第19話

 普段ならアラームが鳴っても起きないけど、今回はしっかり起きられた。

 部屋は真っ暗だ。時間は夜の9時。本来起きる時間じゃない。

 僕はすぐに起きて、一階に降り、軽くシャワーを浴びた。体中泡まみれにすると三分ですぐに上がる。

 リビングに行くと母親と姉がテレビを観ながらお菓子を食べていた。

「なにあんた。もしかして今起きたの?」

 僕を見て母親が呆れていた。まあ普通の反応だろう。

 姉は気にせずアイスを食べながらテレビに映る男性アイドルをじっと見ていた。目が怖い。

「うん・・・・・・。ごはんは?」

「冷蔵庫に入ってるけど・・・・・・。あんたちゃんと食べてるの? 昼ご飯も作って置いたのに食べてないじゃない」

「だって、忙しいし・・・・・・」

「どうせゲームでしょ? ちゃんと宿題やってるの? もう夏休み終わるわよ?」

 そう言われて僕は壁に掛かっているカレンダーを見た。八月はあと七日で終わる。

 宿題はもちろんやってなかった。やる気もない。テストさえそこそこ点を取れば単位を貰える。僕はそういう学校に通っていた。

「・・・・・・分かってるよ」

 冷蔵庫から夕飯を取り出した。鮭のムニエルをレンジで温めて、ご飯を盛った。

 そして黙ってテレビを観ている姉の隣に座り、静かに食べる。

 正直、鬱陶しい。姉も母親も何もかもが鬱陶しかった。

 現実の事よりもSF0の事を考えたい。宿題よりもレベル上げたいし、将来よりもボスの攻略法を考えたかった。

 五分ほどで食べ終わると、食器を流しに置いた。冷蔵庫を開けて冷えた麦茶の入った大きなペットボトルを取り出す。

 これでなんとか今日一日を乗り切ろう。お菓子の棚からポテチとせんべいを手に取り、部屋を出ようとすると姉がぽつんと言った。

「どんだけ一生懸命やっても、ゲームはゲームなのにねー」

 その言葉は僕の心をえぐった。腹が立ったけど、言い返せない。

 だからそれが益々僕を苛立たせた。何か言ってやりたい。でもそれだけのものを僕は持ってなかった。あるのはただ熱くなる感情だけだ。

 ゲームは今の僕の全てだ。僕は自分の全てを否定された。

 ペットボトルをぎゅっと握り、テレビを観ている姉を一睨みして、僕は二階に上がった。

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