第五話 遊ぶ範囲と兎達その12

「おい! 今の話とそいつが何の意味がある!」


 アーグルアは必死に首を動いている。


「貴方に説明するのは止めましたよ?何聞いてるんですか?お馬鹿さん」


 いずみは可哀想な物を見る目で見ている。


「あ、そっか、貴方がゲーム感覚で生きているのを考慮するのを忘れてました」


 ポンと手を叩いた。


「ゲーム感覚で言うなれば、最強レベルから一般人に戻されて混乱してるんですね?」


 一人で頷いたているいずみは、右手の人差し指で自分の頭をトントンしている。


「失礼しました、解説しましょう」


 いずみは両手を広げた。


「『隷属の神と貴方の縁は無くなったので、貴方は隷属の神から支援を受けれなくなった』です」


 縁はいずみの言葉を聞いて呆れている、いずみにではなくアーグルアに対してだ。


「これでもわかりませんか?」


 いずみは深くため息をしてアーグルアをじっとみる。


「な、なっ!」


 アーグルアはやっと色々と意味を理解したようで、顔が徐々に青ざめている。

 逃げ出したいのか首が動いているが身体は動いていない。


「理解してもらえて良かったです」


 いずみはメガネを光らせた。


「な、なんだよそりゃ、チートじゃ……」


 青ざめているアーグルアは呟くように喋っている。


「待ってください」


 いずみは眉間にシワを寄せた。


「貴方今……『チート』と言いましたか?」


「チートじゃないか! 何も間違ってないだろ!」


 ここぞとばかりに吠えるアーグルア。


「いえ、間違ってますよ? 説明しましょう」


 メガネを外して説明を開始するいずみ。


「まず、チートの意味知ってますか? 俗語ではなく本来の意味でですよ?」


 メガネで遊びながら説明を続けている。


「知らないから使ってるんですよね? 説明しましょう、『ズル』や『不正』という意味です」


 右手の人差し指でメガネを右回転にクルクルと回している。


「と、なれば貴方は縁さんをズルや不正と言いたいんですね?」


 回していたメガネは勢い良く飛んでいく。

 映し出されている映像の範囲外なのか、メガネは消えた。


「あってるじゃないか!」


 意味の無い言葉を続けているアーグルア、言葉の引き出しが少ないのだろう。


「貴方、縁さんの何を知ってるんですか?」


「しらねーよ!」


 アーグルアの渾身の叫びだった。


「ですよね? 何も知らずにチートと言うのは説得力がありませんよ?」


 その叫びに意味はなく、いずみはため息をしている。


「だからなんだ!」


 もはや意味を理解出来ない子供のような振る舞いをするアーグルアだった。


「自分の意見を言って下さいよ」


 いずみはアーグルアを睨んだ。


「言えないから……わめいてるんですよね?」


 鼻で笑い、嘲笑うようにアーグルアを見下しているいずみ。


「ぐっ……」


 言葉も出ないアーグルアは下を向くしかなかった。


「転生者は性格がちょっと可笑しい人達や人生経験が少ない人達が大半です、常識が無かったり、力に溺れやすかったりと様々ですが」


 下を向いているアーグルアに追い討ちをかけるように話すいずみ。


「そしてタチが悪いのは、周りにそれを止める人が居ないんですよ」


 いずみは縁を見た。


「は?」


 縁はまた耳を疑う顔をしていずみを見た。


「隷属の神もやりますね、力を与えた人間のサポート万全でイライラします」


 いずみは右手で頭を軽くかきむしっている。


「力の与えた人間の周りは太鼓持ちが多いです、信託だったり運命のように導いたりね」


「言ったらきりがなさそうだな」


 縁は深いため息をして呆れを通り越したようだ。


「はい、太鼓持ちの人物もお馬鹿さんか人生経験が足りなかったか、お勉強がたらなかったか……これも色々ですね」


「すげー」


 縁は両手を上げて棒読みで驚いている。


「で、言い返す言葉は考えました?」


 いずみはアーグルアを見た。


「ちっ!」


 また目をそらすアーグルア、返す言葉を持ち合わせていないようだ。


「森田太郎さん、あなた40越えてるんですよね? 大人として大丈夫ですか?」


「なっ!?」


 いずみの言葉にまたびっくりしているアーグルア。


「ああもういいです、お子様の感性な貴方に、真面目に説明してる自分が惨めで情けなくなりました」


 いずみは喋る気力を無くしたようで、体育座りをしだした。


「いずみの反応を見るに、コイツの元居た世界の40歳はいい大人だな? 会話が出来ないのはお子様と言われてしょうがないよな」


 縁は鼻で笑った。


「お……可笑しいだろ」


 アーグルアは一人の世界に入ったらしい、目が虚ろになり少々涙を流している。


「あ、被害者みたくな振る舞いはしないで下さいね? 好き勝手して結果は知らんは通用しないですよ? ごめんなさいで済む範囲じゃありませんからね?」


 早口で喋るいずみ、イライラがたまっているようでかなり早く言葉も自然と大きくなっていった。


「ゲーム感覚から目が覚めましたか? と言っても縁さんの力で平常心を保たれてますかね?」


 いずみは確認するように縁を見ると、縁は頷いた。


「なんなんだよ……コイツらなんなんだよ」


 アーグルアは泣きながら震えている、初めて恐怖をしった子供のように。


「それについてはもう説明しませんよ? 自分で考えて下さいね?」


 いずみは泣いているアーグルアを鬱陶しいように見ている。


「私達は産まれ持った力もありますが貴方と違って『努力』をしたんですよ、努力って誰かに自慢するものですかね?」


 縁を見たいずみの顔には披露が見て取れた、無駄な説明に疲れたのだろう。


「身内ならいいんじゃないか?」


 縁は苦笑いをした。


「ふふ、昔のグリオードは自慢ばかりしてましたね」


 いずみは思い出し笑いをしてニコッと笑う。


「止めてやれ黒歴史に近いから、努力はしてたけどよ」


 縁はいずみを元気付けるかのように笑いかけた。


「それはさておき、貴方の意見を聞きたかったのですが黙ってるなら……これで終わりですね」


 いずみは体育座りを止めて立ち上がり、何処かへ歩きだした。

 映像の範囲外に飛んでいったメガネを回収しに歩いたのだろう、メガネを装着して戻ってくる。


「お、俺を殺すのか?」


 静かに泣いているアーグルアだった。


「しないですよ? 縁さんは言ったはずですよね?」


 確認するように視線を送るいずみに縁は頷いた。


「言ったはずだ『幸せ』にしてやるよ、お前の幸せを俺が叶えてやる」


 縁は動かないアーグルアに近寄り優しく肩に手を置いた。

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