第五話 遊ぶ範囲と兎達その8

 縁は砦内を迷い無く進んでいき、階段を上っていた。


「どこだ!」


「居たぞ! こっちだ!」


「止まれ!」


 3人の兵士達が縁を見つけたようだ。


「ふむ」


 縁は止まらずに進んでいく。


「止まれ!」


「我を止められたのは……指で数えるくらいしか居ないな」

 

 兵士は武器を構えるが縁は気にせず歩いている。


「ふむ、お前達は真っ当に生きているようだな、環境が変わっても自分を保っているのは『尊敬出来る人の言葉』と『生きるという意志』か」


 縁は兵士達の目の前で立ち止まった。


「な、何を言って……」


 兵士の一人がうろたえていると。


『サルガ! 応答しろ! サルガ!』


 腰に付けていた長方形の物体から声が聞こえる、通信機なのだろう。


「くっ!」


 サルガは縁から目を離さない。


「早くでたらどうだ? 子供が産まれたのではないか?」


「なっ!?」


「な、何故それを……」


「な、なんだあんた」


 兵士達は縁の言葉にビックリしている。


『サルガ! どうしたんだサルガ! 産まれたんだぞ! 男の子と女の子だぞ!』


「は……はは」


 サルガはその場に崩れて、腰に付いている通信機を手に取りスイッチを押した。


「父さん! 本当か!」


『おおサルガ! 大丈夫か! 何かあったのか!?』


「いや……大丈夫だ」


『だったら早く帰ってこい! 母子共に健康だ! 父親になったんだぞ!』


「ああ! 何があっても絶対帰る!」


 サルガのその言葉に縁は微笑んだ。


『早く帰ってこいよ!』


 通信は終わったようだ。

 サルガは持っていた通信機は滑り落ちる。


「良かった……妻は身体が丈夫じゃなかったんだ……良かった! 本当に良かった!」


 サルガはうずくまりながら泣き始めた。


「良かったな、サルガ!」


 兵士の一人がサルガに近寄って、肩に手を置いた。


「あ、ああ……ありがとうタルアン」


 サルガはボロボロ鳴きながらお礼を言う。


「人間よ、人の気持ちと意志は未来を変える、そなたの行動がより良い未来へ向いたのだ」


 縁はニコニコしながら手を合わせた。


「な、なあ……あんた何者だ?」


 残りの兵士は武器をしまい縁に話し掛けてきた。


「我は出会いと幸運の神だ、みてくれが血だらけだが嘘はいってないぞ?」


「神様だって!?」


 縁と話していた兵士は眉間にシワを寄せる。


「それよりも早く家族に会いに行くといい」


 うずくまっているサルガに縁は優しく話しかけた。


「助言をしよう、無事に帰りたくば地下に居る人間に助けを求めよ、我の友人と戦っているが両方生きてるだろう」


「地下で戦っている人間?」


 タルアンは縁を見た。


「うむ、槍を使っている兵士だった、投げ槍もしてきたな」


 縁は槍が刺さった部分を触っている。


「ま、まさか隊長じゃないか!?」


 タルアンの声は嬉しそうだ。


「これはチャンスだ! 隊長と合流するぞ!」


 指をパチンと鳴らすタルアン。


「タルアン、お前は少々楽観的だ」


 兵士の一人がため息をした。


「そうは言うがマルゼ、俺はその神様を信じようと思う」


 タルアンは縁を指差した。


「お得意の直感か?」


 マルゼは深いため息をする。


「ああ!」


 タルアンはいい笑顔で親指をグッとした。


「そうか」


 マルゼは呆れた顔をしていた。


「ああ、少し聞きたい事があるのだが」


 縁は手を挙げた。


「質問には俺が答えよう、サルガ、タルアン先に地下に行け」


「後からこいよ」


 タルアンは泣いているサルガを立たせて、2人はゆっくりその場から去っていった。


「神と聞いて眉をひそめたが、この砦に何があったんだ?」


 縁はマルゼを見た。


「簡単に言うぞ、神から力を貰った奴が常識や倫理観を無視して好き勝手した結果がこれだ!」


 マルゼは近くの壁をぶっ叩いた!


