出口を知りませんか?
今、浴槽に浸かって電話をしています。ええ。そうです。ドライヤーも準備しています。
頭の中で火花が散って、目の前が真っ暗になる感覚を一度味わったことがあるんでんすけど、あんな感じだと思ってます。今回も。
これ、レンタルしたままのウェディングドレスなんですけどね、旦那にはどうにかしてもらいます。
……ああでも、どうなんでしょう、旦那からも電話があるかもしれません。
どうせ発見してもらえることになってるので、腐敗とかそういうのは考えてません。
死体清掃業者の本を読んだことがあるんです。浴槽で死んだ人間が、ヘドロのようになっていたって書いてたのを覚えています。そうはならないと思います。会社を出たとメールが来たので。
どうなんでしょうね。世間的にはブルーブライド? マリッジブルー? ウェディングメランコリー? とかいうみたいなのに見られるんでしょうけど……ああそうですね、それですマリッジブルーですね、でもそういうんじゃないです。
人って、理由とか動機とか考えるのって好きですよね。私もです。無いものを作り出そうとするのってなかなか面白いじゃないですか。嘘もいくつか重ねれば真実としてカウントされるというでしょう? そういう感じで、憶測が折り重なって真実になるんです……かりそめの、とつけた方がいいでしょうね、今の時代なら。ましてや警察がやってくることは確実だから、しっかりと真実は暴かれるでしょうし。
だけど、今こうしてあなたと話している最後の会話は、通話時刻として残りはしても、内容はあなたにしか残りません。今は、私と共有している状態ですけど、この手のドライヤーを浴槽に落としたら、あなたはもうひとりぼっちなんですよね。かわいそう。
……慣れてます? こういうの。
たくさんの人が死ぬ間際に言った秘密や真実を、あなたみたいな人たちはたくさん、孤独に溜め込んでいるわけじゃないですか。誰にも言えないストレスはよくわかるんです。すごく辛いんです。私が死んでしまおうと思ったのも、元を辿ればそういうストレスが原因だから。
みんな出口を探してるんだなって、一度思ったことがあります。
吐き出したり、捻り出したりするようなものが誰しもあって、出さないまま溜め込んじゃう人がいて、水風船みたいに割れちゃうような感じになっちゃって。悲惨だし醜いなぁって思うんです。割れた風船の残骸なんか、ただのゴムの切れ端なんですよ?
どんなに醜く足掻いても、死に様に比べたら綺麗な方なんですよね。どんなにひどい生き方をしても、死ぬ時はもっとひどくて汚いんです。綺麗な死に方なんて御伽話だけのお話ですよね。
言いたいことを言うための出口を探すのに必死になりすぎちゃって、もういっぱいいっぱいになっちゃいました。こういうの、もっと早くから探せばよかったと思うんですけどね、でも見つけちゃったら、それはそれで依存しちゃいそうで怖くなっちゃって、探すのも億劫になってるうちに、私にはもう出口のない、割れる寸前の水風船みたいに膨れあがっちゃったんですよね。
多分、水風船の欠片みたいに醜い死に様になるんだろうなって思います。
でも、旦那は、多分あの人なら、この格好で死んだ私の姿を、咄嗟に何か別のものに重ねちゃうのかもしれません。
苦しんでるというよりは、やすやすと往生しているみたいに。
綺麗な絵みたいに見えたらいいな。
オフィーリアだともっといいな。
私も好きな絵だから。
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