第一話 ロールが主流のオンラインが正式稼働その6

 そんな話をしながら鳥居をくぐり抜け、短い参道を歩いたら拝殿が見えてきた。

 拝殿の前には少年が居てお願い事をしているようだ。

 縁は少年に近寄った、風月達は少し離れて縁を見ている。


「少年」


 縁は少年の背後から声をかけた。


「ひっ!?」


少年はびっくりて腰を抜かし尻餅をつく、強張った顔をしながら縁の方を見上げた。


「大丈夫かい?」


 縁は少年に手を差し伸べた。


「おじさんだれ?」


 少年は縁の手を掴んだ。


「おじさんはちょろっとしたお使いだよ、さ、立てるかい?」


「うん」


 縁は少年を立たせてあげた。


「念入りにお願いしていたようだけど、何をお願いしてたんだい?」


 縁はしゃがみ、少年と目を合わせた。


「お父さん、悪い人を捕まえる仕事をしているんだけど、遠くに行ったお父さんが無事に帰ってこれるようにお願いしてたの」


 少年はジッと縁を見ている。


「こんな場所に来なくても神社はたくさんあるよ?ここは夜危ないからね」


 縁は少年に対して微笑みかけている。


「だって……お金が無いと神様は願い事を聞いてくれないって、僕、お金持ってないし」


 少年は今にも泣きそうな顔をした。


「そうか、そんな神様が居るのか……でも安心しな少年」


 縁はジッと少年を見ている。


「ここの神様はお金なんかよりも、気持ちで願いを叶えてくれるんだよ」


 縁は拝殿を見た。


「え? どうして? 神様ってお金で願い事叶えてくれるんじゃないの?」


 少年は涙を浮かべながら縁を見ている。


「お金で幸せになれるんだったら、みんな幸せになってるよ、それより重要なのは気持ちだよ」


「気持ち?」


 少年は自分の袖で涙を拭った。


「そう、気持ち…君のお父さんが無事に帰ってくるようにって純粋な願いが大事なんだよ、少なくともここの神様はお金で願い事を叶えるような神様じゃないよ」


 縁は立ち上がり、少年を見下ろした。


「じゃあ、ここの神様は僕の願い事叶えてくれるの?」


 少年は期待の眼差しで縁を見上げた。


「ああ、君の願いは神様に届いたよ、何より君は」


 縁はそっと、少年の頭に手を置いた。


「運が良かったな」


 縁は笑って少年を見た。


「そろそろ暗くなるから帰りなさい、ここらへんは暗くなると明かりが無いからね」


「うん、わかった」


 少年は縁から離れ、参道へと走った。


「じゃあね! おじさん」


 少年は神社から去っていった。


「ふむ」


 縁は拝殿の周りを見た。


「あの少年が掃除してくれていたのか、神社が少し綺麗だな」


 拝殿の周りはまばらに雑草が生えてる程度だった。


「ここまで信じられたら叶えてやらなければなるまい」


 縁は拝殿のお賽銭箱に近寄った。


「欲望の無いお賽銭は叶える価値があるな」


 縁はお賽銭箱を見た。

 風月が縁の近くに来た。


「そいや、縁は何の神様なの?」


「俺か?」


 縁は風月の方を見た。


「縁結びと幸運の神様だ、とは言っても俺は神様としては下っ端だからな」


「おお!縁結びとな!」


 風月は自分のポケットをあさり、四角いお金を取り出し賽銭箱の真ん中に立った。

 そして、軽く会釈をし鈴を鳴らす。


「とう」


 風月は四角いお金を賽銭箱に入れた。

 その後、二回頭を下げておじぎをする。

 風月は両手を胸の高さで掌を合わせ、合わせた手の右手を少し下にずらし二回拍手する。


「素敵な出会いをします、見ていて下さい」


 拍手した後、ずらした指先を元に戻した。

 そして最後に一礼した。


「目の前でお願いされると、どんな反応していいかわからん」


 縁は風月を見ながら苦笑いした。


「お願い? 違うよ」


 風月は縁の目をじっと見た。


