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[05:33]「この手記を読んでるのかい?」なんて文字が飛び出してきた時にゃ、研究所のしがらみから完全に抜け出したいって希望もなくなった。
[05:34]頭のおかしいことを言うが、この仕事を愛し始めている。生涯を賭けてもいい。この仕事をしながら死ぬつもりですらある。
[05:34]何故かって?
[05:35]人の真っ黒な声を聞きながら、研究員がこれまでどんな気持ちで手記を書いてきたのかを読んでる。そういうことをしても良いだなんて。許されてるなんて。
[05:36]もらえる金額も悪くない。入っては消えて入っては消えてを繰り返してる脆弱メンタルの追い詰められた人間たちが来るところじゃないってのに、誰かと話したいだけだのそういう一心で、金をもらってまで自殺願望者と話をしようとするってのは、純粋に考えても異常だ。
[05:38]おれはそこで録音された全てを聴かなければならない。相談者も研究員も、言ってしまえば願望者だ。願望者同士の会話。これは一種の拷問ですらある。爆音のノイズを延々とヘッドホンから流されるよりもキツい。俺には無理だ。
[05:39]まぁとにかく、出入りの激しい場所だからこそ、きてくれた研究員は手厚く出迎えられ、大事にされる。離れて行かぬように。彼らが持ってる自殺願望を、少しでも解消し、研究に専念できるように。研究所も必死だ。だから金も高いし、設備もいい。
[05:40]この記録室だけは違うがな。
[05:45]もらえる金額は……実は記録係の方が少しだけ多い。扱う資料が資料なだけあって、膨大な量ってのも確かにそうだが、彼らが気にしているのはその内容の方だ。
[05:46]内容か。今更聞いたところで、という感じだが。負担は確かにデカい。だがどうも俺は耐えている方らしい。
[05:47]前に試験的にやってきた研修生に、初回ということで、録音されたうちの最も短い通話記録を聞かせたことがあった。研修生は次の日から来なくなった。後日、死んだらしい。
[05:49]一番短い音声を聴かせてこのザマだ。どう考えても、一人でやる方が効率はいい。
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