第六話 兎と砂時計その3

「麗華さんに簡単に説明しますと、絆さんは小さい頃からいじめられてたのです」


 いずみは右手の人差し指を回している。


「それは不幸の神だからですか?」


 麗華はいずみを見た。


「そうです、それが徐々にエスカレートしていって絆さんは何度か殺されかけたんですよ」


「反撃すればまたギャーギャー騒ぐんだよな、そういう奴らは」


 そう言い放った縁は、真顔で用意されていた飲み物を飲んだ。


「まあ……持ち前の不幸でどうにかなりましたわ」


 絆は右手で口元を隠して笑った。


「ご両親は何をしていたんですか?」


 麗華は縁を見る。


「母さんは運の女神なんだけど、一度暴れると徹底的だからな……父さんが何時も止めてたな」


「お前らの母さん、色々調べた上で全力でボコリに来るからな」


 色鳥はため息をした。


「お母様は何時も謝ってましたわね、お母様は悪くないのに」


 絆は小さくため息をする。


「父さんや父さんの知り合いが俺達を守ってくれたんだが、限界があった」


 縁の目は殺意に満ちている。


「だから俺は絆を殺そうとする奴を『幸せ』にする事にした……『不幸』が嫌いな奴らを徹底的にな」


 自分は悪くないと言わんばかりに自信満々に言い放つ縁。


「人はやはりつまらんな、面白い人は少数だ」


 そう言った縁の顔は全て悟ったような笑顔をしていたが、その笑顔は不自然だった。


「おいおい縁さんや、修行時代の顔止めなさいな、スファーリアさんに逃げられるぞ?」


 色鳥は縁の表情を察して茶化し始めた。


「何故スファーリアさんが出てくるんだ?」


 縁はジト目をして色鳥を見る。


「んな顔してると一緒に居たいと思うか?」


 色鳥はニヤリと笑う。


「お前に言葉では勝てないか」


 縁はため息をした後、飲み物を鞄から出した。


「あの、修行時代とは?」


 麗華は入り込むタイミングを図っていたようだ。


「ああ、最終的に即死薬を飲んでました、よくわからない修行ですね」


 いずみが麗華の質問に答える。


「え? 何でですか?」


 麗華は理解しきれていない顔をしていた。


「『確実に死ぬを死なないようにするため』さ」


 縁はあっけらかんと答える。


「即死薬を飲んで死ななかったら、運が良いでしょ?」


 絆の言葉も麗華を混乱させるに十分だった。


「運がいいと言う範囲を超えてますね?」


 複雑な表情の麗華は冷ややかな目で縁を見る。


「他にもありますが、縁さんは妹を守る為に理解出来ない修行をして力を付けたんですよ」


 いずみはメガネを布で拭きながらそう言った。


「なるほど、しかし皆さんは絆さんの為に世界と戦う決意をしましたね」


 麗華は集まった経緯も何も知らないからこその、当たり前の質問だった。


「人様を『弄ぶ』奴が気にくわないからだ、遊びは心を豊かにするものだからな」


 色鳥は何時の間にかペン回しで遊んでいる。


「俺は色鳥に近いな、自分達の勝手な判断で殺そうとしてるのがムカついた……『命をなんだと思ってるんだ?』とな」


 陣英はナイフの簡単な手入れをしていた。


「私は絆さんに襲いかかってくるお馬鹿に、ちょっと聞きたい事がありましてね」


 いずみは右手でメガネをクイっとする。


「聞きたい事ですか?」


 麗華はメガネを遮断機の光のように光らせているいずみを見た。


「仮に絆さんが死んだとして世の中から『不幸』が無くなるかとか、自分達のやっている事の正当性とかをね」


「答えは?」


「言葉で返す人は少なかったですね、直ぐに暴力に訴えるお馬鹿さんばかりでしたよ」


 つまらなそうに深いため息をしている。


「僕は人助けが好きだからだね」


 グリオードは涼しい顔でそう言った。


「本当は『賞賛されたいだけ』でしたよね?」


 いずみは珍しくジト目でグリオードを見ている。


「勘弁してくれ、あの頃は『賞賛の加護の力』に溺れている頃だったから」


 グリオードは苦笑いしながらいずみの視線から顔を背けた。


「その後しばらくして痛い目に有って……麗華やジンと出会ったんだ」


 宮殿を見回すグリオードの顔は思い出にひたっている。


「話がそれたね、僕達は戦い抜いたんだ」


 グリオードは麗華を見た。


「世の中の書物には『絆戦争』とか『不幸戦争』とか『運の悪い私は世界と戦う事になりました』とかになってますね」


 いずみは指折りで数えている。


「最後のはなんなんだ?」


 縁は小声でツッコミをした。


「博識様、世界と戦って最終的にどうなったんですか?」


「私達は勝ったんですそれでいいじゃないですか? 『壮大なオチ』なんて無いですし、いりません」


 いずみは魔法で本を召還して読み始めた。


「あれ? シンフォルト様も参加していたのですか?」


 麗華はシンフォルトを見る。


「もちろんです、しかし暴力は最終手段、私は説得しかしてません」


 シンフォルトはニコニコ笑いながら麗華を見ていた。


「え?」


 麗華は豆鉄砲を食らったような顔をする。


「シンフォルトは死なないんだよな、いやはや道徳の加護は怖い」


 縁は軽口を叩くように喋っているが、麗華とシンフォルト以外からの視線は『お前が言うな』と物語っていた。


「は? 道徳で死なないってなんですか?」


「麗華、神の力は常識では理解できない、悪魔の君ならわかるだろ?」


 グリオードは混乱している麗華に優しく語り掛けた。


「失礼しました、普通の感覚で考えていました」


 麗華かシンフォルトに対して軽く頭を下げた。


「さて、話はジャスティスジャッジメントに戻すが……」


 グリオードは姿勢を整えたい。


「各々の判断で戦うでいいんじゃね?」


 色鳥は両手でペン回しをしていた。


「昔と変わらんな、助けが必要ならお互いに声をかければいい」


 陣英はナイフを腰に付けていた分厚い皮製の入れ物に締まった。


「そのために資料……いえ『虎の巻』ですから」


 いずみはメガネを光らせている。

 そんな話をしていると応接室の扉が開いた。


「グリオード様、来客です」


 ジンはグリオードに一礼する。


「誰だ?」


「スファーリアと申しておりました」


「さっき縁と色鳥が話していた人か、通してくれ」


「かしこまりました、案内をします」


 ジンはスファーリアを案内するために出て行った。


「スファーリア先生が何のようだ?」


「さあ?」


 色鳥と縁は首を傾げた。


「こちらでございます、スファーリア様」


「ありがとうございます」


 応接室の外から2人の会話が聞こえる。

 ジンが応接室の扉を開けた。

 スファーリアは小走りで応接室に入ってきて、辺りを見回す、誰かを探しているようだ、その人物を見つけて近寄った。


「色鳥君、桜野学園が襲われた」


「なんだって!?」


 色鳥は立ち上がった!

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