アバンタイトルで必要なこと

 とりあえずまず「アバンタイトルでしなければならないこと」を挙げてみましょう。

 先の章で『ワンピース』を挙げましたので、ここでもまた参考に致します。


 『ワンピース』アバンといいますと、ゴールドロジャーの処刑シーンになるわけですね。そこで基本情報をそれとなくちりばめます。


 ・処刑された大海賊がワンピースなる秘宝を手に入れたこと

 ・世界のどこかにあり、あまたの海賊がそれを求めて冒険していること。

 ・そんな血の気の多い海賊達が群雄割拠している、架空の世界の「大海賊時代」なる時代の冒険物語であること。


 これらの他に、漫画ですので視覚的にカリブっぽい世界をベースにした海賊風の冒険物語が始まりますよ。処刑シーンなんてあるくらいだから、アウトローたちが主役のちょっと荒っぽいことも起きる掲載誌らしい活劇漫画になりますよ……等と、その気になればいくらでも情報は読み取れますね。



 つまり、アバンでやらなきゃいけないのは


・作品の基本的な趣旨を伝える。

・作品のおおよその雰囲気を感じさせる。


 この二つ!

 それだけは、絶対に、何が何でもやらなければいけない。そのことが見えてくるかと思います。


 基本的な趣旨といいますと、物語の縦軸ですね。「魔王を倒す」「お姫様を掬う」「好きな子と両想いになる」「トラウマを克服して成長する」等……。


 おおよその雰囲気といいますと、「魔王を退治する正統派のハイファンタジーにしたい」とご希望でしたら、吟遊詩人に登場させて「これは魔王を退治した英雄の物語~」とか焚火の傍で竪琴でもつま弾かせながら歌わせるなどすると読者もおのずと雰囲気を察することができるでしょう。

 そんなハッタリをきかせたアバンから、章をきりかえて本編を開始。未来の世界では偉大な英雄として語られることになることを知らない、とある少年の旅立ちが語るというやり方がベーシックではありますまいか。

 

 「魔王を退治するファンタジーだけどちょっと変わった雰囲気にしたい」とご希望なら、たとえばヨレヨレになった中年男が席がたまたま袖すりあっただけの狂言回し的な人物に一杯の酒をおごられ、「礼にこんな話を聞かせてやろう」という体で語りだす――というのはどうでしょう。

 アバン以降の本編では、ヨレヨレの中年男とは似ても似つかない溌剌とした少年が旅にでます。この少年がいずれアバンに出てきた中年男になるの? それとも別の人物? 実はあの男とまるで関係ない話? ――という関心でしばらく読者をつなぎとめることができるかもしれません。



 ちょっとまって、さっきの酒場にヨレヨレの中年男がやってきて一杯の酒をおごられたお礼に昔話を語りだすってなにそのシチュエーション? ――となった方がいらっしゃいますでしょうか?

 すみません、単に私がこういうシチュエーションが好きなだけです。


 

 話を続けますね。

 まあ、言いたかったことは、このアバンをどのように語り、どのように演出するかで作品のイメージが象られ、本編への興味を持続できるかも決まってくるというようなことですね。


 小説を書く、それもわざわざアバンを用意するならば各々の腕の見せ所的な大事な場面ではないかと思います。


 ですので「序章を用いてなにやら意味ありげに語った夢が、実は主人公の見ていた夢でかつてのトラウマを追体験していたのでした」というのが早々にばらされるとギャフンとなる理由がお分かりいただけるのではないでしょうか。

 ――わかりませんか。それは私の不徳のいたすところです。


 

 ともあれ、とりあえずアバンを利用して作品の雰囲気を格好良くしたいという人に向けて、「これやるとそれなりみ見栄えがするんじゃない?」というテクニックをあげておきます。



 ・アバンと本編は時代を変える。語り手を変える。人称を変える。

  とにかく雰囲気をごそっと変える。



 安直な手ですけどね……。



 なお、小説ではアバンはくどくど長くやらない方がいいでしょう。漫画だって一ページ、アニメだって数分です。

 短く、端的に、情報と雰囲気を伝える。これが肝要ではないでしょうか。難しそうですけどね。言うは易し行うは難し、ですね。




 ――というわけで、上手く決まると大変カッコよく作品の質の向上につながるアバンタイトルというものに関する私見をのべてみました。


 本エッセイの趣旨としてはここで終わっても良いのですが、まあせっかくですので「アバンタイトルを用いた作品にしたい時は、こうすると書きやすいのでは?」ということについて語ってみます。


 よかったら読んでやってください。

 

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