第18話

「なあ、ヒロト。ちょっと話いいか? いや、まじで眠いんならいいんだけどさ・・・・・・」

 珍しくリュウの歯切れが悪かった。

 僕は眠たかったけど、まだ少しなら起きていられる。

「ちょっとならいいよ。どうかした?」

 嫌な想像が頭を過ぎる。ギルドメンバーと、つまりアヤセやヒラリと上手くいかない。そんな相談だったらどうしようと思ったけど、それは杞憂だった。

「いやさ。リアルでの事なんだけどな。まあ愚痴みたいな話だから聞き流してよ」

 話はこうだった。

 リュウは今18歳らしい。つまり高校三年。僕より一つ上だ。

 リュウの家は代々医者の家系で、親も開業医、二人の兄もそれぞれ医大生になったそうだ。

 当然リュウもその道へ進めと言われているそうだ。学校の成績は抜群で、有名医学部の模試もA判定を取り続けている。

 つまり、リュウは医者になろうと思えばなれる素質があった。けどその事がリュウを苦しめていた。

「別に医者になりたくないわけじゃないんだよ。うちの親は患者さんに好かれてる良い医者だし、俺も尊敬してる。兄貴達も真面目で優しいしな。医者になって人を助ける。それが凄い事だって分かってる。でも、何だかその道に進んでも自分が決めたって言い切れる自信がないんだ。それって何か嫌だろ? 自分の将来なのに、自分が決めてないってさ」

 リュウが言ってる事はなんとなく分かった。

 ただ、僕は夢も進路も決まってない上、テストの成績は学年で見ても中の下。もしくは下の上くらいだ。ゲームと勉強を両立するのは無理だった。

 その点リュウはそれが出来ていて、結果も出している。僕が意見していいのかと思ってしまう程能力に差があった。

「ヒロトは? 夢とかある?」

「・・・・・・今のところはないけど」

「そっか。まあ、そんなもんだよな。俺の周りもなんとなく進学とかそんなのばっかりだし。でも大学って金も時間もかかるわけじゃん? だから俺としてはさ、はっきりした目標があって初めて行く場所だと思ってるんだよ」

「多分、リュウが正しいと思うよ。でも、それを探しに行く人もたくさんいると思うけど」

「まあな。でもそれじゃ俺が納得できないんだよな。性格的にさ」

 リュウとの付き合いはそこそこ長い。

 年数的にはそれほどだけど、ほぼ毎日何時間も一緒にゲームしている分密度が濃かった。

 だからリュウの性格はよく分かっていたし、言いたい事も結構理解出来る。

 でもやっぱりこれは僕がどうこう言って良い問題じゃなかった。

 夢を持っていない僕が夢について言える事なんて持ち合わせていない。

「・・・・・・ごめん。やっぱり分からないや。こうした方がいいとか言えればいいんだけど」

「・・・・・・そっか。いや、こっちこそ困らせてごめんな。最初に言ったけどこれって愚痴だからさ。はっきり決められない自分に対しての。だから聞き流していいよ。じゃ、俺も寝るわ。また後でな。寝坊するなよ」

 そう言ってリュウはボイスチャットを切り、ログアウトした。

 少し寂しそうな口調が耳に残り、僕は無力感に包まれる。

 ディスプレイにはヒロトだけが映っている。

 草原に一人立つ彼ならリュウになんて言ったんだろう?  

 意味もなくそう思ってしまう。何事もはっきり決められないのは僕の方だった。

 現実の僕はちっぽけで、ヒロトと同じ役割を求められても困ってしまう。誰かを助けるなんて無理なんだ。

 僕は天井をぐったりと見上げた。体から力が抜けていく。唯一動いた右手を動かし、僕はSF0からログアウトした。

 すると僕は僕に戻り、無力感は更に増した。それから逃げる様にベッドへダイブし、重くなった瞼を閉じると、意識は夢の中へ溶けていった。

 僕は夢でもレベル上げをしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る