傘を真上に向けて

HaやCa

第1話

 森のように木々が広がる公園へ来た。ここに来るのは2回目で、またあの人に会えると願ったからだ。

 ずぶ濡れの地面が雨の矢を受け入れる。

 見上げても、ただいたずらで雨はやみそうにない。

 

 僕はノートを広げ、小説のアイデアを走らせる。最近は調子がよく、その手が止まることはまあない。

 僕が今書いている小説は、以前出あったある人との合作だ。いわゆるリレー小説で、あの人もすごく楽しそうだった。


 それ以来、連絡はなく、またここに来れば会えると思った。

 けなげなようで、わがままのような僕の心。

 今日はこの気持ちを書き綴ろう、そう決めた。


 雨に嫌気がさすころ、あの人の足音が近づいていた。

「ご機嫌いかがかしら?」

「まあそこそこです」

 あの人―目の前にいる女性はぼくのノートを一瞥する。遠くから見ても内容はわからないだろうに、そっと微笑んだ。

「随分、書いたのね。これじゃわたしの出番はないみたい」

 ショートカットのその女性は、今日もスーツ姿だ。

 肩に光る雨粒、その女性よりも輝いたのはなぜだろう。

「無心で書いてたらこうなったんです。あなたが来ないせいですよ」

「いうわね大学生。私は仕事、あなたは暇人。そこんところ、ちゃんとわかってる?」

「一応、わかってるつもりです」

 女性は傘を真上に向け、雨粒を払い落とす。

 同じように、空にも陽が見えた。

 いつしか開いた太陽に、僕も女性にも笑顔が戻っている。

 そのことに気づいたころにはもう、小説の大まかな流れは決まった。

あとは筆を走らせるだけ、お互いの気持ちを正確に書いて書きまくった。


 しっとりと木の枝が濡れている。次の瞬間、頭を一気に持ち上げた。

 虚空をなぞる雨粒は、陽を受けても透明なまま。

 僕たちが描く小説の世界は、明日の午後にはだれかの目に留まるだろう。

「ちゃんと投稿しておくのよ。忘れたら許さないんだから」

 女性はウインクして足早に去っていった。


 晴れ渡る空、もはや雨の残滓はない。

 開きっぱなしだった傘を閉じ、僕も帰ることにした。

 寄り道はしない。早くインターネットに投稿したいから。

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傘を真上に向けて HaやCa @aiueoaiueo0098

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