が命ずる。顕現せよ龍皇【バハムート】よ!』」
口が勝手に言葉を紡ぎ、左手は地面へと向けられた。その左手からは漆黒の粒子が溢れ出し、やがて地面に巨大な幾何学模様の魔法陣を描き出す。直径にして、十メートルはあるだろうか。巨大な魔法陣に驚くが、レイは体を何故か動かせない。黙って見ているしかなかった。
そのまま見ていると、魔法陣を形成していた漆黒の粒子が中心に集まり、一つの形を成していく。そして形を成すと同時に
先ず、鱗の色は漆黒。顔に視線を向けて確認すると、裂けた口には鋭い牙がビッシリと並び、目は爬虫類そのものの目。頭に生える四本の角は威厳たっぷりだ。顔はどこから見ても恐ろしいドラゴンそのもの。
そのまま視線を下へとずらして体を見てみると、背中には巨大な四枚の立派な羽根が生えており、太くて長い尻尾もある。その尻尾の先は漆黒の雷を纏っているのか、バチバチと黒い放電現象が見られる。
そこまでは良いのだが、体の形が普通のドラゴンとは決定的に違っていた。何故ならば、人間の様な身体付きだったのだ。まるで竜人……いや、竜神の様である。
その大きさは、二十メートル程はあるだろうか。普通のドラゴンであれば十メートル程なので、その倍は有る。その巨大な竜神が跪き、レイの目の前に存在していたのだ。
「ロード。召喚に応じ馳せ参じました。ご命令を」
「取り敢えず、ちょっと空を飛んでて!」
「御意……!」
漆黒の竜神……バハムートは返事をすると、四枚の羽根を羽ばたかせて空へと飛び上がり、上空をゆっくりと円を描く様に飛行を始めた。
不思議な事に、この時も羽ばたきによる風圧を感じなかった。それよりも気掛かりなのは、レイの召喚スロットのドラゴンの事だった。
(な、何あれ……!? あたしの召喚スロットの中にいたドラゴンって、もしかしてアレなの!? 召喚しなくて、良かったぁ……)
だが、そう思ったのも束の間、レイの口は恐ろしい言葉を呟く。
「あっ! 攻撃もさせてみよっかな♪ 焼き払え!」
(え……まさか? ダメーーーっ!!)
「御意! 【ダークネスカオスフレア】」
心の中での叫びも虚しく、命令は下されてしまった。直後、バハムートの言葉が聞こえた。上空に居るはずなのに声が届くというのは疑問だが、召喚契約によって繋がっているのだろう。
バハムートは滞空しながら口と両手を広げ、両手と口に漆黒の塊を纏わせた。次の瞬間、それら三つの漆黒の塊が同時に放たれ、空中で融合。一つの巨大な漆黒の塊となった後、凄まじい音を伴いながらレイの背後にある王都スピアへと直撃した。レイの目にはゆっくりとした速度に感じたが、それは一瞬の出来事。王都スピアは全て、瞬く間に消滅してしまった。
遅れて到達した衝撃波がレイの体を撫でるが、やはり何も感じない。感じたのは、消滅させてしまった事による心の痛みだった。
(嘘……。嘘よね? ママもパパも、メグもノアもハインだって居たはずなのに……! あたしの、バカバカバカぁーーーっ!)
「あぁ、いけない。直しておかないとね。【※※※※※※】! それと、バハムートは『
(えっ!?)
王都スピアが消滅した事で絶望していたレイだが、勝手に動くレイの口から出た言葉で全てが元通りに再生していく。それも、一瞬で。上空に滞空するバハムートの身体も再び漆黒の粒子となり、天に召される様に消えていった。
目まぐるしく元に戻る世界に呆気に取られたレイではあったが、更に体は勝手に動き……ストレージから何故か姿見鏡を出した。
「やっぱりカッコ良いわよね、【魔王】のあたし♪」
そこに映し出されていたのは……両側頭部から捻れた角を生やした現在のレイに瓜二つの姿であった。
これは夢のはず。そして自分は人間のはず。この姿や、先程までの破壊が自分の願望なのか。夢は人の願望を写す鏡。まさか、いや、そんな。その事が頭を巡り、夢の中のはずなのに目眩を覚え……そして意識を失った。
☆☆☆
激痛により気を失ったレイは、リンカに抱きかかえられてリンカの家へと戻っていた。そしてそのまま、藁敷きの部屋に寝かされていた。
暫くして、レイの手が僅かに動き、床に敷かれている藁を掴んだ。その事に気付いたリンカは、安堵の息を吐きながらレイへと声を掛ける。
「レイちゃん! レイちゃん!? 大丈夫かい?」
「う、うーん。……あれ? あたし、どうしたんだっけ? 何か、角が生えてた様な……夢、か……」
目を開けると、心配そうにレイを見つめるリンカの顔が見えた。しかし、そのリンカの様子が少しおかしい。何故なのかは分からないが、怯えている様にも見える。
暫く呆然と考えを巡らせていると、ようやく自分がどうなったのかを思い出す事が出来た。そして自分の体に意識を向けると、あの激しい痛みは完全に収まっているらしい事も分かった。これなら起きても問題ないだろうと、レイは体を起こしてリンカにお礼を言う事にした。リンカの家に居る事から、リンカに面倒を掛けた事は分かっている。親しき仲にも礼儀あり。礼儀は欠かせない。
「そう言えば、あたしを連れて来てくれたんだね。ありがとう、リンカちゃん!」
「……どういたしまして。 それよりも、何があっても落ち着くんだよ? レイちゃん、アンタ…………人間じゃないよ」
「……え?」
リンカからの言葉に、レイは思考が止まってしまった。
そんなレイの様子を嘲笑うかの様に、外からは屋根を打つザーザーという激しい雨音と、ゴォォォという風音、それに大木の枝が風でぶつかり合う音なのか雷の音なのかは分からないが、メキメキという恐ろしい音が響いていた……
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