第54話

 最後のボスに挑む前、僕らは少しだけ時間を設けた。

 後ろから追ってくるパーティーはいないし、いたとしても順番は最後だ。

 一番上の小さなフロアの入り口で話し合う。

 リュウは後一歩でボスエリアに入れるという所で立っていた。隣には小さな扉が宙に浮いている。

「負けたよ。最初は譲ろう」

 カズマの声はどこか優しく、僕らを認めてくれていた。

 しかしその声はまだ諦めてなかった。

 当然だ。今までのダンジョン難易度からいって、ラスボスが簡単なわけがない。

 むしろ、初見で全滅するのは当り前の難しさである可能性大だ。それでもこのサーバーで最初にラスボスに挑戦できる事はある種の名誉だった。

「うん。まあ、なんとか頑張るよ」

 自信があるわけじゃない。けど簡単に負ける気もなかった。

 僕らのプレイにヒントを得たルーラーにキャンペーンを掠われるかもしれない。

 でも僕らは全力で立ち向かう事を誓っていた。そもそも出し惜しみしてクリア出来る難易度なわけがない。

 カズマはまた柔和な口調で態度を僕らに向けた。

「勝てなかったから言うわけじゃないが、お前達は強い。良いパーティーだよ。手放してそれが一段と身に染みた。だから先にクリアされてもそれほど嫌な気分にはならないだろう」

 そしてカズマは僕に右手を伸ばした。

 僕が握手に応じると、カズマは言った。

「ベストを尽くせ。屍は俺達が拾ってやる」

 僕はそれを聞き、肩をすくめて小さく笑った。

「お手柔らかに」

 それを見ていたリュウが隣の扉をコンコンとノックする。

「そこまでにしようぜ。こっからが本番だ」

 その声は真剣で、同時にワクワクしているのが伝わる。早くやりたくてしょうがないって感じだ。

 それは僕も同じだった。それから僕らはリュウの元へと向った。

 二つのパーティーが小さなエリアで分かれる。僅かな距離だったけど、その幅は大きかった。

 その意味が分かっている僕らがいつまでもここにいるわけにはいかない。

「じゃあ、行ってくるよ」

 僕はそう言って、扉を開いた。光りが僕らを包むと、僕らは塔の天辺へと移動した。

 曇っているが空と荒れた海が見える。そして、最後の敵がそこで待ち構えていた。

 僕は手を握ったり開いたりしてから息を長く吐き、集中力を上げた。

「・・・・・・・・・・・・よし。始めよう」

 僕がそう言ってキーボードを叩くと、ヒロトは剣と盾を構えた。

 ここからは出たとこ勝負だ。

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