第8話

 誰の言葉もなく、ギルドの全員がログアウトし、再度ログインする。

 ボイスチャットはアプリに変えた。すると大量のデータのダウンロードが開始された。

「・・・・・・重いな」

 早くプレイしたい僕がそう呟くと、リュウは「まあ、いつのもことだし」とのんびり返した。

「これさ、ダウンロードが集中しすぎてサーバー落ちるとかあるんじゃない?」

 アヤセは苦笑しながらそう言う。僕もそれを心配していた。

 SF0は曲がりなりにも人気ゲームだ。大丈夫だと思うけど、前科がないわけじゃない。

 しかし、そんな事を考えていてもしょうがない。

 今話すべきことはもっと他にあった。意外にも最初に口に出したのはヒラリだった。静かでゆっくりしたアニメ声からは容易に柔和な笑みが想像出来た。

「それで、どうしよっか?」

「どうするってキャンペーンの事?」とリュウ。

「そんなのやるに決まってるじゃない。そうでしょヒロト?」

 アヤセが同意を求めてきてくれてほっとした。嫌だと言われたらどうしようと思っていた。

「う、うん。でも、皆の意見を聞かないと」

「意見? 聞かなくても分かるわよ。出る。出て優勝する。これ以外に何があるのよ? ヒロトはギルドマスターでしょ。一応一番偉いのよ。びしっと決めて、あとはついて来いでいいの」

「いや、でもそれじゃなんだか独裁みたいだろ? 僕はそれが嫌でエデンを作ったわけだし」

「・・・・・・まあそうね。じゃあ多数決取りましょう。キャンペーンに出たい人」

「はい」「はい」「はい」「はい」

 見事なまでに皆が肯定した。

 あまりにテンポがよかったので言った後全員で笑ってしまった。

「ね? 最初から決まってたのよ。ちょうど夏休みだし、どうせみんなSF漬けよ」

「うん。そうだね。じゃあとりあえず出るのは決まりって事で。インストール出来たらすぐに受付に行こう」

 皆は僕の意見に分かったと言ってくれ、最初の予定は決まった。それでもまだ時間はある。

 先ほどの放送では、生放送終了後にアップデート内容をサイトにアップするとも言っていた。僕たちは暇な時間をそれを見て過ごした。

 アップデートは多岐に渡り、各ジョブの調整だけでも頭がくらくらする程書かれていた。

 その中でもキャンペーンに関わる大きな点は三つ。

 ストーリー、ダンジョン、エンドコンテンツ。それぞれ膨大な量で、ゲームソフト二本分くらいと先ほどの放送で説明されていた。

 攻略時間も数日、下手をすれば数週間はかかる計算だ。

 しかもあの運営の事だ。何か仕組んでいるに違いなかった。

 今は8月の真ん中辺りだ。夏休みの残りはまだある。僕は予定なんてまるでなく、他のメンバーもそれは同じらしい。

 悲しい事だが、今は嬉しかった。リュウやアヤセなんかはリアルでも友達が多いはずなのに。二人共やれる限りはSFをしている猛者だ。

 話し合いながら、僕はインストール画面をちらっと見た。まだ30分はかかりそうだ。

 僕は自分の空腹に気付いた。起きてから何も食べていない。

 これは長くなるな。そう思い、辺りを見回すが、ろくなものがない。

「ごめん。僕ちょっとごはん食べてくるよ。まだ時間大丈夫でしょ?」

「そうだな。俺も飯食べよ。なんかあったかな」

 がたんと音がした。リュウは席を立ったようだった。

 それにアヤセが呆れ声を出した。

「まだ済ましてなかったの? あたしなんてもうスーパーで三日分の食料を買い溜めたわよ」

 画面越しでもアヤセが胸を張っているのが想像出来る声だった。

 そんなアヤセをヒラリが眠たくなるようなウィスパーボイスで褒める。

「さすがアヤセちゃんだねー。わたしは一応カロリーメイトだけ買っておいたよ」

「当り前よ。ニート廃人と同じだけプレイ出来るなんて夏休みだけなんだから。もしもの為に空のペットボトルまで置いてあるわ!」

「・・・・・・ごめん。僕今からご飯食べるんだけど」

 僕はげんなりしながらアヤセがそのペットボトルをとう使うかを想像しながら席を立った。

 ボイスチャットは付けたままだ。そうする事で僕はあの世界との繋がりを少しでも保とうとした。

 それでも席を立てば僕は僕に戻る。

 目の前には現実が見えない壁みたいに佇んでいた。

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