第五話 遊ぶ範囲と兎達その1

 今日も長谷川はレアスナタをしていた。

 今回は、親友の公式イベントに向けたロールを手伝うためにログイン。


「待ちぼうけ~待ちぼうけ~兎飛び越えた木の根っこ~」


 縁はロビーの噴水で親友を待つ、周りには様々なプレイヤーが楽しそうに会話をしてる。


「はろぅ~待たせたな、えにすぃ~」


 縁の背後から声をかける男性が一人。


「このふざけた言い方、待ち合わせ時間五分前には必ず来る奴、それは」


 縁は振り返った。

 そこには、黒髪で単発のツンツンヘアーで、Tシャツに綿生地のズボン、黒く短い刀を腰に携え、靴は運動靴。

 顔は少ししかめっ面していて、目つきは鋭く、耳にイヤリング、胸元にペンダントが輝いている男キャラクターが立っていた


「紛れもなく俺だな、色鳥ちゃん、ここに見参さ」


 色鳥と名乗ったキャラクターは親指をグッとした。


「久しぶりだな! 色鳥」


「ああ、縁も元気だったか?」


 お互いに熱い握手を交わす。


「最近ログインしてなかったけど、何かあったのか?」


「ああ、嫁さんとデートしたり、結婚式の相談したりな」


「あらら、お前も身を固めるか」


「で、縁さんよ」


「どしたのよ、色鳥さんよ」


「宝石箱の鍵を渡せる相手は見つかったか?」


「ちょ! おま! うおっちょ!」


 色鳥の発言を聞いた縁は、慌てふためき始める。


「いやいやいや! 何でそのフレーズ知ってるんだよ!」


「嫁さんから聞いた」

 

