第43話

 真新しい盾は格好良かった。

 ゴトーの腕に感謝しながら、僕は古塔でドラゴンが吐く炎を受け止める。

 耐熱、対龍仕様の赤い宝石が熱加工で埋め込まれた青と白の大きな盾は味方へのダメージを無くし、自らへのダメージも半減させた。

 同じタンクであるゲンジが必要だと言った全ての要素を鍛冶師のゴトーが組み込んでくれた。

 高く付いた。ほとんど全財産が消えた。でも僕は歯を食いしばって買った。

 しかし襲いかかる小型ドラゴンは素早く、僕一人ではヘイトを稼ぎきれない。中型ドラゴンの攻撃を受け止めるので精一杯だ。

 それを理解してくれたゲンジが後ろから颯爽と出ていく。

「わが輩に任せろ」

 小型ドラゴンに斧で斬りかかるゲンジ。斧は攻撃力がタンクの中で一番高い為、あっという間に一体倒してしまった。

 こういうのを見ると斧も悪くないなと思ってしまう。

 僕らの後ろでは攻撃を任された四人が苛烈に行動していた。

 リュウはリーチと火力を活かし、ドラゴンを突いていく。カズマは両手剣で敵の体力をザクザクと刈り取っていった。

 レイチェルは後方で詠唱し、巨大な雷撃を敵全体に飛ばしている。

 アヤセはレイチェルの横で撃ちながら、全体を見渡して忙しそうに強化弾をばらまいた。

「まったく、うちの大将は懐がでかいぜ。感謝しろよクソチビ!」とリュウ。

「何が感謝よ! 別にあんたの為にやってるんじゃないから!」とレイチェルが抗議する。

「あんたらちょっとはじっとしてて! 当てにくいじゃない!」アヤセは注文した。

「やるからにはちゃんとしろ! 火力が足りてないぞ!」カズマは相変わらずだ。

 攻撃部隊とタンクの間に出来た安全地帯にはヒラリとアイリスが目まぐるしく変わる僕らのヒットポイントバーと格闘している。

 ヒラリは白い光の魔術で僕らを癒やし、アイリスは回復役の精霊をピンチになったプレイヤーの元へ向わせる。

「ちゃんと回復するので心配しないでください」とヒラリは気合い十分だ。

「お兄ちゃんがピンチにゃ! 回復するにゃー」アイリスはやけに僕への回復をしてくれた。

 けどお兄ちゃんはやめて欲しい。

 ちなみにゲンジがパパで、カズマがマスターで、リュウがリュウ君だ。リュウはちょっと寂しそうにしていた。

 そう、僕らは共闘を選んだのだ。

 ただ、簡単な事じゃない。共闘をすると一時的に疑似のパーティーが組まれる。

 それが確認されるとゲーム側が難易度を調整する仕組みになっている。だから別に楽になるわけじゃない。

 けどそれは通常はの話だ。もし八人が完璧な連携を組めたら、それぞれの力が乗算され、四人でやるよりは遙かに強力な軍団と成り得る。それがこのSF0の面白いところだった。

 しかし問題があった。

「最後のボス戦はどうする? ダンジョン攻略は人を増やせるが、ラストのボスステージに入れるのは一つのパーティーだけだ」

 共闘の提案にカズマは冷静な問いを返した。つまりどこまで共闘するかという問題だ。そしてそれは僕にとっては分かりきっていた事だった。

「別に、同じだよ。競争すればいい。最後の階層で目処がついたらそこからレースだ」

 それを聞いてリュウがにやりと笑った。こちらは当然リュウが走る。

 対してあちらのメンバーは斧使いに両手剣に魔道士に精霊使い。足が速そうな者はいない。

 悪いけど、僕は負ける気はなかった。

 カズマは考え込んだ。すんなりと否定しないあたり、もしかしたら同じ提案をしようとしていたのかもしれない。

 そしてしばらくの間が開き、「分かった」と頷いた。

「だが条件がある。最終エリアの敵を一掃した瞬間からがレーススタートだ。いいな?」

「分かった」

 僕とカズマが握手をする。こうしてエデンとルーラーは手を結んだ。

「言っておくけど、あたしはどちらかというと大反対だからね!」

 空を飛んでくるドラゴンを尖った龍塵弾で撃ち落としながらアヤセはそう言った。

「そんなのこっちもよ! 馬鹿リュウのせいで全滅したら一生呪うから!」

 レイチェルの前にある空間に三つの魔方陣が浮かび上がる。そしてそこで練られた魔力が小型のドラゴンに向って砲撃を始めた。魔力の結晶が敵を襲う。

 やっぱりこの二人は似ているのかもしれない。文句を言いながらも素晴らしい手順で道を切り開いてくれる。それに本当に嫌ならそもそも参加していないはずだ。

「うん。ごめん。ありがとう」

 僕は礼を言いながら前方の中型ドラゴンを盾で押し込む。

「そうよ! ヒロトはもっとあたしに感謝しなさい! あたしだけに!」

 レイチェルはどこか嬉しそうに口を尖らせた。

 会話中も敵のドラゴンは次々と現われる。

 本当におかしい難易度だった。一瞬の気も抜けない。

 けど僕らはそれを心から楽しんでいた。僕がやりたかったのはこれかもしれない。

「お兄ちゃんを回復するにゃー」アイリスが精霊を僕へと飛ばす。

「あの、ヒロト君はわたしがやるんでそっちはそっちのメンバーを回復してください」

 ヒーラー同士でも色々とあるらしい。

 珍しくヒラリが誰かに早口で意見していた。きっと僕らタンクには分からない技術練度があるんだろう。

「む、そんなこと言うと、精霊とばしてあげないにゃん!」

「結構です。オートヒール装備なんで」

 声は親切そうだが、何故だかヒラリが少し怖かった。

 だけどこっちも暇じゃない。回復は専門職に任せておこう。

 僕は同じタンクのゲンジに提案した。

「ゲンジさん。ターゲット交換しましょう。先にこっちをお願いします」

「いいですとも! 展開! 起動! 打ち砕かん!」

 ゲンジの斧がガシャガシャと変形する。斧には攻撃モードと防御モードがあり、攻撃モードは長く尖り、防御モードは亀の甲羅の様に短くなる両対応の武器だ。ちょっと格好いい。

 厄介な敵は先に斧使いに倒してもらう。

 その為に僕は相手にしていた紫の鱗を持つポイズンドレイクをゲンジに任し、ゲンジが苦戦していた火を吐くフレイムリザードへボマードソードを放った。

 ターゲットを適時交換し、最適解を求めていく。この作業も新鮮で楽しかった。

 工夫次第でまだまだ楽しくなる。それは僕の中での新発見だった。

 アドレナリンが出ているのが分かる。体が熱い。何か一つでも欠ければこの状況は生まれなかっただろう。

 そう思うと僕は感謝した。今この瞬間に感謝した。

 そのまま僕らは破竹の勢いで快進撃を続け、遂には古塔の八階まで駒を進めた。

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