カーテンコール

 最前列の子どもの観客に向かって、演者はアドリブとして劇中の小道具をくれることがあるんです。

 私ももらいました。私は缶のお菓子の空箱にそれを入れて大事にしていたんです。

 高校で放送劇団部に入り、大学でも演劇サークルに入り、地元を離れてからも、肌身離さず身につけていました。

 そして卒業後は劇団員に入り、下積みを経て演者になったのが今です。

 もうすぐ千秋楽が始まるんですけど、実は子どもの頃に見た劇と全く同じ演目をやるんです。だからいい機会だと思って、私が肌身離さず持っていたこの小道具を、最前列の子供にあげようと思います。

 ずっとこのために生きてきたんです。そりゃあ最初こそ違いましたけど、私が大事にしていたものを、他の人に託すって行為は、ある種の継承だと思ってます。

 だんだん、その継承をやってみたくなったんですよね。過去の自分が継承を受けて同じ劇団員になったように、受け取った子がどうなるか楽しみですね。

 だけど、その子の自由だから、劇団員にならなくてもいいかなって思ってます。

 これはそもそも私の自分勝手な行為だから、継承だなんて高尚な言葉を使うのも烏滸がましいですよね。

 

 だから今日は、この劇の千秋楽であり、私自身の千秋楽でもあるんです。もうそろそろ最後の場面なので、タイミングを見て薬を飲みました。

 最前列に子供がいることも把握しましたし、もう小道具も渡しました。

 最後の場面をやり切って、舞台の幕が下りたら、私は多分「おしまい」です。

 周りの雑音とか色々と聞こえちゃってごめんなさい。

 聞いてくれて、ありがとうございました。

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