第二話 幕切れ 白兎神封印頭飾り

「ここがラキアグの街です」


 セイザの案内でラキアグの街へとやってきた。

 街中は活気に溢れていて、様々な種族が行き来している。


「活気があっていいでヤンスね、本当に改心した犯罪者の街なんでしゅか?」

「正確には改心した人達が昔作った街ですわね、今は更生したい人々に協力する街です」

「にゃるほどにゃるほど」

「この街は良き縁に溢れている、ここなら荒んだ心や考えも癒される」


 縁は嬉しそうな顔をしながら手を合わせていた。


「おやおや、えにっさんも絶賛でございますな」

「いい環境は人をいい道へと誘ってくれる、そうはならん時もあるが」

「ふっふっふ、しばらく見ないうちに神として……いや人として成長したようだねぇ」

「むっ!? 誰だ! どこからともなくおばあちゃん……いや、これは失礼かの? 素敵なレディの声がするっスよ?」


 リステイナはきょろきょろと辺りを見回す。


「こっちじゃよ、|自己像幻視≪じこぞうげんし≫の者よ、いやドッペルゲンガーと言えばいいかえ?」

「む? うお!? 背丈の小さいおばあ様が!」


 足元を見るリステイナ、そこには薄汚れた作業着を着て子供の様に背が低く、杖を突いてる笑顔のおばあちゃんが居た。


「いやはや、懐かしい神の力を感じて工房から出てみれば縁ではないかい」

「お久しぶりですブルモンド・霊歌さん、何故この街に?」

「そりゃ、本来の工房が此処にあるからじゃ」

「ああなるほど」

「縁さんと霊歌様は知り合いですの?」

「セイザちゃん、縁にはその『白兎神封印頭飾り』を作ってやったのさ」


 ブルモンド・霊歌は縁のウサミミカチューシャを指さした。


「あ、それそんな正式名称なんスね」

「どうだい縁? あれから血だらけみたいな姿は治ったかい?」

「いえ、このウサミミが無いと人間としては生活は難しいです」

「やはり人の怨み……呪いはそう簡単には消えないか」

「理由はどうであれ、恨まれ事をしてきましたから」

「どれ、久しぶりに手入れしてやろうか?」

「お願いします」

「おやおや? セイザの自腹でお茶を飲みにこの街に来たでヤンスでゲスでわよ?」

「お茶ならワシが用意しちゃるからついてきなさいな」

「わーい」


 ブルモンド・霊歌の案内で工房までやってきた。

 普通の一軒家の様な外見だが所々錆びれていたり、工房の前には壊れた機械や工具が置いてある。

 ブルモンド・霊歌は工房の中へと何回か出入りをして、人数分のイスとおおきめ丸いテーブルと茶菓子と缶に入った飲み物を持ってきた。


「外ですまないね、中はちらかっててね」

「テラス席で優雅に決めたい貴方へってやつでザマス」

「ほれ縁、スペアがあるからこっちに付け替えな」

「はい」


 縁はスペアに付け替え、自分のウサミミカチューシャをブルモンド・霊歌に渡す。

 ブルモンド・霊歌は工房の中へと入り、一分もしないうちに帰ってきた。


「後は機械が手入れしてくれるよ」

「おやおや? 手作業じゃないんですカニ?」

「検査と軽い修復なら機械で済むよ」

「便利っしゅね」


 リステイナは適当に飲み物の缶に手を付け、それを合図にしたかように縁達も缶を取る。


「あの縁さん」

「セイザさんどうしました?」

「その頭飾りが必要な程、人に恨まれるって何をしたんですか?」

「セイザ、興味本位で人の過去に触れるものではないぞ?」

「いやいいんだ東洋さん、簡単に言えば……言われなき誹謗中傷、暴力、色んなものから妹を守り、様々な人を幸福に陥れた」

「幸福に陥れた? 不幸ではなくて?」

「身の丈に合わない幸福は破滅を呼ぶ、セイザさんも気を付けるんだ、今の幸せより幸せを望むのならば身の丈に合う努力をする事を」  

「……でも妹さんを守ったのなら」


 縁の言葉には重みが有り、顔が少々こわばっていて雰囲気はウサミミカチューシャを外した時と同じだ。

 セイザは縁との経験の差を感じ取り一言しか発せられなかった。 


「まあ守る為とはいえ、人を傷つけたり意図せず殺してしまったから恨まれて当然だ」

「だからと言って無抵抗って訳にもいかないでショー? 因縁つけてくる奴なんて頭がご立派な方々が多いですミャン」


 そんな雰囲気お構いなしでリステイナは遠慮無く飲み物と食べ物をバクバク食っている。


「その後が酷かった、何にも考えてないお子様だったよ」

「おやおやおや? 何をしでかしたでザマス?」

「一人暮らしを始めて、悪人を懲らしめ始めた」

「あら? そこだけ聞くと良い事では?」

「権力も常識も何も無い神が社会の悪を私利私欲で問答無用にぶっ潰していた」

「何やら闇が深そうでゲスな?」

「恩人に色々と諭され、様々な経験をして色々とあってブルモンド・霊歌さんに出会いこの耳を貰ったんだ」

「省略し過ぎじゃないでやすか?」

「不幸自慢したいわけじゃないからな、こんな事が有った程度でいいんだよ」


 縁は苦笑いしながらニンジンジュースの缶の中身を一気飲みする。

 これ以上この話はしたくないと言わんばかりだ。


「縁や、あれから幾ばくかの時が過ぎたがいい男になったね」

「そうですか?」

「出会った時よりいい顔をしているよ」

「それならこのウサミミのおかげですよ、本来の姿を見せずに他人と関われたからです」

「ふふふ、それだけではあるまい? 姿を偽った所で性格がよくないといい縁なぞこんよ」

「えにっさんなら神の力を使っていい縁なんて簡単に結べるしょしょ?」

「リステイナ、そんな偽りの縁など価値は無い」

「ああん、そんな怒らなくてもいいじゃないでヤンスか」

「いや、怒ってはないぞ?」


 そんな話をしていると工房の中からチーンと電子レンジの様な音が聞こえてきた。


「ふむ、出来上がったようだね」


 ブルモンド・霊歌は工房へと入り縁が使っていたウサミミカチューシャを持ってくる。


「ほれ、特に異常は無かったよ」

「ありがとうございます」


 縁はスペアと自分の使っていたウサミミカチューシャを取り換えて借りていたのを返した。


「リステイナちゃんはお腹すいたからそろそろ帰る」

「リステイナ、貴方は結局何しに来たのかしら?」

「セイザしゃんそりゃ特に意味も無く茶化しに来ただけに決まってるじゃないでゲスザマス」

「聞いた私が馬鹿でした」

「ばあちゃん、お茶御馳走でした、オイラは一足先にすたこらさっさしやす!」


 リステイナは自分の影へと潜り込みその場から消えた。

 それを見た東洋は立ち上がり縁達も続く。


「我々も失礼するとしようか」

「そうですねお父さん、霊歌様ご馳走様でした」

「ブルモンド・霊歌さん、今度来る時は手土産持って来ますよ」

「ではその時を楽しみにしとるよ」


 ブルモンド・霊歌はニコニコと手を振る。

 セイザは指を鳴らして東洋と共に消え、縁は両手を合わせて白い光と共に消えていった。

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