第五話 遊ぶ範囲と兎達その7

「コウルサイハエだ!」


 熊五郎は斧で色鳥の腕を切り落としにかかる!


「おいおい、ルールは守ろうぜ?」


 色鳥はため息をした。

 斧は色鳥の肩で止まっていたのだ、熊五郎は力を入れているが切り落とす所か切れてもいない。


「ド、ドウナッテ!」


 熊五郎は何度も色鳥の肩を切り落とそうと斧を振っている。


「お前もあそこの無能みたく人の話聞いてなかったのか?」


 色鳥は実況男を指差した。


「俺が死ぬ条件は言ったはずだ」


 色鳥は刀を抜いた。


「どうなってるんだ!?」


「お、おい! 熊五郎! 遊んでるなよ!」


「そうだ! ちゃんとやれ!」


 観客からヤジが飛んできた。


「さあ!お前らが好きな一方的な娯楽の始まりだ、自分がやられて嫌な遊びはしないよな?」


 刀を熊五郎に向ける。


「さあさあ、楽しい言葉遊びもしようじゃないか?」


 色鳥はニコニコしながら両手を広げた。


「おっと、俺は俺の価値観で物事喋ってるからさ、間違ってたらすまねぇな」


「フ、フザケ……」


 熊五郎は攻撃の手を止めたりしていない。


「だから、俺の価値観だったらふざけてるのはあんたらなんだが?」


 色鳥は深いため息と共に舌打ちをした。


「国が違えば価値観が違うし、人種が違えば価値観が違う」


 熊五郎の猛攻に対してなにもせずに、色鳥は熱弁を始めた。


「俺はあんた達の価値観は『この場で起きた事』でしか判断出来ないんだよ、判断材料がそれしかないしな」


 色鳥は当たりを見回した、会場には色んな言葉が飛び交っている。


「先に言っとくわ、観客も私達は関係無いとか無関係とか思ってないよな?」


 色鳥は熊五郎の斧を右手で受け止めた、いつの間にやらグローブをしている。


「殺人や強姦を楽しむような奴らが真っ当な事ほざくなよ?」


 受け止めた斧を右手で砕いた。


「一方的殺人って奴を俺も楽しませてもらうぜ?」


 色鳥はニヤリと笑い、その笑顔は全てを見下しているようだった。


「あ、俺にはずっと寄り添うと決めた綺麗な桜が有るから、裏切るような事はしないぜ」


 色鳥はしたり顔をしている。


「ここぞとばかりにノロケるな、色鳥よ」


 ジト目で色鳥を見る縁。


「でよ、俺がぺちゃくちゃ喋ってる間にさ、対策の一つでも考えた?」


 色鳥はつまんなそうに熊五郎を見た。


「シネ! シネ!」


 熊五郎は色鳥に対して素手で無意味な攻撃を続けていた。


「なんか冷めた、つまらないわ」


 色鳥はため息をしながら、持っている刀をやる気もなくてきとーに振った。

 たまたま熊五郎の右手に当たり、腕は切り落とされる。


「ぐぁぁぁぁぁ!」


 熊五郎は左手で切り落とされて出来た傷口付近を触る。


「ああ、言い忘れてたが『熊五郎が痛がると観客と本人は死ぬ』っていうルールがあるんだ」


「な……」


 熊五郎は白目を向いてその場に崩れ、悲鳴も無く観客達も一斉に倒れた。


「遊びで俺に勝てるわけねーだろ」


 色鳥はつまんなそうにため息をした。


「面白くねぇ……せっかく神様から許しもらったのによ」


 色鳥は刀を鞘に納めた。


「色鳥よ、お前は真面目なのだ、真面目なお前が非道を楽しむ事はできまいて」


 縁は色鳥に近寄っていく。


「まあそうかもな、遊びってのはみんなが笑っていてさ、心が暖かくなるんだよ」


 色鳥は優しく笑った。


「な、なんだコイツ!こんな事がバレたら俺は!」


 実況をしていた男はまだ生きているようだ。


「夜空、頼んだ」


 色鳥は男に向かって持っていた刀を投げた。

 投げた刀は黒い狼に姿を変えた!


「け! 警備兵! 早く来い! 警備兵!」


 男は何やらボタンをポチポチ押している。


「ひ、く、くるな!」


 黒い狼の夜空は男の喉元に食らいついた!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 男は苦しみ暴れているが、しばらくの悲鳴の後動かなくなった。


「……」


 夜空は男が完全に死んだ事を確認して、色鳥の行る場所へと戻ってきた。


「よしよし、帰ったら手入れしてやるからな」


 色鳥は夜空を撫でている。


「……ワン」


 夜空は尻尾を降っている。


「ここで死ねたのは幸せだ、生きて居れば死よりも辛い目にあっていただろう」


 縁は手を合わせている。


「神様ってのは……」


 色鳥はため息をしながら縁の方を見た。


「縁!」


 縁は色鳥の叫びを聞いて振り向いた、目に飛び込んできたのは自分の胸に刺さりそうな短い槍だった。


「くっ!」


 飛んできた短い槍を受け止めようと右手で掴んだが、止められず胸に刺さってしまう。


「ゴファ!」


 色鳥は縁を守るように前に出て、黒い狼も隣に移動する。


「縁!?大丈夫か!」


 槍が飛んできた方向を見ている色鳥の声は少し焦っていた。


「見事だ人間……『強い意志の力』を持つ者を久しぶりに見た」


 縁は刺さった槍を抜いて投げ捨て唾を吐く、血が混ざっている。

 そして着物は出血でさらに赤くなっていく。


 色鳥が警戒している方向から、兵士が一人やってきた。

 その兵士の装備は軽装備で盾と槍を構えている。


「色鳥、頼めるか?」


 縁は傷口を右手で押さえた。


「大丈夫なのか縁」


「ああ、我はあの人間には勝てない、居てもお前が不利になる」


 縁は右手を見た、血がベッタリと付いている。


「だろうな、お前に怪我させる人間だ」


 色鳥は楽しそうに笑いながら兵士を見た。


「ふむ、どうやら我はここの主に呼ばれているようだ」


「行ってこい」


 色鳥のその言葉に縁は歩き出したその足取りは迷いは無い。

 歩いている間、色鳥と兵士はお互いを睨んでいる。

 縁はこの場から居なくなった。


「俺は色鳥ってんだ、あんたの名前聞いていいか?」


「侵入者に名乗る名前は無い」


 兵士は盾を構えながら色鳥に近寄ってくる。


「そうかい、夜空」


 夜空は刀に変化して色鳥の手へ。

 

「遊びはしない」


 色鳥は兵士をジッと睨んだ。

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