13.殺意

自分でも信じられなかった。


首を掴んだ囚人はすぐに意識を失ってしまった。そんなに手に力を入れた覚えは無いが、囚人はすぐに俺の力で事切れていたのだ。


以前から、自分の力に違和感を感じてはいた。どこか人間離れしたような恐ろしさを。

家系的に力が強いのだろう、そう思っていたが。


リナが俺とレオン、ユリアを見る目にも疑問があった。何だか、どこか冷めたような…人間を見る目では無い、そんな気がしていた。


この積み重なっていく違和感の正体は何だ?

誤って殺してしまった囚人の報告をするため、政府本部に辿り着く。リナを呼んで貰い、何故か通された広い会議室で一人、彼女を待った。


「待たせたわね。どうしたの?」


リナが部屋に入って来る。隠しているつもりだろうが拳銃を携帯しているのが分かった。


「教えて下さい」


リナさんは眉間にしわを寄せている。俺を見つめるその視線は、いつになく鋭かった。


「何を隠しているんですか?」


しばらくの沈黙の後、彼女は銃を取り出した。


「……!」

俺も銃を取り出し、互いに突き付ける。


「…ギル…貴方、成長したわね」


ニヤリと笑ったリナさんの笑みを合図に、俺と彼女は同時に引き金を引いた。


「…!?」


何故だ。俺の体は固まっている。

引き金は引けていなかった。それに気付いたのは、リナが撃った弾丸が自分の左胸に当たった時だった。


激痛で立っていられなくなり、その場に倒れ込む。やがてリナがこちらに歩いて来て、俺を見下ろして冷たく言い放つ。

「貴方は所詮作り物なのよ。私達に敵うと思わないで。抵抗出来ないくせに銃なんて握って…ふふふ」


作り物?抵抗出来ない?

どういう意味だ、とリナを睨んだ。


「貴方が来た理由は分かってるわ。ヴァイスから連絡が来たの。貴方が誤って囚人を殺したと…。あの子が死体を確認して、貴方の力が私達の予想以上に発達してしまっているのに気付いたのよ。万が一を考えて、こっちで貴方を処分する事にしたの」


…作り物。そうか。

詳しくは分からないしこいつから聞けそうもないが、俺は作り物…。


待て、なら、レオンとユリアは?

まさか、あいつらも?


「ちなみに、レオンとユリアも作り物よ。シャーロット三兄妹の幼少期の記憶、ユーティス牢獄を管理するための家という決まり、貴方達が自分を人間だと思い込んでいる事…全部嘘。貴方達は人手不足のユーティス牢獄を永遠に成り立たせるための存在なのよ。…ひとまず貴方は「死んだ」事にしましょう。さよなら、ギル」


ごめん、レオン、ユリア。

お前達を残して行ってしまう。


せめて、お前達だけでも救われてくれ…




「…ギルは俺達やリナさん達政府の予想を超えた成長をしてしまった。このままではじきに囚人以外に危害が及ぶ、また本人が正体に気付く可能性もある。だから処分された」


淡々と語るオスカーに、俺とユリアは言葉を失っていた。


「…人造人間…」

「…兄貴は、処分…」


やっと出てきた言葉はそれだけで、衝撃のあまり怒る事も悲しむ事も出来ない。

…だが、今更こいつらの言う事なんて信じられない。


「俺達が…人造人間だっていう証拠は…!?」

「私は、ユリアより力は無いの」


ヴァイスが俺を見ながら口を開く。

「どうせ私とユリアの事聞いたんでしょ。ねぇユリア、貴女が私に抵抗出来なかった理由…分かった?」


ユリアは当時の事を思い出したのか顔色を若干曇らせ、ぽつりと呟いた。

「…ヴァイスは…「看守」だから、私は…リミッターが働いた…」

「そうよ」


オスカーとリックが不思議そうにヴァイスを見る。ヴァイスは「大丈夫よ、問題になるほどの事じゃないわ」と言ったが、俺とユリアの間では充分問題化したぞ。


「でも…俺はリックに手刀を叩き込んだり、冗談だがそういう事は出来たぞ」

「その程度ならリミッターは働きません。でも仮に、レオンさんが…故意では無くても、たまたまその時手にハサミやカッターなんかの刃物や武器になり得る物を持っていたとしたら…もしかしたらリミッターが働いていたかもしれません」


リックは俯きながら話す。淡々と語るオスカーやヴァイスと違って、こいつだけはずっと俯いて泣きそうになっていた。


「…騙されてたんだよな、俺達は」


今になって状況が飲み込めて来た。ユリアの方を見ると、こいつも暗い表情をして口を開く。

「よくこんな得体の知れない私達と過ごせたな。お前も物好きだな」


ヴァイスを睨むユリア。ヴァイスはというと真剣な顔をして、ユリアの側に駆け寄った。


「ユリア、私が貴女を愛していたのは本当よ、それだけは嘘じゃな「黙れ!!!」


ヴァイスの言葉を遮り、ユリアが叫ぶ。リックはビクッと体を震わせ、オスカーは仲間をフォローするかのように話した。


「…最初は俺はお前達兄妹が怖かったよ。でも、一緒に過ごしていくうちに…人間か人間じゃないかなんて分からなくなって来たんだ。改めて気付かされたのはギルの処分の時で…」

「うるせぇよ!!お前らの事なんかもう信じられねぇ!!!嘘つき!クソ野郎!人でなしはどっちだよ!!?」


聞いてられなくなった俺は、涙を流しながらそう叫んだ。


今まで仲間だと思ってた。

あまりにも、あまりにも考えられない裏切りだ。

俺がこいつらの立場なら、こんな嘘つき生活は絶対に出来ない。きっと兄貴も、ユリアも。



「ユーティス牢獄なんかもう知らねぇよ!!滅んじまえこんなとこ!!お前らも!もう、二度と…俺達に関わんなよぉ!!!」



どうしたら良い。

どうしたら良い?

教えてくれよ兄貴、分かんねぇよ。



だって俺達、こいつらに手も足も出せねぇんだよ。


「…俺達をどうすんだよ」

「…政府に引き渡す。…その後は…分からない」


オスカーも歯切れが悪くなって来たな。

まぁもうどうでも良い。


もう許さねぇ、なぁ、


「ユリア、こいつらどうする」

「殺す」


オスカー達の驚いた目が俺達を見つめた。


「…どうせリミッターが働くぞ」

「んなもん知るか」


怒りで思考が支配されていく。

こいつらを殺す、それ以外は考えられなくなっていった。


「お前ら 全員 殺す」



どこか機械的に発された言葉を合図に、俺は縛られていた縄を引きちぎっていた。

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