 しれっと答える色鳥。


「嫁さんて、キャラクター名しか知らんが、確か桜野椰重さんだよな?」


「ああ、で、何か気付かないか?」


「……桜野?」


 縁は腕を組み考え始めた。


「まさか、いや……」


 縁はぶつぶつと念仏のように何かを喋っている。


「スファーリアさんは俺の嫁さんのリア友だ、幼なじみらしい」


「世間て狭いな」


 縁はため息をする。


「だな」


「つまり、お前は自分の嫁さんから色々と聞いたと」


「まあな、色々聞いて小学生からの付き合いの俺は考察した訳だ」


 色鳥の言葉を聞いて縁は、鞄からピコピコハンマーを取り出した。


「お前と出会ったのは中学からで、住んでる地域は一緒だったが学校が違ったろ」


 ピコピコハンマーで色鳥を叩いた縁、ピコっと音が鳴る。


「そりゃ失礼」


「付け加えるなら兄さん経由で知り合っただろ」


「そうだったな」


 色鳥は笑った。


「で、宝石箱はどうなんだ?」


「まだ何とも言えないな、俺の宝石箱の鍵は容易く渡せないのさ」


 縁はキザっぽくキラキラエフェクトを出している。


「あー」


 色鳥はジト目をした。


「なんだよ」


「嫁さんが同じ事を相手方に聞いたらしいんだよ」


「スファーリアさんに?」


「そうそう、で答えが『椰重ちゃん、私の音楽は至高なの、私のトライアングルは安くないわ』だってさ」


「ほう?」


「俺と嫁さんの見解は『似た者同士仲良いな』だ」


 色鳥は頷いている。


「残念だが彼女とはまだ何もないぞ?」


 縁は色鳥をピコピコハンマーで叩いた。

 ピコっと音が鳴る。


「当たり前だ、高々数ヶ月で彼女出来ました、なんて言ったら耳疑うわ」


「兄貴が好きになるのは、何となくわかるかなー」


 縁の真後ろから話しかけた人物が。


「うお!? いきなり現れんな!」


 縁は振り返りながら、飛び上がった!ピコピコハンマーを落としてしまう。


「いや、ゲームなんだからいきなり現れもするよ」


 背後に現れたのは絆だった、ため息をして首を振る。


「兄貴はおしとやかな人が好きだもんね」


「それか活発な元気キャラだな」


 色鳥と絆はうんうんと頷いた。


「失礼な奴らだな」


 縁は落としたピコピコハンマーを拾う。


「茶化してるように聞こえるかもしれないけどな、俺は陰ながら応援したいだけだ」


「そうだね、あたし達は兄貴に幸せになってほしいだけさ、茶化してるように聞こえるかもしれないけど」


 絆と色鳥は頷いている。


「女っ気の無かったお前が女性に興味を持ったという第一歩が嬉しくてな」


「兄貴は中学生からレアスナタ一筋で、ろくに恋愛もせずに大人になった人だから嬉しくて」


 絆と色鳥はハンカチで涙を拭いている。


「涙モーションまで使って現すほどか?」


 縁はピコピコハンマーで絆と色鳥にツッコミをした。

 ピコっピコっと音が鳴る。


「いやいやいや、縁さんよ!」


「兄貴……妹として一言言わせてもらうとさ、流石に彼女居ない歴イコール年齢はどうかと」


 絆はため息をした。


「女性を好きと思った事は何回かあったがな、はっきり言って無理して作るもんじゃないだろ」


「兄貴が……レアスナタ以外でまともな事を言ってる!」


 ムーンウォークで後退りする絆。


「男女共に中学と高校は周りが可笑しな奴らしか居なかったからな、そんな中で恋愛?感覚が可笑しくなるわ」


 縁は毒を吐くかのように息を吐いた。


「なるほど、俺はお前の全てを知るわけじゃないからな」


 色鳥は頷いている。


「いくら親友でも全て知ってたら気持ち悪いわ」


「兄貴の恋愛事情はここまでにしといて、色々と聞きたいけどもさ、そろそろ」


 絆は足を一切動かさず縁に近寄ってきた。


「ん? そろそろ開始時間か?」


 色鳥は広場にある時計を見た。


「まだ時間あるけどさ、軽く確認しとかないと」


「確かにな、今回のロールは流血表現とか暴力表現とか設定やセリフだけの性的な表現が有るからな」


 色鳥は首を回してストレッチをしている。


「はい、未成年はまず参加出来ません」


「あたしは健康な成人乙女です」


 絆は手を挙げた。


「健康な成人男性だぜ、森山ボックス健康診断パック様々だ」


 縁も手を挙げる。



 森山ボックス健康診断パックとは、ゲーム契約プランの一つで病院での健康診断やメンタルケア等付いているパックだ。

 ゲームが与える影響を考慮し、流血表現や暴力表現、性的表現をオンにしているプレーヤーはこのプランを推奨される。

 表現をオフにしているプレーヤーからもこのプランに加入している人は多く、心身共に健康でゲームをしたいようだ。



「で、ロール内容なんだがグリオードの国に行って依頼受ける所からだな」


 色鳥は軽く欠伸をした。


「色鳥、後は流れか?」


 縁はピコピコハンマーを締まった。


「ああ」


「開始地点はどこなのさ?」


 絆は何時も持ち歩いている傘を開いた。


「グリオードの宮殿前からで、執事さんが話かけてくれるらしい」


「おっけー」


 絆は親指をグッとした。


「んじゃ、約束の時間だから開始するぞ?」


 色鳥は開始宣言のベルを取り出した。


「おう」


 縁は身体を伸ばす。


「レッツ! 絆ちゃんターイム!」


 絆はその場で一回転をして、スポットライトを浴びながらポーズをとった。


「お前、それやんなきゃダメなんだな」


 縁はそれを見てため息をした。


「あらお兄様? ログインする時に気合い入れるお兄様には言われたくないですわ?」


 絆はなりきっているようだ。


「開始を告げる鐘よ! 我らに役目を与えたまえ!」


 色鳥はベルを鳴らし、ロール開始の合図をした。


「類は友を呼ぶだな」


 縁のその言葉と共に3人はその場から消えた。

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