第六話 演目 人の縁と愚かな力

 縁は砦内を迷い無く進んで階段を上っていた。


「……居たぞ……こっちだ」


 3人の兵士達が縁を見つけたようだ。

 だが兵士は幻影化しているらしく姿が透けて見えた。


「ふむ」

「……止まれ」

 

 兵士は操られた様に武器を構えるが縁は気にせず歩いている。


「なるほど、先程の男の信念はこの者達を助けたいという願いか、不利な交換条件でも持ちかけられたのだろうか? 今助けてやる」


 縁は立ち止まり両手を合わせて兵士達はゆっくりと武器を振り上げた。


縁術えんじゅつ……肝胆相照かんたんそうしょう!」


 幻影化していた兵士達は徐々に実体化していった!


「うむ、人の良き縁は百薬の長だ」


 満足そうに笑っている縁と元に戻った事にまだ気付かない兵士達、理解が追い付いていないのだろう。


「うお! 血だらけの兎がいるじゃん! 大丈夫かアンタ!」

「タルアン! それもビックリだが自分の身体を見てみろ!」

「サルガ! どうなってんだ! 身体がスケスケしてないぜ!? 神様の仕業かよ!」

「その血だらけの姿……聞いた事がある、昔人と争った事がある神だな? 名前は確か縁」

「ワーオ! 本当かマルゼ! 正に神は俺達を見捨てなかったという訳だ!」

「いやこの神が安全と決まった訳――」

「マルゼ! あのままスケスケで死ぬよりはいいじゃねぇか!」

「お前は楽観的過ぎだ」


 実体化したとたん騒がしくなった。

 縁はそんなやり取りを見て笑っている。


「神よ、何故我々を助けたのだ?」

「うむ、簡単に言えば槍を扱う兵士から強い信念を感じてな? そしてお前達を見て確信した、あの兵士は救いたい者が居てここに居るのだと」

「槍の兵士? それって隊長じゃないか!?」

「……隊長……グスッ……俺達の事を思って!」

「神よ、隊長と相対したのか?」

「ああ、今地下闘技場で親友と戦っている」

「おいおい! そりゃやべぇじゃねーか! 隊長が戦う理由はもう無いんだ! 俺達の元気な姿を見せようぜ!」

「状況が聞きたいから誰か残ってくれないか?」

「タルアン、サルガは先に行け」

「わかったぜ!」

「また後でな」


 タルアンとサルガは走って地下闘技場へと向かった。


「して神よ、何が聞きたい?」

「まずはどうやってここに来たかだ」

「……確かジャスティスジャッジメントの依頼だった、が……すまないそこの記憶があやふやになっている、気付いた時には身体が透けていた」

「そうかやはりジャスティスジャッジメントか」

「他にはおぼろげながら……おそらく身体が透けている時に隊長が誰かと言い争う声がした」

「ふむ、直接そいつに聞いた方がよさそうだ、時間を取らせてすまなかった」

「では神よ、私も失礼する」


 マルゼも地下闘技場へと向う。


「……人の縁をエサにしやがったな? ここに居る奴の幸せの願いを俺が叶えてやろうじゃねーか」


 縁はゆっくりと歩き出す。

 しばらくして砦の一番奥にいかにも偉そうな部屋はあった。

 縁は扉を開けて中に入ろうとした時部屋の中から槍が飛んできた!


