エンド オブ サマー ゲーム

歌舞伎ねこ

プロローグ

第1話

 ――汝、仲間と共に恐るる事無く踏み出せ。さすればそこが道とならん――

                             SF0のキャッチコピーより 


 パスワードを入力して、エンターキーをタイプ。その瞬間、僕は騎士になった。

 騎士の名前はヒロト。

 しっかりとした体系の青年だ。

 自信が垣間見られる笑顔に、黒い髪はかっこよくセットされている。サッカー部やバスケ部によくいるワックスで尖らせたあの髪型だ。

 筋肉質な体に白い麻の服を着て、その上に白と青の鎧を着けている。

 装飾が凝っていて、頑丈そうだが重そうでもあった。動くとガシャガシャ音が鳴る。

 ヒロトの右手には銀色の剣が、左手には鎧と似たデザインの大きな盾が持たれている。

 しばらくロード画面でヒロトの姿と変わりゆく背景が流れた。

 それが終わるとヒロトは始まりの町にいた。

 町の名前はミゼルカ。冒険者達が最初に集まる大都市だ。

 小さな半島がそのまま貿易都市となっていて、白い石で建物や道が造られている。

 買い物が出来る商店街やデパートなどの建物を越して、端の方まで行くと岬になっていた。

 海が見え、どこまでも空が広がっている。ここで釣りをしたりもできる。

 ミゼルカから船に乗ったり、飛空挺に乗ったり、鉄道に乗ったりして旅に出る。

 けどログアウトする度にそんな事をしていたら時間が掛かるから、移動魔法で飛んでいくのがほとんどだ。

 だけど今日の僕は歩いていた。理由はない。敢えて言うならそんな気分だったから。

 慣れてないと迷う町を走り抜け、外へと続く門へ進んだ。

 門の近くに行くと『外に出ますか?』とテロップが出る。

 僕は『はい』を選び、ミゼルカを後にした。

 町から出ると原っぱに出た。その間を土の道が通っている。

 原っぱを見渡すとそこには様々なモンスターがいた。

 小さい鳥の様なモンスター。ネズミの様なモンスター。ゴブリンみたいな小型の人型モンスター。

 しかしそれらのモンスターに僕は興味がなかった。弱すぎて経験値すらほとんど貰えないからだ。

 僕は『ダッシュ』で道を走った。何かないかなと探しながら、過去に幾度となく通った道を走る。

 東にある丘にはストーリーイベントでしか用がない。北は山だけど、登れないようにできている。

 だから僕は西に向った。

 小川にかかった橋を渡り、どんどん奥へ進んでいく。その間に何人かの冒険者にあった。

 そのほとんどがレベルの低いプレイヤーだ。ストーリーを進める為におつかいクエストであっちに行ったり、こっちに行ったりしている。

 面倒な作業だけど、なんだかんだであの時が一番楽しかった気もした。

 僕は更に進み、坂を下り、また登った。

 すると目の前に森林が現われた。

 スルガの森。

 ミゼルカから一番近いダンジョンだ。

 入場に関するテロップが出て、僕は『はい』を選ぶ。ちょっとしたロードがあって、目の前に森が現われる。

 ここは原っぱと比べてある程度モンスターのレベルが高い。

 と言っても、僕が苦労する相手はほとんどいなかった。いるとすればイベントモンスターくらいだが、今はそんなイベントもやっていない。

 適当に目についた宝箱を開けていく。でもよっぽどの事がない限りは欲しいレアアイテムなんて手に入らない。

 散歩もこの辺りにして、移動魔法でもっとレベルの高いモンスターのいるダンジョンに行こう。

 そう思った時だった。

 左下のチャット画面が忙しく動いた。誰でも見られる【ワールドチャット】だ。

>助けて下さい! 仲間が落ちちゃって。敵は【レッドオーガ】です! 誰かいませんか?

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