第五話 遊ぶ範囲と兎達その13

「し、幸せって何をするつもりだ! 止めろ!」


 アーグルアは首しか動かせないが、必死の抵抗をしている。


「お前の願いはわかっている『自分を認めてほしい、金が欲しい、好き勝手したい、ハーレム』だな?」


 縁は同情するようにアーグルアの肩をポンポン叩く。


「これはまたわかりやすい願いですね」


 いずみはつまらなそうな顔をしてアーグルアを見た。


「や、止めろ! 止めてくれ!」


 アーグルアは子供のように泣きわめいていた。


「お前はこれから自分の夢に向かって努力をするんだよ、自分の力でな」


 縁は優しくアーグルアに語りかけている。


「全てを失ったお前は1から努力をして成長するんだ、最終的には悪い魔王を倒して、地位、金、名誉、そしてハーレムさ、嬉しいだろ?」


「ふむ、物語としてみたらひねりがありませんね」


 いずみは首を振った。


「まあな、しかしだ、ここは空想世界でもましてやゲーム世界でもない」


 縁はいずみを見た。


「俺達はこの世界で『生きている』んだ、誰かの都合や面白さで生きるのは違うだろ」


 アーグルアに問いかけるように話す縁。


「あ、いい話に聞こえるかもしれませんが、いい話には裏があるのは当たり前です」


 いずみはアーグルアを見ながら右手の人差し指を揺らした。


「失礼な『幸せな事』が起こるだけだ」


 縁はクールに笑っていずみの方を見る。


「お、おい! 俺はどうなるんだ!?」


 状況を理解出来ないアーグルアは混乱するしかなかった。


「だから! 縁さんがさっきから言ってるじゃないですか、幸せになるって」


 いやいや説明をしているいずみの顔には疲労が見てとれる。


「旅立つお前に餞別だ、ハーレムを体験させてやる、嬉しいだろう?」


 縁は鞄から長方形の通信機器を出す、以前陣英と会話し呼び出した代物だ。


「おやおや縁さん、お優しいですね」


 いずみは縁の通信機器をジッと見る。


「あールルさん? そうそう頼むわ」


 縁は長方形の通信媒体を鞄に締まった、それと同時にアーグルアの地面の近くに桃色の魔法陣が浮かび上がる。

 そのスーッと地面に描かれた魔法陣から頭が現れる、オールバックな髪型にエルフのような尖った耳、太い眉毛。

 頭から徐々に現れる人物の目は天使のような瞳に、唇に塗られた明るめな黄緑色の口紅は森林浴の様な開放感を演出、しゃくれケツアゴもオシャレに感じる。

 上半身裸で屈強な身体に手は白い手袋を装備、下半身は露出してはまずい部分しかカバーしてない水着のような下着。

 足から太ももにかけてルーズソックスを伸ばしたようなタイツ、靴はシンプルにハイヒール。


「縁ちゃん! 久しぶりね!」


 その人物は強烈なインパクトと共に現れた。


「……」


 アーグルアは絶句している、現れた人物を拒否したいのだが、目の前に現れた否定したい人物が居るのだ。


「こ、これはまた凄いインパクトを持ったインキュバスですね」


 いずみは物珍しそうに現れた人物を観察している。


「あらやだ! そこのメガネちゃん! 私の『心は』サキュバスよ!」


 自称心はサキュバスと言い放った人物は、その言葉と共に紫色の天使の翼が背中から生えた!


「先程の言葉は撤回させて下さい」


 いずみは自称サキュバスを見たくないのか、メガネを外す。


「物分かりがいい子は好きよ! 今度ハグしてあげるわ!」


 自称サキュバスはくねくねしながらいずみに近寄ってくる!