「ふむ」


 避けもしなかったが槍は刺さらない、槍は地面に落ちる。


「ほう? 地下での茶番を見ていたが」


 部屋の中には椅子に座り机に足を乗っけている男が居た。

 その男はショートヘアーで赤色の髪、金ぴかな軽装備の鎧に身を包んでいる。


神を殺す槍ゴッドスレイヤーランスでも殺せないか」

「本気でかかってきたらどうだ?」

「ふぁ~あ、さっさと本国に帰って調教の続きをしたいからさ、ちゃっちゃと終わらせるか」

「人間、やってみろ」


 縁は一歩前に出たと同時に男は喋り出した。


「いやいや、神様ぽく振る舞わなくていいよ? あんたの事は調べさせてもらったこの短時間にさ、十年位前に世界と戦った神なんだろ? はた迷惑な神様って奴だ」


 首を横に振りながら書類を見ている。


「おい人間、命乞いするならいまのうちだぞ?」

「ま、世の中に迷惑かける神様なんざ居なくなった方がいいか」

「お前、今なんて?」


 その言葉は縁にとって禁句であった。

 縁が人と戦争した理由が『妹に対して事実とは異なる人が勝手に作った虚言』から始まったからである。


「ハッ! 少々煽られたくらいでぷるぷる震えちゃってさ」


 男は机を叩きながら手を叩いている。


「……」

「無理しちゃってさ、もう一回言ってやろうか? 世の中に迷惑かける神様はいらないからさ! 死んでしまえよ!」


 縁はゆっくりと男に向かって歩き始めた。


「あらあら、怒った? 事実だろ? 人様に迷惑かけている神様は死んだ方がいい」


 男は足を机に乗っけてるのを止めて立ち上がった。


「……お前を幸せにしてやるよ」

「はぁ!? 何言ってんだコイツは! 殺してやるじゃなく『幸せ』にしてやるだって! これ以上笑わせないでくれよ!」

「アーグルア・レトン・ゼーブ、覚悟しろ」

「かっこいいな神様、フルネームで言ってくれるとはさ……命乞いしないなら死ね!」


 縁に対して右手を突き出した。


「来たれ消滅の光よ! イレイザー・シャイン!」


 しかし何もおこらなかった。


「ほう? 何をしたか知らないが俺の魔法詠唱を止めたか」


 アーグルアはニヤリと笑いながら袖に隠していたナイフで縁の腹を刺そうとした。

 しかし、パキッという音と共にナイフは壊れた。


「どうなっているんだ? 奴のステータスは俺より下のはずだ」

「……お前なにいってんの? ステータスってなんだよ」

「ふん、神様のくせに知らないのか? 相手の実力を数値化するスキルがある事をな!」


 アーグルアは剣を素早く抜いて縁を斬るが怪我を負わせる事も衣服も斬る事も出来なかった。


「可哀想な奴だ」

「身体が動かない!?」


 縁はアーグルアの肩に手を置くと口しか動かなくなった。


『手紙だよ、手紙だ手紙だ手紙よ、博識いずみから手紙だよ』


 鞄が震えだて機械で合成されたような声が聞こえた。


「はぁ……」


 縁は嫌そうな顔をしながら鞄を開けると手紙が飛び出し、部屋中を駆け巡った後縁に頭上で止まった。

 封筒がひとりでに開いて中から二つ折りの手紙が出て光と共に開いた。

 魔法陣が浮かび上がり二等親にデフォルメされた女性が現れた。


「はいはーい! こんにちは! こんにちは! 今日はお元気でしょうか? が短くなった言葉のこんにちは!」


 デフォルメされた女性の姿は茶髪のショートヘアーでメガネをしている、スーツ姿の一言で言えばOLである。


「手紙に書かれた魔法陣を通じて、デフォルメされた私を映像として送ってマース! 茶番と余興でおなじみで! お節介と押し付けがましい私は縁さんの親友で……」


 どこからともなく音楽が聞こえてきた。


「説明と解説の加護を持っている……可愛い可愛い私は! 博識いずみ~です!」


 いずみはジャンプをすると同時にクラッカーやら祝福を感じさせるような効果音が響いた。

 縁はそれを見てため息をしてアーグルアは空気に飲まれている。


「あらあら、メガネ、メガネは何処ですか? おやこんな所に! シャキン!」


 ジャンプしてメガネが鼻と口の間までズレたようでズレをわざとらしく直す。


「いずみ、なんの用だ」

「あらあらあら、縁さんが本気だしてますね!?」


 いずみは魔法の絨毯のように手紙を操って縁の目線に降りてきた。


「お前なら全て知ってるだろ」

「確かにそうですが『自分で見て感じないと生きた感想』にならないじゃないですか」

「援軍か? 随分と可愛いじゃないか」

「あの、森田太郎さんはちょっと黙っててくださいね?」


 動けないずに喋る事しか出来ないアーグルアにいずみはウィンクをした。


「な!?」

「はいお口にチャックありがとう! 時間がかかりましたが裏がとれた事を話したいと思いまして!」


 いずみは舌を出しておそらく自分が可愛いと思われるポーズをしている。


「わかった、聞こうか」


 縁は鞄から折り畳み式の椅子を取り出してそれに座った。

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