「国もだ! 異世界から来たと言った若者が王になった! たった二年で国は変わってしまった!」


 それを聞いて縁は何かを考えた。


「王の器じゃない者が王になった! 王の周りは王を持ち上げるだけの人形だ! 血の通った人間なんかじゃない! 一般兵の俺にはなんの力も無いから止めれもしない!」


 マルゼは壁をまた叩く、壁が少し壊れた。


「神様なんざ、もうたくさんなんだよ!」


 縁はそのセリフを聞いて目つきを変えた。


「そうか、なら我の言葉はお主には届かないか」


 縁はその場から離れようとした。


「待ってくれ、あんた何しようとしてるんだ」


「簡単だ」


 縁は振り向いた。


「人間を困らせる神を抹消する、見過ごせないほどに暴れているからな」


 縁はニヤリと笑っている。


「で、できるのか?」


 マルゼは信じがたいといった顔をした。


「先に言っておくが『今更遅い』は、無しだぞ人間」


 縁は右手の人差し指を振る。


「神が勝手に暴れるとどうなるか、わかるだろう?」


「……」


 縁のその言葉に眉をまたひそめた。


「ふむ、今なら我の話を少しは聞いてくれるかえ?」


「何か頼み事か?」


「お主の国にまともな市民はどれだけ残っている?」


「居ないに等しい、みな国を出て行き、残っているのは兵士の家族か老人と悪さをするよそ者だ」


 マルゼは首を振った。


「亡命はどうだろうか?」


 縁は指をパチンと鳴らした。


「亡命か、考えたが……」


 マルゼはため息をした。


「したいのなら手伝うぞ人間」


「な、なんだって!?」


 縁のその言葉にマルゼは目を見開いた。


「今ルシファントと戦争しようとしている隣の国は、我が親友の国だ」


「な、なんと」


 マルゼは信じられない、といったようすだ。


「亡命はお主の一存では決められないだろう、地下に居る色鳥という人間にこの話をするがよい」


 縁は下を指差した。


「はっ!? た、隊長は無事なんだろうか」


「ふむ」


 縁は手を合わせて目を閉じた。


「どうやら先に地下に行った兵士達が説得し、隊長は無事だな」


「そ、そうなのか?」


 マルゼは少々混乱している。


「うむ、神はこのくらいお見通しよ」


 どや顔をする縁。


「あんた、何でここまで?」


 マルゼは少し縁に近寄った。


「我の名は縁、名の由来を一言で言うなれば、人々との繋がりを意味する」


 縁は両手を広げて神々しい光を放つ。


「ひいきかもしれぬが、目の前で父親になった人間をつまらぬ事で失いたくはない」


「縁……」


 マルゼの縁を見る目が少し変わったようだ。


「うむ、人々の繋がりは最大の力、頼り過ぎも駄目だが頼らないのも駄目だ」


 縁は右手で鞄をあさりはじめる。


「これは連絡方法だ」


 鞄から紙切れを取り出してマルゼに渡した。


「亡命の話をみなで考えよ、我が親友達や妹が力になろうぞ」


 縁はニコニコしている。


「あ、後で何か要求するのか?」


 マルゼは受け取った紙切れを見ている。


「我の神社で手を合わせるだけでよい」


 縁は手を合わせた。


「神社?」


 首を傾げるマルゼ、神社を知らないようだ。


「神が居る祈りの場所だ」


「教会か?」


「うむ、それに近い」


 縁は頷いた。


「本当にそれだけでいいのか?」


 マルゼは疑いの眼差しを向ける、都合が良すぎるからだろう。


「人間違うぞ、神に信仰は大事なのだ」


 その言葉にマルゼは首を傾げる。


「たしかに物や金が目にわかりやすいが……『ありがとうの気持ち』を忘れるなよ人間」


 縁は何かを訴える強い眼差しでマルゼを見る。


「とは言え、物や金も必要な場合があるから難しい話だ」


 首傾げて考えている縁。


「あんたが神様に見えないんだが」


 マルゼは苦笑いしている。


「半分は人間の血が混ざっているからな」


「そうなのか」


 縁の発言に少々驚いているマルゼ。


「手間をとらせたな、地下へ向かうがよい」


「あんたと話せて良かった」


「そうか、人を導けたなら名前負けはしていないな」


 縁は両手を合わせた。


「じゃあな、縁」


 マルゼはそう言うと去っていった。


「我には叱ってくれる人間達が居て良かった」


 縁は軽く笑って歩き始めた。

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