第四話 桜と祝福の鐘その4

「ちくしょう! やりやがったな!」


「ま、まだまだ!」


「やるじゃねぇか」


部下は落とした武器を各々拾う。


「俺に任せてもらおう」


 斬銀は一歩前に出た。


「斬銀! スマイィィィル!」


 斬銀はボディビルがするポーズの一つ、サイドチェストをした。



パァァァン!



 と、大きい音がした、彼が着ていたTシャツが弾け飛んだのだ。

 天使のような笑顔をした斬銀、その笑顔は赤ちゃんが笑うような可愛さに溢れている。

 だが、筋肉ムキムキの上半身真っ裸で、下半身はこしのみのような鎧、正常な人間ならば耐えられないだろう。



「くっ! なんてピュアな笑顔なんだ!」


「き、気持ち悪い!」


「オロロロロ!」


「お母さん、先立つ不幸をお許し下さい」


 部下達は吐く真似をしたり、絶望にしたり、先立とうとしたり様々だ。


「斬銀さん、その辺でいいでしょう」


 フォルクは一歩前へ出た。


「笑顔で戦意を無くすだと!? ばかな!」


「ほう、頭を名乗るだけはあるな、俺の笑顔に屈しないか」


 斬銀は感心している。


「ちっ! 気持ち悪い笑顔を振りまきやがって、仕方ねぇ!」


 おかしらは振り返った。


「先生! よろしくお願いいたします!」


 何処からともなく、草笛の音色が響く。


「来た…」


「来た!」


「…来た」

 

 部下達はざわつき始める、村の奥から、右手で刀を持ち鞘に入った刀身を右肩で担ぎ、左手で草笛を吹いている着流しの剣客がやってきた。


「忘れちまったぜ、桜の美しさなんて」


 死んだような目でそう言い放った男、生気を感じさせない雰囲気を漂わせて、首には黒い首輪をしている。


「……あの男は」


 青桜は一歩前に出た。


「斬銀、風月、ここは拙者に任せるでござる」


「何々? 知り合い?」


 風月はニコニコしながら青桜を見るが……


「どうやら茶化す場面じゃねーぞ?」


 斬銀は風月の首根っこを掴んで縁の側へと移動し、フォルクも一歩下がった。


「離せ! 一人で歩けるわ!」


 風月は暴れている。


「縁は任せた」


 青桜はそれだけ言うと、男に近寄っていく。


「先生、お願いします」


 おかしいらと部下達はそそくさと物影に隠れた。


「同門でござるな?」


 青桜は男を睨んでいる。


「あんたも人斬りかい? 匂いで解るぜ?」


 男は楽しそうに笑い、首を傾けた。


「人を斬り、世を正そうとした時代の負の遺産でござるよ」


 青桜はため息をして、自分の刀を見た。


「人斬り同士仲良くしようじゃないか」


 男は握手をするように手を伸ばす。


「違うな」


 青桜はその場に正座した。


「お前に信念は無い」


 青桜は再び男を睨んだ。


「うっ!」


 風月が声を上げた。


「な、何? この殺気!?」


 風月は珍しく、後退りをした。


「何って風月、今自分で言ったろ? 殺気だよ殺気」


 斬銀は笑っている、斬銀は平気のようで、縁もフォルクも平然としている。


「待って、ちょっと耐えられない」


 風月は小刻みに震え、冷や汗をかいていた。


「相手の強さが解るってのはいい事だ」


 斬銀はうんうんと頷いている。


「あたしもまだまだか、やっぱり世界は広い」


 風月は冷や汗を垂らしながらも楽しそうに、ニヤリと笑った。


「いいねぇ……」



 男は狂ったように笑って、青桜を見ている。



「俺の名は桜家紋さくらかもん二郎じろうだ」


「青桜衣通姫だ」


「最後にいいモノが見れそうだ」




 桜家紋は肩幅に足を開き、刀を左腰に差し、左手で鞘を持ち右手で刀の柄を持っている。

 お互いに刀の柄に手をかけているが動かない。

 張り詰めた空気が漂う、皆が動けずに居た。

 お互いに睨み合いまばたきもしない、ただただ相手の隙をお互いに伺うだけだ。

 2人の距離は約3メートル程、正座をしている青桜には不利な距離だろう。

 回避、攻撃、反撃、どれをとっても桜家紋の方が有利に見える。



 その時、ピキっと何かが割れる音がした!



 青桜は目を見開き、桜家紋は刀に手をかけた!

 桜家紋は刀を抜き、素早く水平に抜刀する!

 動作はシンプルだが、桜家紋の方が刀を振り終え、水平に振った刀の軌跡からは縦に放たれた衝撃波2つが青桜に襲いかかる!



 青桜は謎の音と同時に右足を前に出し、立ち膝になるように動かす。

 その立ち膝をする為に出した右足が地面に付く前に青桜は信じられない事をした。

 まず右手で刀を抜く動作に入る、左手で鞘を引き、刀を抜けやすくする。

 抜かれた刀はくるりと一回転した、ほぼ一回転したと同時に立ち膝になり、刀の矛先は鞘に収まっている。

 この動作を刹那の時間でやってのけたのだ。



「この程度の腕前で『血桜』を名乗るな」



 青桜はゆっくりと納刀の動作に入る、だがよく見れば青桜の両頬に縦の刀傷が有り、その部分から出血をしている。

 桜家紋は、枯れはてた桜の木のように倒れた。



「生きて自業自得の償いから始めろ」



 それを見たおかしら一行は慌て始め、わたわたしながら逃げようとしている

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