第3話
【討伐完了】の文字が画面に浮ぶ。同時にアイテムがドロップした。
なんだろうなと僕はアイテムを手に取った。どんなに弱い敵でもこの時はどこかワクワクする。
アイテムはノーマル、レア、シークレットの三種類に分けられている。
ノーマルは勝手に貯まっていき、価値はあまりない。武器や装備を作ったり出来るが、大体は売ってしまう。
レアはそこそこ強い武器の素材になり、売ればそれなりのお金になる。
シークレットはほとんど出ない。レアより強い武器が作れ、売られにくいので市場に出回る事は少なかった。
今回僕がレッドオーガから手に入れたアイテムはレアだった。【オーガの棍棒】。
売れば中々の金になる。人助けをしたんだ。これくらい貰わないと割に合わない。
僕がアイテムを確認し、場を離れようとした時、またチャットが動いた。
>ありがとうございます! あやうく全滅するところでした。
女の一人が僕にお礼を言った。耳が長い。エルフの女の子だ。
緑のインナーに銅の装備、そして魔術師の証であるロッドを持っていた。
彼女は可愛らしく小首を傾げるエモートを使った。
>別にいいよ。じゃあ。
僕は適当にあしらってまた散歩を続けようとした。川の上流に採掘所があったから、少し鉱石を取っておきたい。
するとまたチャットが動いた。今度は小さな種族、ミミクロの女が話しかけてきた。
僕の膝くらいしかない身長の双剣使いだ。露出の多いアーマーをつけている。
>強いですね! 装備も高レベルだし。すごいです!
>それほどでもない。やってたらこんなのすぐに手に入る。
僕は謙遜したが、やはり褒められるのは悪くない。
それにこの装備はレアアイテムを集めないといけないから、すぐには手に入らない物だった。作るのにお金も時間もかなりかかった。
なんだか行きにくいなと思っていたところで、女達の後ろにいた弓使いの男が近づいて来た。
種族はヒューマン。つまりは人だ。
ヒロトと同じ種族だが、顔は中年で背が高い。弓使い専用の黒と白の軽装を身に付けている。足下には地下足袋。装備は和弓だ。少し場違いだが、人気の装備だった。
>ありがとう。もう一人忍者がいたんだが、敵を見て逃げて行ったんだ。やっぱり野良で募集すると安定しないな。
物腰から大人だと分かった。多分ちゃんと働いている人だ。
だが、そんな愚痴を聞いている暇はない。いや、暇はあるけど気がなかった。
>・・・・・・そう、じゃあ僕は行くよ。
>待ってくれ。
男は僕を引き止めた。
さすがにこれは僕も苛ついた。時間は有限だ。こんなところでお喋りするつもりはない。
>・・・・・・何?
>見たところ、かなり上位のプレイヤーだと見受ける。それで提案なんだけど、できれば今から少し俺達と一緒に行動しないか? 見ての通り、俺達はそんなに強くない。これからダンジョンに行くんだが、君がいれば心強いよ。それによければギルドに招待したい。まだ人数は少ないけど、良い人ばっかりだよ。この子達もだ。
>えっと・・・・・・。
>もちろん君の指示を聞く。色々アドバイスしてくれ。どうかな? ソロもいいけど、パーティーも楽しいよ。
男の提案に僕は困った。後ろの女の子達も期待の目で見ている。
さっき野良、つまり面識のないプレイヤーを仲間にして全滅しかけた事はもう忘れたらしい。
それに僕の方が長くやっているのに、このゲームの楽しさを説かれるのも気分はよくなかった。
僕は少し間を開けて、チャットした。
>・・・・・・悪いけど、辞退するよ。他のギルドに入ってるんだ。今は散歩中。
>そうか・・・・・・。うん。呼び止めて悪かった。助けてくれて本当にありがとう。
>うん。気をつけてね。強いなって思ったらすぐに逃げた方がいい。
僕はそう忠告して、川の上流に歩き出した。後ろでは三人が手を振っている。
なんだか調子が狂うな。ただのきまぐれで助けただけなのに。もし次に同じ状況に遭遇しても、もしかしたら僕は見て見ぬふりをするかもしれない。
だけど、こんな事を思うのも今回が初めてじゃなかった。
性格的になんだかんだで助けてしまう。ナイトを選んだのも多分この性格のせいだ。
うだうだ文句を言いながら、他人に甘い。
もしこの話をギルドでしたら、またみんなにそう言われるだろう。
そんな事を思いながらも僕は採掘所に着き、採取を開始した。
ガキンと大きな音が振り下ろしたピッケルからした。
【ブラッククリスタル】をゲット。これもレアアイテムだった。
今日はどうやらついているらしい。
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