「幸せは自分で叶えるものだよ、神様は見守ってくれるだけ」


「つまり、見守れと」


「まさか、神様への願い事は自分の誓い、ま、目標みたいなもんだね」


 風月は頭の後ろで両手を組みながら笑った。


「答えが満点だな」


 縁はため息しながらウサミミカチューシャを着物の袖から取り出した。


「頑張りなよ、出会いの神との約束だ」


 縁はそう言いつつウサミミカチューシャを自分の頭につけた。

 すると元々生えていたウサミミは無くなり、服装も白い濃い霧が晴れるように縁の身体から離れていった。


 縁の格好はジャージ姿に戻った。


「つ、疲れた、すげー疲れた!」


 縁は元の姿に戻るなり、地面に座り込んだ。


「お疲れ様、縁、疲れた時はこの信仰心ジュースを飲むといいだろう」


 グリオードは何時の間にか縁の背後に居て、どこからともなくジュースを取り出し縁に渡した。


「って、なんだよその胡散臭いジュースは?」


 縁は振り返り、グリオードを見上げ文句を言いながらも差し出されたジュースを受け取った。


「俺の会社で作った新商品だ、安心しろ実際は試供品のスポーツドリンクだ」



 グリオードは満足げにジュースの缶を見ている。

 ちなみに缶に書かれているうたい文句は。

 これを飲めば信仰心向上なるかも!ぜひお試しあれ!!

 と、書かれているが注意書きで実際はただのスポーツドリンクです、このような効果は一切ありません、と注意書きされている。



「試供品のスポーツドリンクを俺に宣伝するな、買えってか」


 スポーツドリンクのプルタブを起こし缶の蓋をあけ、飲み始める縁。


「買えとは言ってない、ただ」


 グリオードは縁を見ながらニヤリと笑った。


「プラシーボ効果が期待できるかのテストだ」


「いや、そのテスト意味無いだろ!」


 縁はスポーツドリンクを飲み干したようだ。


「あー、俺の神社ゴミ箱なかったんだよな」

 

 縁は辺りを見回した。


「仕方ない、ゴミは俺が持ち帰ろう、祟られたらかなわないからな」


 グリオードは縁から空き缶を取った。


「ま、いい事はないだろうな……ってか」


 縁はまた辺りを見回した。


「斬銀さんはどこに行ったんだ?」


 縁は風月を見た。


「ん?ああ、あたしが死角になってんのかね?ほい」


 

 風月は右に軽く両足でジャンプした。

 死角になって見えなかったが、縁から見て斬銀は居た。

 斬銀は上はタンクトップ、下はジャージ、頭には麦わら帽子。

 背中にはカゴを背負って草取りをしていた。



「ざ、斬銀さん、何で草取りしてるん?」


 縁は立ち上がり、斬銀の方えと歩く、風月、グリオードもついて行く。


「昔、俺は神子みこをやってた事があってな、神社が雑草だらけだと気になってしょうがないんだよ」


 斬銀は背負っているカゴに雑草を取っては投げ入れ、取っては投げ入れている。


「斬銀さんて色々やり過ぎでしょ、世界を敵に回したり、勇者パーティーの一員だったり、有名きなこもちのオーナーだったり」


 縁はため息をしながら首を横に振った。


「仕方ない、ここは私に任せてもらおう!」


 風月が両手を上げてバンザイした。


「風月も草取り手伝ってくれるのか?」


 斬銀は手を止めて風月を見た。


「回れ右だけで草取り出来るよ」


 風月は腰に両手をそえて、えっへん!と意気込んでいる。


「は? 回れ右?」


 縁は目が点になりながら風月を見た。


「ま、百聞は一見にしかずよ」


 風月はその場で姿勢を正した。


「よーし、いくぞー」


 風月は背筋を伸ばしてビシィっと立っている。


「回れー右!」


 風月は右足を下げ、次に半回転し、右足を元の位置に戻す。

 一つ一つの動作がビシッとしていて、完璧な回れ右である。

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