第三話 演目 断罪丸ボディ発進!

 博士は怒りを抑えるように深呼吸して、ヘッドホンをしている女性職員を見る。


「挿入歌! スタートじゃ!」

「はい! 再生します!」


 ヘッドホンをしている女性職員は再生ボタンを押した。

 すると軽快な音楽と共に歌が流れ始めた。


『君の心に悪を許さない心はあるか?』

『自分の絆や縁を守る誓いはあるか?』

『大切な者を奪われて泣き寝入りはしていないか?』

『それは生きていないと同じではないか!?』

『生きる為に戦い自分に降り注ぐ不幸を許すな!』

『断罪する気持ちを無くせば心は腐る一方さ!』


 挿入歌のサビに入りそうなその時!

 緊急事態を知らせる警報音と、赤く点滅する危険信号が作戦室を照らす!


「む!? 何事だ!」

「は、博士!」


 博士は自分のモニターを見るが侵入者ではないようだ。

 メガネをクイっとしている男性職員が青ざめていた。


「どうした!?」

「断罪丸ボディから急激にエネルギーが溢れています! 腰に収納している断罪剣からの断罪エネルギーが増幅しているようです!」

「何!? そのエネルギーを破損した『縁切りの太刀』へ回せ!」

「はい!」

「は、博士~今までに無い数値の断罪力の量ってカンジ~なガンジー?」


 もはや絶滅したであろう、ガングロルーズソックス女子高生風の女性職員が、棒付きのアメを舐めながらてんやわんやしている。

 

「メインモニターに解析情報を出せ!」

「お、おっけ~!」

「こ、これは!?」


 メインモニターに表示されたのは、断罪丸ボディの様々なステータス。


「私の設計を超える数値を出している!」


 博士は驚きながらも、まだまだ上昇する数値を冷静に見ようとしていた。


「まさか暴走ですか!?」

「いや、これは断罪丸ボディの怒りだ! 人間が怒ると同じ現象が起きている!」

「ですがコアとは違い人工知能は無いですよ!?」

「世の中不思議であふれている証拠だ」


 否定するよりも受け入れる選択をしたのか、博士は目の前の状況をいち早く飲み込み、落ち着いてメインモニターを見ている。

 

「……あ、あの博士」


 おとなしそうな女性職員が、自信なさそうに博士を見た。


「どうした?」

「断罪丸ボディが早く発進させろと言っているような気がして……」

「そうか、君が一番断罪丸ボディを調整や塗装をしていたな」

「は、はい」

「ならば話は簡単だ、私達技術者の中で君が一番断罪丸ボディと心が通じているのだろう」

「私がですか?」

「君から言ってくれ、今発進させると基地を壊しかねないとな」

「わ、わかりました」


 おとなしそうな女性職員はキーボードを操作し、断罪丸ボディの映像を自分のモニターに表示した。


「え、えっと……断罪丸ボディちゃん落ち着いて」


 半信半疑でマイクに向かって断罪丸ボディに話しかける。

 すると、起動していなはずの断罪丸ボディは目を青くゆっくりと点滅させた。

 言葉でも発しているように。


「私は貴方とちゃんとお話出来ないけど、貴方の気持ちはわかるわ」


 諭すように優しく話しかける、おとなしそうな女性職員。


「博士の気持ち、私達の気持ち、鏡さんの気持ちを感じてるんだよね?」


 その言葉に断罪丸ボディは、ゆっくりと目が強く光っている。


「なら、安全確実に送り届けるから協力してね、発進出来るように出力を下げて」


 メインモニターに映っていた断罪丸のステータスが徐々に下がっていく。


「帰ったきたら綺麗にしてあげるからね!」


 ニコッと笑いながらそう言ったおとなしそうな女性職員、断罪丸ボディはやる気を出したのか、怒りを抑えようとしたのかわからないが、排熱をして白く熱い煙を出した。


「これなら発進出来るってかんじ~!」


 ガングロ女子高生風職員は博士に向かってサムズアップをする。


「よし! 出来る限りをするぞ! 次は勝利願掛けの舞だ!」


 博士は右手を突き出して指令を出す!


「お待たせみこと!踊っちゃって!」


 ヘッドホンした女性職員は自分のモニターを見ている、そこに映っていたのは。


『すっごい断罪エネルギーだから近付けなかった』


 水色の長い髪に、紅白の巫女服のグラマーな女性が映っていた。

 少々露出が過激だが、見ようによっては可愛いとみてとれる。


『早速おどっちゃう』


 命は断罪丸ボディの前で踊りを始めた。

 それは美しく神聖な踊りを感じさせる。


「断罪丸ボディの最終確認は!? 怠りは無いな!?」

「博士、問題はありません! 後は発進させるだけです!」


 メガネをクイッとしながらニヤリとしている男性職員。


「よし!」

『こっちも踊り終わった』


 断罪丸ボディの前で踊っていた命は、発進格納庫のカメラを見ている。


「命! 退避して!」


 ヘッドホンをした女性職員はキーボードを操作する、格納庫にある分厚い扉が開いた。

 その扉の上には案内板があり、絶対安全発進最前線特等席と書いてある。


『はいな』


 命はその中へと入り、分厚い扉はしまった。


「うっし! 全ての安全確認はクリアしたぜ!」


 兄貴肌な男性職員は大声を張り上げる!


「清めの水、清めの塩をふりかけ開始!」


 メインモニターに映っている断罪丸ボディ、機械!のアームが水と塩を持っていて、それを断罪丸ボディの頭へとかける!


「パッパとひとつまみ確認! 清めもバッチリじゃん?」


 ガングロ女子高生風の女性職員はテンションMAXに!

 ノリノリで右手でペン回しをしながら左手でキーボードを操作していた。


「断罪ゲート起動! 目標地点は断罪丸コア周辺、ワープゲート安定、帰還準備も大丈夫です!」


 おとなしそうな女性職員は、期待の眼差しで断罪丸ボディを見ている。

 格納庫に待機している断罪丸ボディ、その少し先に虹色の歪んだ空間が機械によって現れた!


「全行程終了を確認! 断罪丸ボディの遠隔そう――いや違うな、バックアップもオッケーだぜ! 全部クリアだ博士! 発進号令よろしく頼むぜ!」


 気合いの入った声を放つ兄貴肌な男性職員の言葉に職員全員が博士を見た!


「それでは皆様、長らくお待たせいたしました、ご起立願いましてはお手を拝借!」


 職員全員が起立をし、メインモニターを見る。

 博士が続いて立ち上がると、目の前の机からマイクが出てきた。

 プラスチックのタグが付いており、発進装置と書いてある。


「断罪丸ボディ! 発進!」


 博士の魂の叫び声は部屋を揺るがす!


「「「「「「いよー!」」」」」」


 技術者全員の一本締めの音と共に、断罪丸ボディはカタパルトで、虹色のゲートに向かって射出された!

 虹色のゲートに突然する断罪丸ボディ、数秒もしないうちに虹色のゲートは消える。


「……頼んだぞ」


 博士達は祈るように、メインモニターに映る閉じたゲートを見ていた。

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