葬列と傘

 黒いスーツ姿の男女数人が参列に来ました。私は彼らと面識もなく、ただ知らない友人程度に思っていました。友達は人脈も広く持っていましたから、不思議には思いませんでした。

 ただ、家族の方々は、彼らを知らなかったみたいです。はじめまして、といった言葉を彼らに向けて言っていましたし、何よりも、家族や私たち他の参列した方も、その式場にいる誰も、彼らのことを知らず、面識もなかったらしいです。彼らが来たとき、ヒソヒソと話し声も聞こえてきました。あの人たちは誰だと、みんな口々に言っていたようにも思います。

 式が一通り終わって、家族の方々と話をしました。その時に、「誰なんですか」と訊いたんですけど、みんな言いづらそうな顔をしながら、「ああいう人たちとは関わらない方がいいよ」としか返ってこなくて。どうやら、あまりよろしくない人らしいということだけはわかったもんですから、後日、ネットで調べてみると、彼らについての情報が出てきました。

 正式名称は『絶望保全機構』といい、様々な絶望的な事象についての研究をしている組織だそうです。

 主に、自殺などの研究を行っているらしく、他にも、戦争なども研究対象にしているとか。

 いくつかのルールがあるようで、その一つとして、自殺志願者に対し、直接的に声をかけてはいけないというものがありました。また、興味本位での接触もいけないそうです。つまり、彼らは自殺しようとしている人間に対して、希望を与えるようなことは一切してはならないということです。

 最初、あなた方のことかと思いました。自殺を取り扱っているということは知っていましたから。でも違った。こうして話している限りですけど。なんとなく違う気がします。あの人達のことを更にネットで調べようとしましたけど、それ以上何も情報は出てきませんでした。本当のところ電話番号すらわかりません。情報がないのです。何も知らないし、知ることもできない。葬式に突然現れては去っていくだけ。最初から最後まで、本当に謎のまんまです。

 たしかに他の参列者とはちょっと雰囲気は違いました。スーツやネクタイはもちろんですけど、その下に着ているシャツも黒、手には黒い手袋をしていましたから、顔以外全部真っ黒な格好です。雨が降っていたのですが、傘も真っ黒でした。そんな格好の人たちが、一人だけでなく複数いて、身長とかもあんまり違わなくて。目が悪ければ同じ人がたくさんいるように見えるでしょうね。


 ここに電話をした理由はまさにそれです。いえ、友達が自殺したってのもありますし、あなた方の電話番号のメモがあったからかけたというのもそうですけど。あの人たちの名前もありましたよ。


 メモですか?


「自殺させられそうになっている」みたいなこと書いてましたよ。これってなんか大事なメッセージだったりするんですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る