第13話
僕達四人は元々『ルーラー』に属していた。
大きなギルドだし、入るのはそれほど難しくなかった。昔からあるのんびりとしたギルドだ。
けど、それもギルドマスターが交代すると徐々に変わっていった。
新マスターのカズマは全てのサーバーでトップのギルドを創ると宣言し、プレイにストイックさを求めた。
月々にお金を徴収してギルドを大きくしたり、みんなにプレイを強要したりした。
その代りギルドに入り、やる気があればレベル上げや装備作りに協力するし、アドバイスなんかも貰える。
でもあんまりやる気がないのんびりしたプレイヤーや、所属するだけのプレイヤーはマスター権限で追放された。
その結果、弱者は淘汰され、強者だけが残った。所属するプレイヤーのレベルもずば抜けて高いギルドとなり、ルーラーはタイムアタックでは最速となった。
動画サイトやネットの掲示板でも最も有名ギルドだ。
僕はその中でも優秀な方だった。正直カズマは好きじゃなかったけど、ちゃんとしたビジョンがあるギルドはMMOじゃ珍しく、そこに惹かれたのかもしれない。
僕とリュウはチームのトップパーティーに名を連ねた。他はレイチェルとカズマだ。
自分の事でなんだけど、あの時期、実質このパーティーがSF0で最強だったと今でも思える。
そんなある日、問題が起きた。
五段階の内の一番上にランク付けらされたパーティ。それに入ったばかりのヒーラーのヒラリはミスをして、ギルドのパーティーが全滅したのだ。
それも動画配信中に。ダンジョンのレベルは高かったが、それでもルーラーのパーティーが負ける相手じゃなかった。
明らかなヒラリのミス。それは動画を見ていた僕にも分かった。
ヒラリは謝った。チャットで何度も何度も謝罪した。一緒に戦っていたアヤセは気にしないでとヒラリを庇ったが、他のメンバーは規則に従いカズマへ報告した。
動画を見たカズマは激怒し、ヒラリを追放した。
そして庇ったアヤセの事も謹慎と言って一ヶ月パーティーに入れなかった。
結局アヤセもギルドから出た。
それを見てリュウは不快感を露わにした。元々カズマを嫌っていたし、何より何度も謝る女の子を何の恩赦もなく追放するのは正義感の強いリュウには我慢出来なかったんだろう。
言い争うリュウとカズマ。結局リュウも追放となった。
僕はというと、もうただただ情けなかった。
ここは現実じゃない。なのにカズマはここに現実を持ち込んできたのだ。感情やプライドや慢心や上下関係をだ。
それを見て僕は悲しかった。もうやめてくれと思った。でも僕は言わなかった。それもあって、たただた情けなかった。
学校以外の時間を全て費やしたからものから僕は裏切られ、そして裏切ったんだ。
もうゲームを止めようとさえ思った。それでも僕にはゲームしかなかった。
現実世界の僕は誰も助けられず、何も成し遂げられないちっぽけな存在にすぎなかった。
悩んでいたそんな時、リュウに声を掛けられ、ルーラーを辞めて僕は新しくギルドを創った。
それにアヤセとヒラリを誘い、今に至る。
レイチェルの言っていた事は事実だ。
僕は逃げた。色々なものと戦わず逃げ込んだ。
でもその選択は間違ってなかったと思う。ルーラーの信条は僕に合っていたけど、やり方が合わなかった。
今はこのエデンでトップを狙っている。
ヒラリは見違える程上達したし、アヤセやリュウもトッププレイヤーだ。僕もまあ、ほどほどに頑張っている。
しかしMMOは曖昧に出来ている。誰がトップなんて分からないし、プレイヤー同士の戦いだって、装備やプレイ時間、装備なんかを競うくらいだ。
けどその曖昧さは今日破られた。
キャンペーンは今まであやふやだった本当の勝者に日を照らす。同時に敗者もだ。
どちらが正しいかが明らかになる。それは嬉しくもあり、怖くもあった。
でも逃げるわけにはいかない。あの日僕が裏切った僕に対して、答えの一端がここで分かるんだ。
他人からすればとんでもない程くだらないだろう。でも夢中になる事なんて大抵がそんなものかもしれない。サッカー選手だって僕からすればボールを蹴ってるだけだ。
今の僕にとってはゲームは全てだった。
そして、舞台は揃ったのだ。
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