第七話 演目 学園で噂?

「椰重ちゃんの病室はここみたい」


 縁とスファーリアは目の前の扉を叩いた。


「椰重ちゃん?」

「ああ、先生かどうぞ」


 病室の中から女性の声がした、スファーリアは扉を開けて中に入り縁もそれに続く。

 ベットには女性が身体を起こして色鳥は椅子に座っていた。


「不覚だ、まさか自爆するとは思わなかった」


 黒く綺麗な長い髪と整った顔立ちだが所々包帯が巻いており痛々しい。


「椰重ちゃん、怪我は?」

「大丈夫だ、今は少々痛む程度だ」


 どう見ても重傷なのだが椰重は笑って右手を動かしている。


「本当に良かった、搬送だなんてただ事じゃねーだろ」


 色鳥はうなだれている、その顔には安心と不安が入り混じっていた。


「この位では死なんぞ? 私は生きねばならない、お前に『死ぬ覚悟は何も生まない』と言ったからな」

「椰重ちゃん、目標あるものね」


 スファーリアは口元は笑い優しい目で椰重にそう言った。


「ああ、私は色鳥と将来を約束した、つまらぬ事で死んでたまるか」

「……色鳥には勿体ない気品さを感じるんだが」

「おや? 誰か居るのか? まだ目があまり見えてなくてな、色鳥は普段の言動や態度はふざけているが戦えばわかるが真面目な男だ」

「こいつは縁、俺の親友だ」

「おお! 最近スファーリア先生と逢引あいびきしていると噂の!?」

「椰重、病人なんだからはしゃぐな」

「何を言っている色鳥、乙女たるもの恋話に敏感でなくてどうする」

「いや、そもそも2人は付き合ってないだろ? てか逢引は何処の情報だよ」

「ん? 学園では噂になっているぞ? 『あのスファーリア先生が男と楽しそうに居た』とな」

「スファーリアさん、学園でどんな教育してるの?」

「え? 私は『死んでほしくないから厳しく』しているだけ、言葉を荒げたりしないけどね」

「なるほど、生徒から見たら怖い先生というわけか」

「失礼な、私は怖くありません」

「ああいや、何というか後から為になる先生というか……上手く言葉に出来ん」

「いや縁、いい先生の一言でいいじゃないか」

「ああ……そうだな」


 4人は楽しそうに笑った。


「そう言えば自己紹介がまだだったな、俺は縁だ」

「こちらこそ失礼した、私は桜野椰重だ」


 椰重と縁はお互いに軽く頭を下げた。


「ふと思ったのだが縁は本名なのか?」

「そうだけど?」

「神様は長い名前のイメージが有るのだが、本来は長いのか?」

「ああ」

「高位の神様は本名を名乗ると世界に影響を及ぼすとか、故に名乗らぬとか?」

「俺は高位じゃないから大丈夫だ」

「ならば名乗らぬのには何か理由が?」

「妹と守る為に人間達と戦ったんだが、人様に見せられる姿じゃなくなってね」

「と言うと?」

「人の恨みの念で血だらけみたいな姿になったのさ」


 縁のその言葉にスファーリアが眉をひそめる。


「ふむ、ぼやけているこの目でも今は普通のように見えるが」


 椰重は縁の全身を見る。


「それはこのウサミミのおかげだな」

「そうなのか……人の怨念と言ったが何をしたのだ?」

「人を幸せにした結果だよ」

「む? 幸せにしたらなば喜ばれるのでは?」

「椰重、コイツの幸せはな『身の丈に合う幸せ』だったのさ」

「身の丈……うむむ、いまいちピンと来ない」

「ま、縁も――」

「縁君は大切な人を守る為に理不尽な人間と戦って、人間に理不尽に恨まれただけ」


 スファーリアが色鳥の言葉を遮った、その顔は珍しく怒っている。


「自業自得と言われたけどな」

「それを言ったのは、頭にお花が咲いてそうだから無視していい」

「怒ってる?」

「当たり前、その話は初めて聞いたから」

「あれ……言ってなかったっけ?」

「縁君が絆ちゃんを守る話は聞いた事あるけど、怨念は知らない」

「多少なりとやり過ぎた部分は有るけどね」

「縁良かったじゃないか? お前ら兄妹を理解してくれる人が居てさ」

「絆ちゃんは好きだからね、交流させてもらっていい関係」

「お、縁は?」


 色鳥はニヤニヤしながらそう言った。


「色鳥、お前も失礼な奴だな」

「前に縁君には言ったけど私の心を響かせたら可能性はあるかな?」


 スファーリアは『君に出来るかな?』と目で訴えていた。


「……なら逆に、俺と縁を結ぶ事を望むかな?」


 縁は同じ様な目をする。


「いや、なんか傍から見てたらもうお前ら付き――」

「色鳥君、私は縁君をちゃんと知らないの」

「色鳥、いい加減な気持ちで付き合える訳ないだろ、馬鹿かお前は」


 ほぼ同時に色鳥に対してそう言ったスファーリアと縁は息がぴったりだ。


「縁、馬鹿まで言わんでもいいだろ?」

「ふふふ……面白い夫婦漫才だな」


 色鳥は少し落ち込んで椰重は息ぴったりな2人を見て笑ったいる。


「ん?」


 スファーリアが何かに感ずいた様に一瞬だけ険しい顔をして縁はそれを見逃さなかった。


「スファーリアさん、そろそろ行こうか」

「そうね、邪魔しちゃいけないし」

「さっきのお返しかよ先生」

「ははは、お見舞いありがとうございますスファーリアが先生」


 2人はささっとは病室を出た。


「スファーリアさん、何かあったのか?」

「桜野学園が第二波の襲撃を受けた音がした、縁君、手伝ってくれない?」

「ああ!」


 スファーリアはトライアングルを自分の周りに出した。

 トライアングルの大きさは何時もスファーリアが乗っているくらいの大きさである。

 トライアングルビーダーを召喚して棒術で使いそうな大きさのそれを肩で担ぐ。

 更に裏拳でトライアングルを鳴らして魔法陣を召喚、2人は音符に包まれて消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る