仕事が終わって

「会長に文句は言いたくないが、さすがに今回は言う他ないぞ」


 オルマに戻るなり、シンはずかずかと会長室へ足を踏み入れた。

 趣味の一人ババ抜きに勤しんでいたようだが関係ない。


「障気の危険性も知らないガキを入会させるなんてどうかしてる。バディ云々の規約を作るより、常識問題を試験にすることを急ぐべきだろ」

「ずいぶん怒っているな。それに、顔に入れ墨なんて入れている」

「羨ましいなら入れてやるよ。くそ」


 さんざん悪態をついて、ようやくシンはソファに腰掛ける。


「確かに、障気の存在を知らないのはすこし問題だな」

「だろう?」

「で、それが原因で仕事はどれも失敗と?」

「いや。巡回もそれなりにできたし、大狼は八頭くらい討伐したよ、耳と尻尾を持って帰れなかったけど」

「なるほど。まあこの二つは成功ということにしておこう。報酬の取り分は? 半々か?」


 聞かれて一瞬逡巡し、シンは手を振る。


「いや、アオバが全額だ」

「何?」

「アイツ、純粋な剣術で全部殺しやがった。凄まじかったよ」

「……信じられないが、お前が言うなら本当なんだろう。だが一頭分くらいは」

「だめだ」


 きっぱりと断る。

 どれだけ腹立たしかろうと、どれだけバカであろうと、先輩である自分が、後輩の取り分を奪うことはできない。

 会長は呆れと笑顔が混ざった顔をした。


「ふふ、良いだろう。さっそく彼女に報酬を」

「失礼します。ついさっき帰りましたよ」


 ノックもほどほどに運転手が入室する。

 こちらは完全に呆れた顔をしていた。


「マーク、アオバは?」

「だから帰ったって。そこまで来てたんだけど、突然」

「本当に何を考えてんだ。で、障気の説明くらいはしたんだよな?」

「したさ。一度包まれれば目眩、倦怠感、鈍痛に襲われ、もろに吸収すれば失神、下手すれば死ぬ、この程度だが」


 それを聞いて一安心した。

 と、マークは安堵の表情を浮かべたシンを見やり、くすりと笑う。


「相性良いと思うんだけどな」

「誰と」

「アオバちゃんと。たぶん彼女が帰ったのって、さっきの話が聞こえてたからなんだ」

「……」


 後輩の取り分を、という下りだろうか。

 どうやら正解だったらしく、マークは笑みを強める。


「やー、優しくされると照れて逃げ帰るなんて、可愛くない?」

「ならお前が教導しろよ」

「俺には運転の仕事があるんで」

「そうだ。というわけでこれを頼む」


 会長が小切手を渡してきた。

 四千ルドと書き込まれており、大狼の討伐報酬だった。


「住所は登録されている、渡してやれ」

「他の職員にやらせろよ」

「今のところ、教導はお前だ」

「……」


 にべもなく断られ、シンは小切手を奪い取るように受け取る。

 バタン、と強く扉が閉められた。



 流通の中間地点であるオルマは、その面積に対して比較的大きな発展を遂げていた。

 オートモービルがゆるりと往来できるだけの大通りに、魔素の供給を行う配管は最新式。


 そんな恩恵を受けて、商人達は景気よく客を呼んでいる。

 店先に並んだ商品は、大都市にも引けを取らないラインナップだ。


「ようシン。最新鋭の導銃はいらないか? 短導銃も、長導銃もあるぞ」

「いらないよ」

「シンさん。メシはどうだい? 安いし味は保証するよ」

「今は結構」


 ともすれば耳が痛くなりかねない喧噪だ。

 そそくさと小走りして、小切手と共に受け取った住所へ急ぐ。

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鬼と刀は良く似合う @ookiyuzuki

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