「すみません、これでも私既婚寸前なんですよ」


 いずみは近寄ってくる視界に入れたくない人物を見ないようするため、反対側を向いた。


「あらまあ! それはハグ出来ないわね!」


 抱きしめたい衝動からか、くねくねしながら自分を抱きしめる自称サキュバス。


「ルルさんでよろしいですか?」


 いずみは自称サキュバスの名前を確認する、怖いもの見たさゆえか振り返りそうになるが我慢。


「ルルちゃんがいいけど……好きに呼びなさいなメガネちゃん」


 自称サキュバスのルルはそっぽ向いてるいずみの視界に入ろうとするが、いずみは視界に入れないように奮闘した。


「失礼しました、自己紹介がまだでしたね、私は博識いずみです」


「あら貴方が説明と解説の加護を持っているいずみちゃんね?なかなかいい乙女じゃないの」


「乙女と呼ばれる年齢は過ぎました」


「ふふふ、心が綺麗だと綺麗な歳の取り方をするわよ?」


 いたちごっこは続いている。


「ガールズトークは今度にしてくれないか?」


 縁はルルを直視していた。


「あらそうだわ! 私をサキュバス扱いしてくれる乙女はなかなか居なくて、ついね!」


 ルルはくねくねしながら縁に近寄っていく、縁は特に動じていない。


「で、要件は何かしら?」


 ルルはセクシーなポーズをしている。


「そこの青年がハーレムを望んでいてね」


 縁は絶句しているアーグルアを指差した。

 ルルはアーグルアに近寄ってじっくりと品定めするように見ている。


「……なるほどね、貴方も最近世間を騒がせている異世界で好き勝手してるタチね?」


 アーグルアの顔に自分の顔を近付けるルル、アーグルアは顔を全力で背けた!


「そして、縁ちゃんを怒らせたわね?」


 背けた先に移動して視界に入るルルと視界に入れたくないアーグルアは目を背ける。


「ルルちゃんに説明しましょうか、縁さんに向かって『迷惑な神様は居なくなればいい』みたいな事を言ったんですよ」


 いずみは縁を見ていて、ルルが視界に極力入らないようにしていた。


「あら~それは縁ちゃんには禁句よ?」


 ルルはため息をしてアーグルアから少し離れる。


「貴方に色々と教えてあげなくちゃいけないわね」


 ルルは指を鳴らすと魔法陣から、絵に描いたようなサキュバス2人が出て来た。


「ルルさん、この魂が腐った転生人間をピュアピュアにすればいいんですね?」


「うわ~仕事とはいえ相手にしたくない~」


 現れたサキュバス達にボロクソ言われるアーグルア、サキュバス達は嫌な顔をしながらアーグルアに近寄る。


「ほらほら、さっさと連れて行って」


 ルルは手を叩いた。


「や、止めろ!」


 首しか動かせないアーグルアに抵抗手段は無い。


「あ、私からも餞別です! 最後にハーレムについて解説をしましょう!」


 いずみのメガネが光った。


「自然界でのハーレムは過酷なものです、自分の種を増やす為に多くのメスと関係があるオスですが、命をかけて他のオスと戦うんですよ? 動物にもよりますけどね」


 いずみは楽しそうに解説をしている。


「人間の場合だと『正論』や『倫理観』や『世間の目』ですかね? 他にもありますが」


 指折りで数えているいずみ。


「他にも病気の可能性もありますが……貴方には必要の無い説明でしたね、流石に様々なリスクを考えてハーレム作ったのでしょうから? 必要の無い知識でしたかね?」


 鼻で笑ったいずみ、縁は首を振り、ルルはニヤリと笑っていた。


「ではさようなら」


 いずみは白いハンカチを取り出して、端のように振った。


「はい、汚れた魂をご案内」


「ルルさ~ん、ボーナスよろしく」


 サキュバス2人はアーグルアを有無を言わさずに、魔法陣の中へと放り投げる。

 アーグルアは消えて、サキュバス2人も魔法陣へと移動し消え去った。


「さて、これから忙しくなるわね! 縁ちゃんこれからもごひいきに! 支払いもよろしくね?」


 縁に対してウィンクするルル。


「安心しな」


 ルルのウィンクに特に反応しない縁だった。


「うふふ……じゃあね」


 ルルは投げキッスをして魔法陣と共に消えた。

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