第2話
僕は辺りを見回した。しかし誰もいない。
だがモンスターの名前で大体の位置は分かった。川の方だ。
以前僕もそこでレッドオーガを見かけ、倒した事がある。
レッドオーガはここらじゃ一番強いレアモンスターで、簡単に言えば西洋風の赤鬼だ。
棍棒を武器に巨大な体で暴れる。牙が生えていて、少し腹が出ていた。
ドロップするアイテムも割と良い物が手に入る。それに釣られてレベルの低い冒険者が挑戦し、駆逐されるなんて事が後を絶たない。
いわゆる序盤の強敵だった。
レベルを無視した行動。おそらく彼らもその口だろう。
僕が小川の流れる森の南側にやって来ると、三人の冒険者達がレッドオーガと戦っていた。
男が一人と女が二人。
装備から見てレベルは30くらい。今現在のマックスが50なので、真ん中くらいだ。
弓使いの男と双剣使いの女、そして魔術師の女のパーティーだ。
パーティーは四人制なので一人足りない。恐らく死んだか、逃げたかだろう。落ちるって書いてたから回線の問題かもしれない。
彼らの体力は半分以下になっていた。魔法やスキルを使う為のMPも底をつきそうだ。
対するレッドオーガの体力はまだ三割しか削られていない。どちらが先に倒れるかは火を見るより明らかだった。
レッドオーガやプレイヤーの周りに乱数で表示された数値がひっきりなしに表示される。
僕は少し考えた。
助けるべきか、助けないべきか。
ここで彼らが負ける。それもまたこのゲームの遊び方なんだ。
負けて、今の装備やレベルじゃ駄目だと理解する。そしてレベルを上げて再挑戦。そうやって攻略法を考える。これが真っ当な楽しみ方でもある。
負けるとお金が少し減る。それとセーブするまでに手に入れたアイテムと経験値も消えてしまう。
けどそれだけだ。あーあとは思うけど、もうやりたくないとまでは思わない。少なくとも僕はそうだった。
僕が考えたのは簡単に言うと、楽しんでいる彼らの邪魔をして本当にいいのかという事だった。
そりゃあ、助けて下さいとチャットしたのだからいいんだろうけど、これもまた一つの思い出になるし、案外ボイスチャットでは笑い合っているかもしれない。
僕のギルドなんかがそうだ。
呑気にそんな事を考えている間に彼らの体力は減っていった。
もう逃げる事も出来ないだろう。これは負けるな。
そう思った時だった。女の一人が僕に気付いた。ぴょんぴょんとジャンプする。
・・・・・・やばい。このまま見ていたら薄情な奴だとミゼルカの掲示板に書かれるかもしれない。
そうなれば僕は嫌われるだろう。このサーバーなんて普通の町ほどの人しかいない。
掲示板やSNSで噂はすぐに広まるものだ。
僕は面倒に思いながら嘆息して、彼らの戦いに入って行った。
>大丈夫ですか?
そうチャットしてからレッドオーガに斬りかかる。
そしてスキル、『ボマードソード』を使った。
剣がレッドオーガに当たった瞬間、小さな爆発が起きる。
これで完全にレッドオーガは僕の方へ向いた。いわゆるヘイトを稼ぐという行為だ。
敵にこちらを狙わせ、攻撃させる。その結果、他の仲間を助けられる。
それが騎士、ナイトの役割だった。
タンクと言われるように、攻撃を一心に受け、味方を守るのだ。
>今のうちに体勢を立て直して。
僕はチャットをうちながら、レッドオーガの棍棒を盾で受け止めていた。
ダメージはまずまず喰らうが、これくらいならなんとかなりそうだ。
すると助けられたのが嬉しかったのか、ワールドチャットが流れた。
>きた! 盾きた!
>メイン盾きた!
>これで勝つる!
どうやら彼らには僕の体力が少しずつ減っていくのが見えないらしい。どうでもいいから早く加勢して欲しかった。
いくら僕でも一人でレッドオーガと戦うのは厳しい。アイテムなどを駆使すれば倒せるのは倒せるけど、それじゃあ意味がなかった。
>いいから早くして。
溜息をつきながら僕がチャットすると彼らはようやくアイテムや魔法を使って体力やMPを回復していった。
攻撃されているとそれができないシステムのだ。
だから攻撃を受ける役であるナイト、タンクの役割はこのゲームで大切だった。
体勢が整い、彼らは反撃を開始した。僕は極力攻撃はせず、防御に徹する。
スキル、『ガーディアン』で防御力を上げながら、回復魔法をかける。
ナイトが使える回復魔法は一番弱い『ヒール』だけだけど、強力な盾と鎧に守られたヒロトにはそれで充分だった。
そしてオーガが彼らの方を向こうとした時にボマードソードでヘイトを稼ぎ、こちらを向かせる。
形成は一気に逆転。僕の後ろでは水を得た魚のようにパーティーが楽しそうに攻撃している。
通常攻撃や魔法、スキルを撃てるだけ撃っていた。
たまに僕に回復魔法をうってくれるけど、はっきり言えばそんな事より早く倒して欲しかった。
せめて貰えるアイテムだけでも増やそうと、僕はオーガの牙を狙って攻撃。
何度か剣で叩くと、牙が折れて、僕はアイテムを得た。オーガの牙だ。
それから一分くらいだろうか。弓使いの攻撃を受けると、レッドオーガは苦しそうに呻いて、その場で倒れて動かなくなった。
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