その物語は現在進行形か? それとも既におきたことか?

 小説を語る視点はどこにおくべきか、人称はどれにすべきか。


 初めて小説を書きだした時、混乱しましたよね。私など未だに頭を悩ませます。


 視点と人称の問題は詳しく解説なさっている方もいらっしゃることでしょうし本格的なことはそちらにまかせますが、とりあえず私が心がけていることを一つ伝授したいと思います。これを意識しているとかなり書きやすくなると思いますので。


 それは以下のようなものです。


・語りたい物語は現在進行形でおきていることか? それとも既におきたことなのか?


 それさえ決め、ルールを守って書くとかなり楽になると思いますよ? 

 そして、個人的に「かつて起きたことである」という体裁をとると小説は書きやすくなると思います。



 現在進行形の物語といいますと、主人公が自分が体験していること、目の前でおきていることを読者にむけて実況しているような小説のことですね。主人公の目がカメラであるライブ感があるストーリーといいますか。

 主人公がこれから何が起きるか知らない以上、ラブコメや青春もの、ホラー、サスペンスものやデスゲームものに向いているように思います。ミステリーにも使えるかな?


 現在進行形である以上、主人公、ないしカメラ役となる人物は、物語が起きているより昔のこと、そして現在のことしか知らないわけです。物語内でこれから起きることは当然知りえません。

 現在進行形の物語なのに「私はこの後でこう思った」「僕はこれからこの日のことを折に触れて思い出すようになる」などといった、これからの未来を知っているような表現がが出てくると、読む人は混乱します。ついでにいうと、一人称小説なら主人公の視界に入らない出来事、知識の範囲外にあることを語ってはいけません。主人公の視点からカメラを動かさない三人称小説でも同じようにした方がいいでしょう(主人公が感知しえないことを読者に知らせる必要があるなら工夫が必要)。



 すでに起きたことを語る物語といいますと、「むかしむかしあるところに……」から始まって様々な形式がありますね。「いづれのおほん時にか、女御更衣あまた侍ひ給ひけるなかに」やら「或日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。」やら「これは、私が小さいときに、村の茂平というおじいさんからきいたお話です。」やら……。

 調べてみると、小説のほとんどが「かつて起きたことを語る」のバリエーションと呼んでもよさそうなくらい様々な形式がありましいた。

 物語が、物を語るものであるという以上、「おきたことを語る」の方が原型に近いからでしょうか(ちなみに例にあげた冒頭はお手軽に「源氏物語 冒頭」「近代文学 冒頭」などをグーグル先生に聞いて出てきたサイトから紹介されたページから引用しました。冒頭だけ読むというのもなかなか興味深いものでした。結構勉強になりそうです。お暇な時にお試しください)。


 「既におきたことを語る」場合、当然語りたい出来事の決着はすでに知っていて、それを語ろうとしている人物はそれらすべてを知っていることになるわけです。

 語り手が物語ろうとするテーマを選択し(「英雄の叙事詩」「少年のボーイミーツガール」「手に汗握る冒険」何でもよいです)その上で、様々なエピソードの断片を選び、語り手が編集し、脚色し、聞き手の関心を手放せないよう興味を与えながら語るわけです。


 個人的にですが、小説を書く際、物語を現在進行形で語る方式よりかつて起きたことを語る形式を好むところがあります。

 語り手となる人物の位置やカメラの視点次第で、メインで語りたい物語の時世にとっては未来の情報を恣意的に入れることができるなど、工夫のし甲斐があるためです(ただし独りよがりに堕するという危険性もある)。

 

 そして、アバンタイトルを採用したい場合は、その効果が映えるのは圧倒的に「既におきたことを語る」形式ではないかと思います。ファンタジーにSF、ある種のミステリーなどに用いるといい感じに雰囲気を高めることができるのではないでしょうか。


 大昔の伝説を村の古老的にな人物に語らせてもよいし、ある国の歴史書に語られている史実であるとしてもよい。

 小さな集落で謡われている血なまぐさい事件を暗示したわらべ歌をアバンで採用し、本編でそれにちなんだ猟奇事件と解決編を展開する――というミステリーもできそうです。

 色々と工夫のし甲斐があると思いますよ。

 語りたい物語の雰囲気とテーマに合わせて試行錯誤してみてください。



 ただし、「かつて起きたことを語る」形式には圧倒的に「語る」スキルとセンスがいるという大問題があります。まあこれは「現在進行形で起きていることを語る」形式にも不可欠スキルになると思いますが。



 最後にその点にだけ触れてみたいと思います。

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