夢現
ユウやん
第1話 未来投資
日本に新しいモノが追加された。
『未来投資』
それは自分の今の幸福を未来に託すと言うなんとも変なモノだ。
これが追加されたのはIAの技術やプログラムの進化によって偶然未来に何かを残す事が必ず出来る様になったのが事の始まりだ。
人は未来に成功を求める者。
それを裏ずけるように、この未来投資が出来てからは皆甘い飴に群がる蟻の様に役所に詰め寄った。
不確定な未来がより良くなるなら誰しもそうするだろう。
しかし、この未来投資にも欠点は有る。
それは、『今』を犠牲に『不確定な未来』に幸福を投資するに有る。
『今』有る幸福を『未来』に投資すれば火を見るより明らかで、必ず『今』が不幸になる。
知能や理性、思考がまともならこれは明らかにこちらに分が悪いのが分かる事なのだが人間は『成功者』を見ると目先の危険より遥か遠くの安全を追い求める。
なんとも不合理なことだろうと僕は思う。
「行ってきます。」
家に居る両親に感情の篭っていない言葉を投げかけ四年も使い続けた相棒のランドセルを背負って学校へ向かう。
僕の両親も未来投資に手を付け今は不幸になった。
母親は2人目の子供をその身に授かったが未来投資のせいで流産。
その時の母親はこの世の絶望を味わった様な顔をしていたが自分に言い聞かせる様に「きっと未来にこの子よりもっと素晴らしい子を授かるから大丈夫。」と言い 、三日三晩狂ったように泣いたのが嘘の様に元気に日常を過ごしだした。
父親も未来投資に『今』を投資し、課長の座を約束されていた会社がクビになった。
現在は安いバイト代でなんとか生活をしている状況。
しかし、父親も仕事がクビになった当日から三日三晩狂ったように酒を煽り怒鳴り散らし暴れてたが今では嘘のように静かになり、「今よりもっと良い地位に立てるさ、もしかしたら社長になったりしてな。」と言い笑ってた。
それを見ていた僕は10歳で両親が狂ってると感じるようになった。
いや、両親だけじゃない。
外を歩けば職を失った人で溢れかえって居て皆口々に「きっと未来は今より…」「今よりも未来投資のおかげでより素晴らしい未来が待ってる…」と腐った魚の様な目で徘徊している。
未来投資をしているのは大人だけじゃない。
実はこの未来投資、老若男女問わず誰でも出来る。
だから、言い方は悪いだろうけど見た感じ老い先長くないご老体の人も皆口々に「きっと未来は…」「未来は素晴らしい人生が待っている…」と言っている。
たった一つのシステム『未来投資』によって日本は、いや世界は狂ってしまったのだ。
「おはようございます。」
いつもの様に教室に入り自分の机に座る。
この教室も生徒の人数は入学した頃から比べて約半分位まで減った。
理由は簡単、未来投資に今を投資した生徒が自殺や鬱で入院、自宅に引きこもり元の生活には戻れない状態になっているからだ。
今も教室に居る生徒は通学途中で見た社会人達と同じく未来を夢見て自我を保ってるのがほとんどだ。
「みんな席に付け、出席を取るぞ。」
予鈴のチャイムと同時に先生が入って来て出席を取る。
昔だったらそれが凄く面倒で不必要な時間にも思えただろうが今はそれが凄く助かる。
今日は誰が居なくなったのかを知るのに丁度いいから。
「田中。田中はいるか?……あいつもか。」
名前を呼ばれても返事は無く、シーンと静まり返った教室に先生は名簿からちらりと視線を外しこちらを見て不在を確認した。
先生が不在を確認し、チェックを付けようと視線を戻したその時外から叫び声と共に何かが降ってきた。
その後すぐにグシャと気味の悪い音が聞こえてくる。
教室の誰も見向きもしない。
当然だろう、これで何度目の自殺者だろうか。
先生すら見向きもしない。
仕方ないので窓側の席に座ってた僕が下を見ると頭部から赤い液体に混じり白い物体を周囲にぶちまけてる死体があった。
よく見るとそれは田中くんだと分かった。
「先生、田中くんが上から落ちてきました。」
動こうとしない先生に僕は死体が誰だったのか報告した。
すると、面倒くさそうにため息を吐きながら先生は「今から校長室に行ってきますので、各自自習をしているように。」と言葉を残し気だるそうな足取りで教室を出ていった。
数分後、校長と担任の先生がブルーシートをもって山田くんの元へとやってきた。
ブルーシートを山田くんに被せ校長が電話で何かを話している。
多分警察へ連絡しているのだろう。
連絡を終えた校長は担任と何やら話をし始めた。
遠くて聞こえなかったが唯一「迷惑なんだよ。」と「学校で死ぬなら……」って言葉が聞こえたからお互い死んだ生徒より自分の事で頭がいっぱいなんだろうと思った。
未来投資は上限25年と言う制限がかけられているが上限以内ならいくらでも『今』を投資出来る。
ただし、投資した分に比例して『今』が不幸になる。
例えば、1年分だけ投資したとすると怪我や軽い病気が大切な日や場面で起きるなどと言った比較的軽い気持ちで出来るが、これが上限の25年となると経営してた会社が倒産し多額の借金を背負い、生死に関わる事故や病気になると言った感じになる。
それを乗り越えると投資した分の幸福が『未来』に手に入る。
そう、『不幸な今』を乗り越えれたのならばの話だが……
夢現 ユウやん @yuuyann
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