第三話 演目 秘密結社子供の秘密基地

 断罪丸を見下ろす皇帝、その巨体からの視点では豆粒にも見える。


「そんなオモチャで私を倒すだと!? 笑わせるな!」


 皇帝は右手を振り上げて鏡を目掛けて振り下ろした!


「まさか人間の常識の範囲内で考えうる出来事しか想定してないのか?」

「いや、コイツの勉強不足なだけだ」


 断罪丸を肩に乗せている鏡はひょいひょいと皇帝の叩き潰そうとする腕をかわしていく。


「断罪丸! お前のボディを呼べ!」

「了解した! 断罪緊急要請!」


 断罪丸の頭に2本ある尖ったアンテナが赤く激しく点滅をはじめる!


「隙だらけだ!」


 皇帝の攻撃は見えない障壁に阻まれた。


「縁君、あのロボット君は何しようとしてるの?」

「ああ巨大ロボットを呼ぼうとしている」

「巨大ロボット!? それが絆ちゃんの神器?」

「いえ、私の神器はあくまでも鏡ですわ」

「なるほど」


 断罪丸の緊急コール先、それは。

 

 何処か遠くの場所、背丈のデカい植物に囲まれてダンボールで出来た子供らしい秘密の中にそれはあります。

 ダンボールの中の一角に、不釣り合いな近未来的な不思議なドアの先は秘密結社。

 その中枢で神主っぽい姿のおじいさんと、同じ服装の男女数人が機械とにらめっこしています。

 部屋の大きなモニターには、巨大な断罪丸が映っていて、その大きさは20メートルは超えています。


「博士! 断罪丸からの緊急要請です!」


 特に特徴も無い男性職員が声をあげた!


「緊急要請か! 位置は!?」


 おじいさん博士の顔や髪型は絵に描いたような博士、でも服装は神主や宮司みたいな和服で黒電話の模様があしらわれている。


「断罪丸コアの位置を特定しました」


 鼻眼鏡をした男性職員が声を上げる!


「メインにまわします!」

「こ、これは!?」


 博士が声を上げ、職員全員がメインモニターを見る。

 メインモニターに映されたのは巨大な人の形をした影と絆たちが居た。

 巨大な影は頑張って鏡を叩き潰そうと必死になって色々な攻撃を繰り出している。


「敵の解析結果が出ました! レーオ・ヒッキョ・イズールが人間辞めて神になったようです!」

「絆様を傷つけてきた元凶の一人か!?」

「間違いありません! 鏡の異常な断罪願の量がそれを裏掛けています!」

「博士! 先日の戦いで破損した『縁切りの太刀』の修復と断罪丸ボディのエネルギー回復が間に合っていません」


 祭と書かれたお面をした男性職員が、自分の操作している機械を見てそう声を上げた!

 その画面には人型兵器が持ちそうな武器が奉納されるように飾られていて、機械が自動で修復作業をしている。


「元人間とはいえ相手は神です、絆様より頂いた神器がなければ対等に戦えないのでは?」


 メガネをクイっとさせてる男性職員の冷静な一言。


「神器の修復エネルギーを断罪丸ボディに流せ、発進までに少しでも多く回復させる」

「博士?」

「どちらにしろ断罪丸ボディは鏡にとどけなければならん」

「そうですね、了解」


 メガネをクイっとしながら『そうでなくては』と言いながら笑った。


「博士!挿入歌はどうしますか!?」


 ヘッドホンをした女性職員が博士を見る。


「『罪を払うは断つ剣』だ!」

「はい!」


 ヘッドホンの女性職員は自分の机の引き出しをスライドさせる!

 そこには綺麗に並べられたカセットテープが敷き詰められていた。

 そこから一つ取り出し。


「テープは伸びてない! よし! 断罪挿入歌! セット! オン! よし!」


 テープの伸びを確認して、右手で天高くそれを掲げて、カセットを再生機械にセットする!


「……長かった、あの国と皇帝が、絆様と縁様に何をしてきたのかを考えると、腸が煮えくり返る!」


 博士は生涯殺すべき相手を見るようにメインモニターを睨んでいる。


「博士、私達は非合法の秘密結社ですが非道な事はした事はないはずです!」

「確かに我々は悪人の命を奪ってきました、綺麗事を言えない立場に居るかもしれません」

「ですが人の道を踏み外した事は無いはずです!」


 職員はそれぞれ自分の考えを博士に伝える、その声には絶対的な強い意思があった。


「私が絆様と出会ったのは孫の鏡がきっかけだった……今でも思い出す『じいちゃん、救いたい女の子が居る! 僕は力が無いから救えない』と泣いていたな」


 先程とは違って優しい顔をする博士、感情が高ぶったのか一筋の涙を流した。


「それから色々とあり、孫は断罪の神様の元で修行をした、心、技、体を鍛えた」


 職員達は博士の言葉を聞き入っている。


「私は神より与えられた『断罪の宝玉』で断罪丸コアを作りそれを神に献上し、そして『断罪剣』を扱える機体を準備した」


 自分の手を見る博士、そのしわしわな手には数え切れない苦悩と成功があるように見えた。


「……皆、私は今感情に身を任せようとしている」


 博士はその右手を強く強く握り締めて自分の部下を見る。


「任せましょう!」

「今だけはいいですよ、ただそれに慣れないで下さい」

「つーか、ぶっちゃけ、ここでキレなきゃ人間じゃないってガンジー?」

「博士! 反省なら後でいくらでも出来ます、もし博士の気持ちが暴走したら私達が止めます!」

「だな、それに俺は絆様達を神様ってよりは『人間』として好きだから助けてやらんとな」

「ふふ、それを言ったら孫の嫁は私にとっても大切な孫だ」


 博士と職員全員との一時の平和な世間話にみんな笑顔になり笑い出す。

 だが博士は直ぐに厳しい顔に戻った、職員もそれを見て各々の机のモニターを見る。


「ならば! この心のままに今断罪してくれる!」


 博士の魂の怒りが部屋に響いた、職員達は自分達のモニターを見て色々と操作している。

 メインモニターの隣にあるサブモニターに断罪丸ボディが映し出されていた。

 まるで生きているかのような面持ちを放っている断罪丸ボディ。


 その身体は起動はしていないはずだった……。

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