第53話
まず僕は互いの位置を確認した。
前方に階段。僕の後ろにはアヤセ、レイチェル、ヒラリ、アイリス。
ほとんど同じ位置にカズマ。少し前にゲンジ。
そしてその前にリュウがいた。
あれだけの戦いでもしっかりと立ち回ったリュウに僕らは素直に上手いと褒めた。
「もらった!」とリュウも自分の勝利を確信し、走った。
階段に向うリュウを見て僕はどうやら僕が盾で邪魔しなくても競争には勝てそうだと安心する。
そう思ってた矢先、ぽてぽてと走って来たアイリスをカズマが抱きかかえ、更に加速して僕の横を走って行った。
何をする気だろう? と首を傾げていると、更にその後方ではレイチェルが詠唱を開始していた。
「・・・・・・何かする気よ!?」とアヤセが気付く。
レイチェルの前方に赤い魔方陣が現われる。
あれは、確かと思っていると、前方ではカズマがゲンジに指示を出していた。
「ゲンジ、アイリス、ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」
・・・・・・ん? どこかで聞いた事のある言葉に僕の思考はそこで停止した。
前方ではアイリスを抱きかかえたカズマを更にゲンジが担いでいる。
既に階段を登っているリュウが振り返り「来るのか?」と危機感を示す。
なんだこれ?
さっきまで詠唱していたレイチェルが半ば呆れながら魔法を使用する。
「どうなっても知らないんだから!」
デトネーション。つまりは爆発だ。
それがカズマ達の足下で起きた。大きな炎と煙が上がる。
「ええっ!?」
僕とヒラリは驚き、「アホだわ」とアヤセは呆れてながら手元を動かした。
僕らを尻目に爆風によって打ち上げられたゲンジの体が階段へと向っていく。
そして階段の三分の一程の所に着地するとほぼ同時に、担いでいたカズマを「おりゃあ!」と上方へ投げた。
カズマの体は飛ばされ、階段全体の真ん中辺りを駆け上がっていたリュウを追い抜いていく。
「悪いな」と不敵な笑みを浮かべるカズマだったが、その姿は正直間抜けだった。
「ちくしょう! 俺より目立ちやがって!」とリュウは悔しがる。
どうでもいいけど後方で満足げなゲンジはもしかしたら結構な歳なのかもしれない。
リュウより少し上の階段に着地したカズマは、さっきのゲンジ同様に抱きかかえていたアイリスをアメフトでもするみたいに「行けえ!」と上へ投げた。
もう無茶苦茶だ。
投げてからすぐにリュウがカズマの横を通過するが、どうにもアイリスには追いつきそうにない。スキルを使っても素早さ的に負ける差だった。
「くそ! 俺も投げられたいぜ・・・・・・!」
羨むリュウに僕はそこじゃないだろと内心つっこむ。
そのリュウの願いを叶えられているアイリスはボスエリアに続く階段を飛ぶように上がっていった。
「自由の翼! 仲間との絆! これがボクらのチームワークにゃぁぁぁ!」
投げられたアイリスは気持ちよさそうに叫んだ。
そこにさっきまで狙いを付けていたアヤセが無表情で睡眠弾をどんっと撃ち込んだ。
それは見事に飛んでいるアイリスを仕留めた。
「ごふっ――」
苦しむアイリス。その腹には砲丸投げの球くらいの弾丸がめり込んでいる。
「あんたらのアホに付き合ってられるか」
アヤセはそう言ってバレルの先から上がった煙をふっと吹いた。
僕とヒラリはおおーと見事な腕前に拍手を送る。
撃ち落とされたアイリスはそのまま階段をぼよんぼよんと弾みながら落ちていった。その目は瞑られ「ねんネコニャ~」と気持ちよさそうに眠っている。
階段を登るリュウは落ちてきたアイリスを蹴り飛ばし、そして、頂上に到着した。
「いっちば~ん!」
嬉しそうに槍を掲げ、リュウは僕らの方を見下ろした。
下で見上げていた僕はほっとし、アヤセは当然と胸を張り、ヒラリはわあぁーと笑顔でぱちぱち手を叩いた。
それを見てカズマは「くそっ!」と階段を拳で叩く。
どうやら本気でやっていたらしい。まあ確かに勝つ為にはこれしかなかったのかもしれない。
にしても意外な一面を見てしまった。案外みんなお茶目なのかもしれない。自覚がないのがちょっと怖かった。
かくして最後のレースで僕らエデンは勝利した。
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